創業5年で新規上場、Z世代から絶大な支持を受けて急成長するアパレル企業yutori(ユトリ)を徹底分析。Z世代に愛されるブランド戦略8つのキーワードとは。
アパレル企業のyutori(ユトリ)が、2023年11月24日、東証グロース市場に新規上場承認された。(上場は2023年12月27日の予定)。アパレル不況といわれる中、起業から5年目の2023年3月期には、年商24億7千万円にまで成長。同社は、中間流通業者や小売を介さずに製品企画から販売まで一貫して行うD2C(Direct to Consumer)ビジネスを軸に、現在22のアパレルブランドを展開、約70%がオリジナル商品で構成されている。インスタグラムを活用した服の販売等「デジタルネイティブ世代=Z世代」をターゲットにしたSNSを起点にしたブランドづくりが強みで、 SNS累計フォロワーン数は260万人を超えている。Z世代から絶大な支持を受けて急成長しているyutori(ユトリ)とはいったいどんな会社なのか。そこから見えてきた、今後の消費の主役Z世代に愛されるブランド戦略に重要な8つのキーワードについて解説する。
Z世代の価値観と消費スタイルの特徴。
私は3年前からZ世代の消費行動について研究し、毎年日本ダイレクトマーケティング学会全国大会でその成果を発表している。Z世代は、今後の消費を牽引していく世代として注目を集めており、若者の消費動向をとらえておくことは、今後の企業経営やマーケティングを考えていくうえで、非常に重要になってきている。
ハイブリッド消費が主流。
一昨年の発表では、デジタルネイティブといわれているZ世代でも、ファッション商品を購入する際は、店舗とネット通販を併用する「ハイブリッド派」が2人に1人。という実態を紹介させていただいた。つまり、デジタルネイティブ世代とはいえ、従来からのアナログ的な価値観と新しいデジタルの価値観が混在しており、そのハイブリッドな価値観こそ、Z世代がこの先の新しい未来を創造していくベースになっていくと考えている。
推し活は不安な時代の拠り所。
また昨年の発表では、Z世代の約3割が推し活にお金を使っている実態を紹介させていただいた。経済的な成熟を背景に、Z世代は、無駄なものにはお金も時間も使わない。その反面、自分が共感したものや好きなものやコトといったコンテンツには積極的に投資している。つまり、メリハリ消費、ハイブリッドな消費スタイルを楽しんでおり、SNSなどのコミュニティがきっかけとなって、推し活にお金も時間も使うようになっている。彼らは、推し活を通して幸せや生きがいなど精神的なベネフィットを求めており、不安な時代の拠り所となっているのだ。
Z世代は現在10代後半から20代の若者。
ここで改めて、今後の消費を牽引していくであろうZ世代について、その特徴や価値観等についておさらいをしておきたい。
もともとZ世代という言葉は、アメリカにおける世代区分のひとつで、1990年代中盤から2000年代序盤に生まれた若者を指している。ざっくり定義しておくと現在10代後半から20代の若者ということができる。
アメリカのZ世代人口は約6100万人。近い将来、アメリカ経済を動かす主役になると言われている。また、欧米諸国では、Z世代人口が他の世代よりも多いことから注目が集まっており、2019年には、世界人口77億人の約3割強を占めるに至っている。
一方、日本に目を向けてみると、Z世代人口は総人口の約15%とそれほど多くなく、マスマーケティングを展開する上ではメインターゲットにはなりにくいといわれている。
Z世代は「スマホ第一世代」。
ただ、Z世代は「スマホ第一世代」であり、ほぼ全てのSNSにおいて利用率が中高年に比べて圧倒的に高いという特性がある。つまり、SNS人口が最も多いので、Z世代の協力がなくては、情報を上の世代に拡散できない構造になっており、他の世代への情報の拡散役、つまりインフルエンサーとして多くの企業が注目し始めている。
次に、Z世代は、生まれた時からものが溢れている環境で育ってきたため、モノやサービスを選ぶ時の眼が肥えていて、自分が購入したモノに対して、納得感を強く求める世代と言われている。また、あらゆるコンテンツを消費する速度が非常に早く、新しいモノに対して軽やかに興味が移っていく世代ともいわれている。
「SNSからの口コミや評価」を重視。
Z世代が消費する際の特徴を見ていくと、まず商品やサービスの購入を検討する際は「SNSからの口コミや評価」といった情報を頼りにしていることが挙げられる。
次に、購入する際には、他の年齢層と比較しても価格の安さや、見た目・デザインを重視することがわかっている。
そして、今しかできない参加型の体験やコンテンツにお金をかける「トキ消費」といった言葉や有名人やキャラクター等を応援する活動にお金をかける「推し消費」といったキーワードがこの世代から生まれてきている。
