雲の上
ずっと雨で暗かった。
ジトジト湿気で心にもカビが生えそう。
よしっと思って、飛んだ。
空一面に広がる黒雲をぶち抜く。
暗いシャワー室のような雨雲の中をびしょ濡れになって飛ぶ。
200メートルくらいで雲の上に飛び出た。
別世界。
どこまでも青い空。
上空は宇宙に近い濃い群青色。
雲は白く明るく美しい。
湿気もなく、心地よい風が吹いている。
時々強く吹く風に雲が千切れ飛び、渦を巻く。
ヒョーヒョーと風の音だけが響き、時々稲光が白い雲の中で光る。
見渡す限りの一面の雲。
ながらかな綿の平野のような静かなところもあるが、風や気圧の影響なのか荒れてボコボコと岩山のように盛り上がるところもある。
まるで違う惑星に来たかのような不思議な光景。
他に生き物の気配もなく、私一人。
青と白の世界に、夕暮れが近づいてきた。
眩く雲を照らしていた太陽が、雲の彼方に沈もうとしている。
夕焼けの赤や黄色や紫の色彩が光に交じり始めた。
やがて淡い虹色の光が乱れ飛ぶ。
風も今は太陽から轟々と吹きつけている。
髪も服もすっかり乾き、気持ちのいい風の中、眩い日の入りを楽しむ。
だんだんと黄金色を強めながら、太陽が雲海に沈む。
世界で今一番の絶景を独り占め。
絵 マシュー・カサイ「雲の上」水彩・ペン
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