ちいさな死神くんとあの木の上のお星さま
6/21(☀️夏至☀️)19:00- 調布市せんがわ劇場
二つの悲しみを観た気がした。
ひとつは死神くんのいつも独りぼっちで悲しい。ということ。
もうひとつは娘がいったん死んだように見えたときの、ママの悲しみ。
もう、この絵本を読んだとき、号泣だった。
死後の世界なのに、死神くんがエルスヴィースと出会って、「こんなに『生きている』ってきもちになったのは はじめて」だった。というところが、とくに。仕事があっても独りぼっちじゃリアルが感じられないよねぇ、、、。死神くんはヲタ活するわけにもいかないし。
コンテンポラリー・ダンス作品の方は、最初、黒縁眼鏡をかけたダンサーが、にっこり笑って客席に手を振る。舞台の照明も相まって本当に輝かしくて、題名に「お星さま」とあるだけあって、まるでモーツァルトの「きらきら星変奏曲」のようだと思った。
事前の公演情報を読み、バッハのシャコンヌがバックに流れると思って聴きなおしていた。なおしていたというのは、この曲はことし4月に聖心女子大学でのチャリティーコンサートで聴いたからだ。あの時私が感じたのは"響き"だった。音が時空を超えて縦に伸びて響いているように聴こえた。年輪というのだろうか。
次に大人の死神くんが登場する。客席から見て顔の左半分を覆い、右半分を弧を描くような踊りを繰り返す。上半身の衣装がふわりとした黒色の、袖がちょうちん袖を大きくしたような衣装で、絵本の世界がほんとうに舞台に現れた、と思った。
白い妖精のような、小人のようなダンサーが、これまた笑顔で現れ、側転して両足着地でバタンと床にしゃがんで仰向けになり、死ぬ間際になる。そこへ死神くんの出番がやってくる。彼は死にゆく人を迎えようとするが、その仕事はいつも独りぼっちだ。みんな泣いて、寒がる。
短いパ・ド・ドゥがあり、女性がアラベスクで何秒かキープするところがあった(舞台後半で、少女と死神くんが同じパ・ド・ドゥをする)。そして、女性をリフトして死の世界へ連れていく。私は最初、このパ・ド・ドゥの女性がエルスヴィースかと思ったが、違った。
エルスヴィースは舞台ではいなかったのかもしれない。途中から現れる少女が原作のエルスヴィースにあたるのかとも思ったが、また違うと思った。「ちいさな死神くんと あの木の上のお星さま」は、振付・演出をされた黒田育世さんの娘さんが大病を患い、入院に付き添っていた時の悲しい瞬間ををもとに作られたというからだ。娘さんは元気になられたそうだ。原作の通りの展開ではなかったということだ(良かった)。
だから後半は原作にはない、ママの黒田さんの悲しみがクローズアップされていた。少女が意識を失い、バタンと倒れこみ、母の腕からその重みが消えてしまったときの、同じ姿勢でかがみながら悲痛の泣き声をあげているところの忍耐力。そしてソロでのどうしようもない深い悲しみの淵に立っていたときの心の叫び。惹きつけられた。このシーンになるまで照明や衣装はランランに明るかったわけではないが、白や黄色の星々が見えていたのに、このソロシーンだけ、衣装は黒で照明も影のような黒い照明だった。音楽も大きくなり、ただただ悲しさを観た。
こんなに深い悲しみを現代にも通じて表現できる、バッハの時代を超えた響きの共鳴力に唸る。
けれども、少女の方は自然体だ。バイオリンの音色に合わせ、踊りで会話をしていくところが、まるで「ママ、悲しまないで」と慰めているかのよう。少女は死後の世界で死神くんと出会い、短いパ・ド・ドゥをするのだが、それはもう、(物理的にも気持ち的にも)軽々しく、スキップでもしているかのようだった。可憐で、きらきら輝いていた。
少女は死ななかった。バイオリンの曲が止まり、静かになって少女が「チク・タク、チク・タク・・・・・・」と時間を刻み始める。いや、時間が戻っていた。少女が床に寝ていて、ママがそのうえで悲しみに暮れているところに戻り、周りの妖精のようなダンサーが横の時間(思うに奇跡を目の当たりにした時のママの驚きや嬉しさ信じられないといった気持ちの揺れ動き?)を表現していたように感じた。だが、「チク・タク…」と言いながら少女は妖精ダンサーにリフトされ、死神くんのもとに行く。舞台左に少女と死神くん。右手に複数の妖精ダンサーと後ろにママ。と、少女が死神くんを振りほどいてママの元に戻ってきた!!良かった~。
絵本『ちいさな死神くん』の本そのものが小道具として出てくる。絵本を使って夜空に浮かぶ星をつかむシーンがあった。死ぬことは怖い。もちろん大人だって怖い。だけど、少女は怖がらずに『ちいさな死神くん』を読んでもらったことで、逆に、何か星のような生きることへの希望を見出したのかもしれない。そして、大病を乗り越えた!
少女はまだ少女だから、お星さまのような希望をもってこれからも現実世界で生きていくのでしょう。ちいさな死神くんにはいつか、そのうち会うことでしょう。
ほっこりしました。癒されました。 死にたくない!