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ちび、幸せにな。

土曜日に広場の前を自転車で通り過ぎるとき、街路樹の根元の草むらが動いていた。

なんだ?

自転車を止めて見ると、コロコロした子猫が上蓋の空いた箱の中で遊んでいた。

手のひらに乗るくらいの子猫。

周りを見ても親猫や飼い主らしい人も見えない。

捨て猫?

こんなにかわいいのに?

いかんいかん。うちはペット禁止の賃貸マンション!

誰か猫好きの人に構ってもらいな。

見ないようにして自転車を走らせた。

しばらくすると、とんでもなく気持ちがザワザワしだした。

周りに人がいなかったよな。あの辺りにはカラスが多いし、犬猫の駆除の係りの人たちも以前見たよな。

悪い予感がして、髪の毛がゾワッと逆立った。

息を切らせて戻ると、子猫はまだ遊んでいて、上の電線にカラスがいた。

急いで箱から拾い上げて手提げ袋に入れた

よかった。元気だ。目がクリクリして、かわいい。

でも、どうする、どうすればいい?

警察か!でも飼い主が現れないと結局保険所送りと聞いたことがある。

知り合いにも猫を飼えそうな環境の奴はいない。

とりあえずコンビニで牛乳を買って飲まそうとしたが、見向きもしない。

途方に暮れた。なんで無責任に拾ってしまったんだろう。

どこに相談すればいいのか。誰か助けてくれないか・・・

はっと思い出したのは、最近、週末駅前で保護猫、野良犬の里親さがしのイベントを実施しているワンニャンクラブ!たくさんのケージに入った猫や犬を駅前のスペースに並べ、ボランティアのおばさんたちが里親募集していたはず。

とりあえず行こう。急いで駅前に行くと、今日も運よくワンニャンクラブの活動日だった。ホントに天の助け!

「すみません!この子広場のところで拾ったんですが、うちはペット禁止の部屋なんでどうしたらいいかわからずに困ってます。」

ゲージの丸々太った猫に餌をあげていたおばさんに話しかけた。

「うちのクラブは犬猫の里親探しのボランティア活動で、野良の犬猫の新規の受け入れはやらない決まりなのよ。ここのみんなも自宅に10匹以上の犬や猫を飼ってるからもういっぱいいっぱい!」

「何とかならないですか?知り合いにも飼える人いなくて。」

袋から出して見せると、おばさんの顔が和らいだ。

猫好きなんだろうな。

「ほんとは受け入れダメなんだけどね。しょうがないね。」おばさんは笑顔で子猫を抱き上げた。

「牛乳飲まそうとしたけど飲みませんでした。」

「子猫は子猫用のミルクじゃないと。牛乳飲ませたらおなか壊すよ。」

周りには30匹程度の犬や猫のケージが並べられていて、何人かの通行人とボランティアの人が話し合っていた。どの犬や猫も丸々と太って、穏やかな表情をしている。

「エサ代の寄付も喜んで受付中!」と、立て看板が立っていた。

子猫を笑顔であやしているおばさんにお礼を言って、自転車で大急ぎで部屋に戻った。

ここのところ金欠で大した金額はなかったが、部屋の引き出しから3万円つかみ取ると急いで駅前に戻った。

息を切らせてさっきのおばさんのところに戻って「これ、犬猫さんのエサ代の足しにしてください。こんなことしかできないんで。」

「あら、ありがとうね。助かります。それから、さっきのチビちゃんね、さっき横で私たちの話聞いてたご婦人に貰われてったよ。優しそうな人で良かったね。」

なんか、気が抜けた。自然と顔が笑顔になった。本当にホッとした。

思えば最近こんなに慌てたり、ドキドキしたり、笑顔になったことないな。

今日一日俺を振り回してあのかわいいちびはいい人に貰われてったんだな。

見ないふりをして関わらなかったら、この先ずっと気持ち悪かっただろうな。おばさん、天使みたいだったよ。またワンニャンクラブに寄付しなきゃな。

バタバタした土曜日になったが、いいことがあった気分。

ちび、幸せにな。

今日のビールはきっとうまいぞ!


(*以前、実際にあった事件です。)


絵 マシュー・カサイ「子猫」 色鉛筆







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