見出し画像

父との時間を巻き戻したら、鼻の奥がジーンとした話。

お陰様で無事に親父が退院して数日経った

退院した次の日に意識が飛んだあの光景が今だにどうも忘れられず何かあったらと思ったり、何かあったとしてもそれはその時と思ったりと考えていた。

少しの間一緒に住もうか?と提案してみた。一人で大丈夫だ。と言ってくるかと思いきや、親父はめちゃくちゃ喜んだ。
それは心強いなぁ。有り難いなぁ。って

素直じゃねーか。

そんな父と娘の生活が始まった。

退院して家に着き、玄関を開けた途端に
なんか空気が違うな、気持ち良いなと親父

そーだろう。当然ですけどね。

リビングを開けると

うわー。綺麗になってて気持ち良いなぁ
大変だっただろ?ありがとうだって。

気持ちを素直に伝える力をいつの間に身につけたのだ?

まぁ。大変だったわね。まぁ.それなりに楽しかったよ。

ああ!ほんとにきれいになったなぁ
過ごしやすいなぁと何度も言う。

こちらも気分が良い。喜んでる姿を見るとやり甲斐もあるってもんだ。

ただ、あれはどこだっけ?これはどこ行った?と片付けたのは良いけれど仕舞った場所をうっかり忘れがちな私.

あぁー。ここに、あそこに、と説明

お父さんの手品の小道具と賞状は捨てずにとってあるけど、後は捨てたからね。

うんうん。助かったよ。

親父の夕食は制限食として配食で頼んであるのだが、この数ヶ月食べたいモノを辛抱して過ごして来たわけだ。親父の好物はことごとく制限されて食べれない。

食べたい気持ちは痛いほど分かる。
今更、これダメあれもダメな食生活なんてうんざりだろう。

でもさ、好きなモノを食べたって良い!とは思うのよ。でも、禁忌されてるモノを知ってて出すとなるとそれって犯罪にならないの?私は前科者になりたく無いんだけど?

そんな事あるかい!と親父

じゃー。食べたら良いけどそれで黄泉の国に行ったとしても私を恨まないでよね?

当然だよ。恨むわけない。そんな事心配するな。と言うけれど

ただ、酒は次の診察まで我慢してよ?
ノンアルビールで我慢して下さい。

うんうん。分かった。
そんな会話中、親父が言い始めた

ばあちゃんは亡くなる数ヶ月前から水分制限を医者から言われててな、どーしても西瓜が食べたい。って何度もお父さんに言うんだよ。

確かに!ばあちゃんは西瓜が大好物だった十数年前ばあちゃんは入退院繰り返してた。顔見に行くと、こっそりお金を渡されてこれでオロナミンC買って来てくれ。ってよく頼まれてたわ。買えないよ。というととっても悲しそうな顔したの覚えてる。
ばあちゃんはオロナミンCもこよなく愛していた。

そーなんだよな。でも病院にいたらそれも出来ないだろ。

一時退院した時西瓜を丸ごと買って来て好きなだけ食べたら良い。って出したんだよ

美味そうに食べてたのを見て、これが原因で亡くなっても良い。って思ったんだよな

うんうん。

その後再度入院した時
点滴の針を抜いてしまうので家族のどなたか付き添って下さい。と病院から連絡が来たそうだ。

親父は付き添いに向かい、その日の夜に
もうすぐあの世に行く!入院費がもったい無いから退院させて欲しいとばあちゃんから懇願されたそうだ。死ぬなら自分の家で迎えたい。って

鬼気迫るばあちゃんの勢いに
親父は悩んだ末に退院させる事にしたと言う。医師からは、皆さんそんな事を言うんですけどいざってなると救急車を呼んで戻ってくるんですよね。このまま入院されてた方が良い。と医師から説得された様だ

親父は、その言葉を振り切って退院させて
往診してくれる医者を探し何かの時は死亡確認をしてもらう様に手筈をしたとの事

そしてばあちゃんは退院したその日
大好きなオロナミンCを飲み、タバコを一本吸って次の日あの世に旅立った。

親父はこのオロナミンCを飲ませる事を躊躇ったと言ってたが、あの時飲ませておけば良かった。と後悔はしたくないし、ここまで生きて来て、制限させるなんて意味ないと思ったそうだ。ばあちゃんは91歳で亡くなった。その最後の逝き方を聞いた時
めちゃくちゃかっこいいじゃん!!と感動した。そしてそれを受け入れた親父を凄いな。とあの時思ったんだっけ。

あっ!
親父が危篤になり医師から覚悟して下さい
と言われた時

あの時お酒を飲ませて置いてよかったよね。と妹と話してたわ。

このまま亡くなるなら、あの夜酒を我慢させてたらきっと、飲ませておけば良かったと後悔したに違いないね。って言ってたんだよ。

だろ?良いんだよそれで。この先はおまけの人生なんだから、美味しく味わえる時に食べれる事を大事にしたいんだ。

なんか、うまく丸め込まれた気分だけど
一理あると納得してしまう私。

買い物や親父の服を洗濯したり、リハビリの為の散歩を一緒に歩いたり
まさか二人でこんな時間を過ごす事になるとは思いも寄らなかった。

そして、いつも、どんな時もありがとうの言葉を忘れない親父に驚きと同時にこちらも心の内がほっこりとする。
そして、そして、夕飯はお前の好きなものを食べろとお金を出してくれ
頼まれた手続きをするとお礼だとお小遣いもくれる。

なんなの?
もちろん遠慮なんかしない。

わぁーい!!やったぁー!!
なんならもっと欲しいの思いを乗せて喜びを露わにする。

遺産と言うほどのモノは無い様だけれど
亡くなってからなんてよりも今、必要な時に経済回すと言う意味では貯め込むよりもどしどし使ってくれ。私に。笑

実家から仕事に向かう日常。

夕方のこの時間に戻るからね。と言い残し
いってらっしゃい。と送り出される。

ただいま!と私

おぅー!おかえりっ!とリビングから親父の声。

なんだ?この気持ち
鼻の奥がジーンとなって玄関から少し動けなくなった。

画像1

#生前整理
#父と娘
#お金は残さず今の楽しみとどんどん私と妹に使うと良いよ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?