Z世代が社会の中心になっていく近い将来には、彼らの感性や感覚が、世界や日本の経済をリードしていくといわれており、Z世代の心をつかむ企業や商品、サービスや人が、これからの時代を牽引していくことは間違いないであろう。
学生アンケートを通して知ったyutori(ユトリ)という会社。
みなさんは株式会社yuori(ユトリ)という会社をご存じだろうか。私は、教鞭をとっている京都精華大学の学生アンケートをきっかけに、今年の4月に初めて知った。
学生アンケートは、Z世代のブランド観を知るために、まずブランドという言葉から、思い浮かぶ言葉を挙げてもらった。その結果、高級や高品質、値段が高い、有名、信頼、安心といった、付加価値をイメージする人が多くいることがわかった。
ただ、その一方で、ユニクロなど身近なブランドを想起する人も一定数見られ、ブランドに対する価値観が多様化していることが見えてきた。
次に、好きなブランド名を挙げてもらったところ、ユニクロや無印良品、スターバックス等身近なをブランド名を回答した人が約3割という結果になった。その一方で残り7割の学生はは、私があまり耳にしないブランド名を挙げる人が多く、Z世代にとって好きなブランドは、非常に細分化している傾向があることがわかった。
令和4年版消費者白書を見ると、Z世代は、商品やサービスを購入する際、「品質や性能の良さ」、「価格の安さ」「コスパ」「見た目・デザイン」「口コミや評価」を重視する一方、「有名ブランド・メーカーであること」は重視していないことも明らかになっている。
先述したように、Z世代にとっての好きなブランドは非常に細分化している中で、数名の学生から好きなブランドとして挙がってきたナインティナインティという聞きなれないブランドを調べてみることにした。
ナインティナインティ(9090)を展開する会社こそ、株式会社yutoriだった。
ナインティナインティ(9090)を調べていくと、株式会社yutori というスタートアップが展開するD2Cの中核ブランドで、現在約25万人のインスタフォロワーを抱えるブランドであることがわかった。
ユニクロが日本語で発信する「uniqlo_with」のアカウントのフォロワー数が約37万人であることを鑑みると、9090の人気ぶりがうかがえる。
コンセプトとして、「肩肘張らない生意気さ」を謳っており、90年代の若者のファッションをアレンジした部活少女的なスポーティーファッションが特徴。価格帯は、スウェットで約8000円から12000円と決して安くない中価格帯の展開だが、販売後即完売したり、ポップアップでの長い行列、話題のタレントやブランドとのコラボなどでZ世代の男女を中心に支持を集めている。
オンライン中心の販売だが、全国各地で 『MISSING GIRL』 というポップアップストアをゲリラ開催しているほか、今年の2月には、名古屋市大須に実店舗1号店をオープンしている。インスタグラムの画面を見ても、商品はもちろんモデルや撮影シーンにもこだわっていることが伝わってくる。
株式会社yutori(ユトリ)とは。
ナインティナインティ(9090)を展開する株式会社yutori は、創業2018年のまだまだ若い会社だ。
創業者の片石貴展社長(1993年生・30歳)が、インスタグラム上の古着ファッションのコミュニティ「古着女子」の運営からスタート。開設からわずか1年で20万フォロアーを獲得するほど、古着好きの中では話題になった。
初期投資0円のインスタ起業でスタートした同社だが、その後立て続けに22のアパレルブランドを展開。現在「9090」を核に、「spoon store」「genzai」など複数のD2Cブランドをプロデュースしている。
初年度の売上は1000万円だったが、その後わずか5年で約25億円にまで成長。2020年7月にはZOZOグループ入りを発表。2023年12月、創業からわずか5年で東証グロース市場に新規上場する。
また、昨年11月には自社ECサイト開設し、現在18の自社ブランドを扱っている。こちらは、株式会社yutoriのコーポレイトサイトだが、グラフィカルがデザインが目を引く。また、自社ECサイトのトップページをみても独自の世界観を発信している。
創業者の片石貴展氏とはどんな人物なのか。
ここからは、株式会社yutoriを創業した代表取締役社長の片石貴展氏の横顔を見ていきたい。1993年生まれ、現在30歳の片石社長は、大学卒業後は一旦IT系企業に就職するが、そこで得たデジタルの深い知見と古着好きから培われたストリートカルチャーへのリスペクトを掛け合わせ、大手アパレルがやらない新しい時代のブランドづくりに挑戦している。
挑戦の原動力となっているのは、働く人のそれぞれの「好き」であり、人間が持つ好きという感情を大切にした経営だ。
