雨上がり
街を歩いていたら急に湿った風が吹き始めた。
ツンと雨の匂い。
薄暗くなり,すぐザザーッと勢いよく降り始めた。
周りの人たちも声を上げて逃げ走り始める。
だいぶ濡れたが、運よく近くの目立たない喫茶店に飛び込めた。
濡れた髪や顔をハンカチで拭きながら店内を見ると、昭和の良き時代を思わせる懐かしいような年季の入った佇まい。
なんと、かなり大きめの音量でjazzが流れている。
店の奥には名門JBLの大型スピーカー。ダブルウーハーの弾むような低音。
あれは夢に見た憧れのJBL4355じゃないか!
冷蔵庫よりでかいスピーカーからチェットベイカーの哀愁のペットが流れてくる。
唖然とした。なんだこれは夢か。目を見開いて、笑顔になった。
いまは絶滅種のジャズ喫茶だ。学生時代入り浸った薄暗い魔窟。
熱いコーヒーを頼んで一番正面の席に腰を下ろした。
コーヒーの香りと,火傷しそうな熱さを味わいながら、音のシャワーを浴びる。
懐かしい日々が瞼によみがえる。
大学時代、将来の目標もなく、アルバイト以外は浪人時代の復讐のように遊ぶ毎日。しかし、なぜか虚しさが離れない。
男友達と毎夜酒を浴び、一人になりたいときにジャズ喫茶で時間を潰した。
嬉しい時も悲しい時も過ごせる場所。楽器の音がこんなにも心を揺さぶるんだとジャズ喫茶で初めて知ったあの頃。
店内に他の客はいない。
タイムスリップしたかのような不思議な気持ち。
堪能した。よかったよ。ありがとう。そんな気持ちで店を出た。
外は雨も止んで雨雲の隙間から日が差している。
水たまりが光を反射して美しい。
なんだか目が覚めたようにすっきりして気分がいい。
みんな和やかな顔で歩いている。
なんだったんだろう。
不思議な夢のような時間だった。
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