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企業の富は、国家の富。企業は儲けるべし

松下幸之助 一日一話
11月11日 企業は儲けるべし

企業というものは、終始一貫、どうすれば合理化できるか、どうすればムダな経費が省けるかと、一生懸命汗を流し、工夫し、そして苦心惨憺してやっと一定の利益を上げているのです。そして利益の大半を税金として納めています。企業も国民も、みんなが働いてプラスを生んで、税金を納めているから国の財源ができるわけです。どこも儲けなければ、税金もおさめられない。とすれば国の財源はどこから集め得るのでしょうか。

企業は儲けてはいけないということであるなら、経営は簡単です。努力もいらなければ創意工夫もしなくていいのですから。それで国が成り立っていくのであれば何も苦労はいりません。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

松下翁が生きた約50年前の幕末から明治維新を生きた、日本における資本主義経済の父と称される渋沢栄一翁は、国家における企業のあり方とその利益について、著書「論語と算盤」(1916)にて以下のように述べています。

自分は常に事業の経営に任じては、その仕事が国家に必要であって、また道理に合するようにして行きたいと心掛けて来た。仮令その事業が微々たるものであろうとも、自分の利益は小額であるとしても、国家必要の事業を合理的に経営すれば、心は常に楽しんで事に任じられる。ゆえに余は論語をもって商売上の「バイブル」となし、孔子の道以外には一歩も出まいと努めて来た。それから余が事業上の見解としては、一個人に利益ある仕事よりも、多数社会を益して行くのでなければならぬと思い、多数社会に利益を与えるには、その事業が堅固に発達して繁昌して行かなくてはならぬということを常に心していた。福沢翁の言に「書物を著しても、それを多数の者が読むようなものでなくては効能が薄い。著者は常に自己のことよりも、国家社会を利するという観念をもって、筆を執らなければならぬ」という意味のことがあったと記憶している。事業界のこともまたこの理に外ならぬもので、多く社会を益することでなくては、正径な事業とは言われない。仮に一個人のみ大富豪になっても、社会の多数がために貧困に陥るような事業であったならば、どんなものであろうか。如何にその人が富を積んでも、その幸福は継続されないではないか。ゆえに、国家多数の富を致す方法でなければいかぬというのである。
(渋沢栄一著「論語と算盤」)

要約しますと、渋沢翁は生涯に約500の企業の育成に係わり、同時に約600の社会公共事業や民間外交にも尽力されたそうですが、その渋沢翁が企業経営においては、「社会に多くの利益を与えるものでなければ、正しくまともな事業とはいえない。」という信念を持ちながら、国家に必要とされる企業ならば例え利益が少なくても、合理的に経営し、しかも道理と一致するように心がけてきたそうです。

更に、「道理と一致する合理的な経営」、或いは「モラルレスポシビリティに沿ったリーズナブルな経営」の方法について稲盛和夫さんは著書「アメーバ経営」にて以下のように述べています。

…私は経営に無知であったがゆえに、いわゆる常識というものを持ち合わせていなかったので、何を判断するにも、物事を本質から考えなければならなかった。だが、そのことがかえって、経営における重要な原理原則を見出すもとになったのである。…

経営についてまだ素人だったため、かえって物事の本質をシンプルに見抜けたのだろう。このときに私は、「売上を最大に、経費を最小にする」ことが経営の原理原則であることに気づいた。以来、この原理原則に従い、ただひたすらに売上を最大にする努力を続ける一方で、すべての経費を減らすように努めてきた。その結果、先ほども述べたように事業は急速に拡大し、採算はさらに向上していった。

この原則について話をすると、「そんなことあたりまえでしょう」と言う人が必ずいる。だが、この原則こそ、世間の常識を超えた、経営の真髄といえるものである。一般の企業では、製造業でも、流通業でも、サービス業でも、「こういう業種では、利益率はこんなものだ」という暗黙の常識を基準に経営をしている。メーカーであれば利益率が数%、流通業であれば1%もあればいいといった業界の常識をベースにして、実績がそれを満たせば「よくやった」ということになる。

ところが、「売上を最大に、経費を最小にする」という原則からすれば、売上はいくらでも増やすことができるし、経費も最小にすることができるはずである。その結果、利益をどこまでも増やすことができる。

また、売上を伸ばすには、安易な値上げをするのではなく、後で説明する「値決めは経営」という原則から、お客様が喜んで買ってくださる最高の値段を見つけ出すことが重要である。

経費を減らすときも、「これが限界」と感じてあきらめるのではなく、人間の無限の可能性を信じて、限りない努力を払うことが必要である。そうすることで、利益をどこまででも高めることが可能となる。この原理原則にもとづき、全従業員が綿々と努力を積み重ねることにより、企業は長期にわたり高収益を実現できるのである。…

(稲盛和夫さん著「アメーバ経営」より)

加えて、渋沢翁は松下翁同様に、「企業は儲けるべし」ということに関して以下のように述べています。

…個人の富は、すなわち国家の富である。個人が富まんと欲するに非ずして、如何でか国家の富を得べき、国家を富まし自己も栄達せんと欲すればこそ、人々が、日夜勉励するのである…
(渋沢栄一著「論語と算盤」)

昨今においては、ポピュリズムを支える思想として、一部の儲ける企業や富裕層という「金持ちがいるから、貧しい人々が生まれてしまうのだ」などといった偏った考え方を持ち、社会から金持ちを追い出そうとする風潮が蔓延し始めていますが、明治の日本人たちのように、サミュエル・スマイルズの「自助論」を愛読し、その教えに共感して、自分たちの努力や工夫で近代日本を作り上げた先人たちの「儲ける」ことに関する考え方を、「古教照心、心照古教」していく必要があるのではないかと私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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