SNSを通して絶えずウオッチングしている片石氏は、Z世代が、何のために服を着るのか、どのようにSNSを見て購入するのか等、Z世代の消費行動への理解をリアリティをもって実感できる経営者でもある。
また、自身の経験から、マイノリティかもしれないけれど、「反骨精神」を持っている自分たちと同じ志の人とブランドをつくっていきたいというメッセージを発信するなど、精神性を重視したブランドづくりに取り組んでいる。
企業名の「yutori」には、ゆとり世代を代表する新しい企業になるという思いが込められているそうだ。2020年には、世界を変革する未来のイノベーターの発掘を目的に、30歳未満の人物を選出するForbes UNDER 30 JAPAN 2020にも選出されている。
株式会社yutoriのビジネスモデルとは。
次に株式会社yutoriのビジネスモデルを見ていく。同社は、中間流通業者や小売を介さずに製品企画から販売まで自社で一貫して行う D2C(Direct to Consumer)ビジネスを軸に、複数のファッションブランドを展開しており、約70%がオリジナル商品で構成されている。
インスタグラムを活用した服の販売等、「デジタルネイティブ世代」ならではの、SNSを起点にしたブランドづくりが強みで、SNS累計フォロワー数は260万人を超えている。
ブランドは月間売上額に応じて5段階のフェーズに分けて管理しており、ブランド立ち上げ後1年以内に損益分岐点に到達できない場合は原則撤退することにしている。
そして各フェーズで取り組む具体的な施策が示されており、例えば第1フェーズの立上げ期は、オンライン上で熱量の熱いファンと繋がる。フェーズが進んでいくと実店舗の出店も視野に入れる、といった具合だ。
同社は、ストリートテイストとオンラインを組み合わせた「デジタルストリートカンパニー」を標榜しており、東京を起点にアジア全域での展開を目指している。
スタートアップとして、有力起業家の出資を得て事業を拡大してきたが、2020年7月にはZOZOグループに入り株式上場を目指す。その結果、初年度の売上1000万円からわずか5年で25億円まで成長。日本を代表するアパレルD2C企業として2023年12月、ついに新規上場を実現する。
株式会社yu
yutori(ユトリ)が提供するユニークな価値とは。
次に、株式会社yutoriが提供している他社にはないユニークな価値についてみていこう。
まず1つ目が、Z世代の細分化する「好き」に応えるブランド体験を提供していることだ。同社は、Z世代の好きなテイストをいち早く見つけ、そのニッチなコミュニティの中で 共感を生む商品を提供することで、顧客であるZ世代のの自己表現をサポートしている。
次に、SNSを起点としたブランド体験を提供していることだ。基本は店舗を持たずオンラインをメインに、ブランド体験を提供している。ブランド開設当初からインスタグラムを活用して服を販売することで、多くの共感を生み出している点がこれまでのアパレル企業には見られなかったユニークな点である。
3つ目が、ストリートに特化したニッチなブランド体験を提供していることだ。「反骨精神」という精神的テーマ性と「古着からリバイバルして着想を得る」とい洋服的テーマを組み合わせて、独自のコンセプトで複数のニッチブランド体験を提供している点は他のアパレルブランドではあまり見られない。
ユニークな価値を生み出す独自のバリューチェーン。
ここからは、株式会社yutori がユニークな価値を生み出している独自のバリューチェーンについて分析していこう。
まずはブランド開発の作法についてみていくと、同社は、Z世代の変化や次に来るテイストをいち早く察知するために、インスタグラムやTikTokの絶え間ない観察を通してのリサーチを最重要視している。そこから、新しく来そうな「テイスト」にいち早く参入して、ニッチなコミュニティの中で「パイオニア」になるブランド開発を目指している。
このように、特定のスタイルや考え方を持つコミュニティの輪郭を、洋服を通じて浮かび上がらせていくことを大切にしたブランド開発が最大の特徴といえる。
また年に2回は、新規ブランドを提案する全社コンペ大会を実施しており、従業員が自分が考えた新ブランドを発表しあうことで新ブランドの種を育てている。
さらに、ブランド立ち上げに際してはスピード感を重視しており、約3ヶ月でローンチすることを目指している。(通常のアパレルブランドは概ね1年)そしてブランド単体として無理な成長は追わないことを主軸としており、それぞれのブランドの主張を貫き通せる適正サイズを重視している。
ユニークな価値を創造する商品開発の作法。
次にユニークな価値を創造している商品開発に目を向けてみよう。
同社は、感覚的にいいものをつくれる若手をクリエイティブの中心に置いたモノづくり体制をとっている。全員が洋服好きで、売れるものよりも好きなものをつくることを大切にしているユニーク集団だ。購買層と同じ世代が企画しているので、リアルで共感できるものを提供できるというわけだ。
そして、古き良き文化(古着)を今っぽくリバイバルさせて「古いけど新しい」という独自の価値(オリジナリティ)を創造している点もyutoriならではと言える
。
さらに、ファッションは最大のコンテンツである、という考え方のもと、メッセージ性のあるモノづくりで、共感を生み出している点も同社の強みの一つとなっている。
SNSでフォロワーが欲しそうなものをリサーチ・キャッチしながら 「まだ持っている人は少ないけど、こういうものが欲しいんだろうな」と思うものを企画・商品化している点も、Z世代から支持されている要因といえよう。
yutori最大の強みは、SNSでのコミュニティづくり。
ここまでブランド開発、商品開発とみてきたが、SNS時代の同社の最大の強みはコミュニティづくりだ。
SNS累計フォロワー数は260万で、ほぼオーガニック(広告なし)で、ゼロから作り上げてきたコミュニティは同社の最大の強みであり、ユニークな価値を生み出している源泉といえる。
ちなみにインスタグラムのフォロワー数日本一の企業は日産で約660万人といわれている。同社は細分化する「○○好き」を集めて、オンライン上でコミュニティ化することを目指しており、コミュニティを大切な経営資産のひとつとしてとらえている。
そのために、洋服はコミュニケーションツールであるという考え方のもと、「インスタで伝わる服」を大事にしている点も特筆すべき特徴だ。
そして、オンラインで育んできたコミュニティ力が、ポップアップストア等リアルな販売での売上につながっていることも同社の強みになっている。
またコミュニティづくりにあたっては、友達感覚に近い、顧客コミュニケーションを大切にしている。そのため、メールは使わず、Web接客ツールの「チャネルトーク」に一本化している点もZ世代の心をとらえることにつながっている。
Z世代の心をとらえるSNSマーケティング。
さらに、同社のユニークな価値を創造する原動力になっているSNSマーケティングについてみていこう。
同社は、SNSでそれぞれのブランドの世界観やメッセージを伝えるために、SNSで発信する画像を最重視している。
特にインスタグラムの小さな正方形の中でブランドを伝えるために、アティチュード、メッセージ、グラフィックの3点を大切にして発信している。
またモデルは、将来人気になりそうな新しいインフルエンサーを積極的にモデルに起用しているほか、定期的に誰をモデルにしたらいいかを顧客の声も聞くようにしている。
さらに、POPUPへの招待状や商品の箱、手紙などフォロワーをわくわくさせる商品以外のコンテンツにもメッセージ性を盛り込むことで、UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)を生み出すことにも成功している。
SNSマーケティングのKPIはファンのワクワク度を測るために、インスタの保存数を重視しているという点もユニークだ。またオンライン上だけでなく、顧客との接点すべてをメディアととらえている点も同社のこだわりだ。
ブランド間の横串連携でシナジーを生み出す。
株式会社yutoriでは、ブランド同士の協業でシナジーを生み出していくために、ブランド間の横串連携で効率化をはかっている。
具体的には、生産管理、物流、マーケティング、カスタマーサービス、素材やボディの共通化やSNSプロモーションの共有など連携しており、今後は、商品計画から調達までを統合する計画だ。
また、商品調達においても、商品調達プロセスの効率化と円滑な情報共有、内部統制の強化とデータ整備を目指して、製品ライフサイクル管理(PLM)ソリューション「Centric PLM」を導入し、デジタル化を推進している。
さらに、ZOZO傘下に入ることで、協力工場との新規取り組みが広がっており、業容の拡大に応じた国内での安定調達網が整備されつつある。
ユニークな価値を生み出す人的資源管理とは。
最後に、ユニークな価値を生み出している人的資源管理についてみていこう。
同社は、“TURN STRANGER TO STRONGER”(ハグレモノをツワモノ)にをミッションに掲げ、「反骨精神」をコーポレイトビジョンの中心に据えている。
そして、このミッションに共感する、働く仲間や顧客をコミュニティ化することを目指している。また、従業員一人一人の「好き」という感情を原動力に、一人一人がミッションをもって取組む自立型組織を目指しており、対象ターゲットのことをリアルに理解できて、仕事を自分ごと化できる20代が中心の組織づくりを大切にしている。(臨時雇用者を含む従業員の平均年齢は24.7歳(2023年9月末))
そのため、現在はアパレル経験者が少ないものの、ZOZO傘下に入ったことで今後はアパレル経験者の採用も増やして人材層を厚くしていく計画だ。
ここまで株式会社yutoriの価値創造を可能にしている事業活動の一連の流れについて分析してきた。
Z世代に支持されるブランドづくりの方向性とは。
ここで、これまでの伝統的なブランドと株式会社yutori を比較して、Z世代に支持されるこれからのブランドづくりの方向性について検討していきたいと思う。
まず、出発点を比較すると、伝統的なブランドはメーカーといわれるモノづくり企業が中心だったが、yutoriはコミュニケーションメディアつまり情報屋がスタート地点になっている。
次にチャネルの比較すると、伝統的なブランドな間接販売、間接コミュニケーションが中心だったが、yutoriの場合は、直接販売、直接コミュニケーションであることがわかる。
価格面では、伝統的ブランドの場合、中間コストを含んでいるため、どうしてもコストパフォーマンスが低くなるが、yutoriの場合は、D2Cモデルのため、中間コストが必要なく、原価率を高めてコストパフォーマンスの高い商品を提供できる構造になっている。
成長速度では、伝統的ブランドは現在ほとんどの企業が低成長に直面している一方で、yutoriの場合は、規模は小さいながらも堅実な成長を描いている。
伝統的ブランドの提供価値は、モノ自身つまりプロダクトや機能が中心だったが、yutoriが提供しているのは、ライフスタイルであり、それぞれのブランドの世界観であることも大きな違いといえる。
さらに顧客の位置づけを見ても、伝統的ブランドはいわゆるお客様が神様といわれていたが、yutoriの場合は、コミュニティを形成する仲間というとらえ方をしている。
このように分析していくことで、伝統的ブランドはミレニアル世代以上からしか支持されないが、yutoriの場合は、多くのZ世代から熱狂的な支持を得ている要因が垣間見えてくる。
Z世代に選ばれるための、これからのブランド戦略の方向性を考えていく際、ひとつは、ユニクロやGU、無印良品やニトリ・IKEAやスターバックスのような多くの人に愛される一般的な商品を売るブランドが考えられる。
そしてもう一つの方向性として、今回見てきた株式会社yutoriが展開するD2Cブランド等少数のコアなファンに愛される、尖った商品を売るブランドという方向性が見えてきた。
Z世代に愛されるブランド戦略8つのキーワードとは。
では最後に、株式会社yutorini の事例分析から見えてきた、少数のコアなファンから愛されるためのブランド戦略を推進していくために重要なキーワードについてみていくことにしよう。
1つ目のキーワードは「明確なミッション」だ。つまりブランドが目指す志や精神性をプロダクトに編み込むことで初めて共感を生み出すことができるという点である。
次のキーワードは「ライフスタイル・カルチャー」だ。Z世代に支持されつためには、プロダクトではなく、世界観やライフスタイル、カルチャーまでも創出していくことが重要になってくる。
3つ目のキーワードは「コストパフォーマンス」。単に価格の高い、安いではなく、想像以上の高い価値を生み出すための、バリューチェーンを構築することが必要だ。
4つ目のキーワードは「コミュニティ」だ。顧客ではなく「仲間づくり」直接の対話を通じて熱狂的なファンを育てていくことがこれからのブランドづくりの成否を握るといえよう。
そして5つ目のキーワードは「OMO「Online Merges with Offline」)だ。オンラインをベースとしながらも、リアルな販売やコミュニケーションの場を持つことでZ世代のハイブリッド消費に対応していかなければいけない。
6つ目のキーワードは「SNSマーケティング」。SNSの特性を生かして、Z世代に支持されるコンテンツを創造するためは、クリエイティブ力を磨いていくことが必須のスキルとなってくる。
そして7つ目のキーワードは「顧客起点」だ。常に変化する顧客の声に耳を傾け、好みやトレンドの変化を察知できる能力を訓練していくことも重要だ。
最後のキーワードは「自立型組織」だ。従業員一人一人がミッションに共感して取組む自立型組織を育てていくことは、新たな価値を生み出し、生産背を高めるためには欠かせない。
以上、今後Z世代に支持され愛されるためのブランド戦略を推進してくため重要となるキーワードを8つにまとめてみた。
今回、株式会社yutoriを徹底分析することで、今後Z世代に支持されるためには、従来からの伝統的な手法では通用しないことが改めて明らかになったと思う。これからの時代のブランド戦略の参考になれば幸いだ。