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【小説】転生したら、好かれるモブになりました。〈第30話〉
僕も行きたい!
出発前の晩、ソフィーは、張り切って豪勢な料理を振る舞った。私の好きなククル・タルト(カボチャのタルト)も作ってくれた。
「やったぜ!今日はご馳走だ!!」
レオは我が家を明るくしてくれる。
「フフッ、あの高級食材シャラル鴨を一匹購入したからね!」
「あの、貴族が食べるやつ?すげ~っ」
レオは早速よだれを垂らしている。
エドガーは、知り合いから譲ってもらったワインをイスに勧めた。
「すみません、御父上。こんなものしかご用意できなかったんですが。」
「いや、構わんよ。」
グラスに赤ワインを並々注ぐ。
「それじゃあ、家族揃ったところで頂きたいところだが………。ソファーに座ってる男性はどちら様?」
「ああ、わしにかまわんでおくれ。わしらは食べ物は食べないんだ。」
「いや、その、そうじゃなくて……。どちら様?」
エドガーが混乱していると、セレーナが答えた。
「土の中級精霊のテラリベラだよ。今日契約したの。この人もエルフ領内に連れていくの。」
「御父上殿、御母上殿、セレーナは、わしらがお守りするゆえ、どうぞご安心くだされ。」
見た目はイケメンなのにおじいちゃん言葉が合わないな……。セレーナは思った。
「え、ええ。娘をどうぞよろしくお願い致します。」
エドガーとソフィーは丁寧に頭を下げた。
「なんだか、オレの時と態度違くない?」
シルフィールは、膨れ面をする。
「でもいいな〜セレーナ達美味しそうな食事してる。オレも何か食べたいな~。」とシルフィールは、恨めしそうにこちらを見てる。
「だったら、私が料理をおいしく食べてたら、同じようにシルフィールもおいしさも感じるんじゃないの?」
「だったら、もっとセレーナと干渉してみるよ。」
シルフィールは、セレーナに片手を突き出し、互いのマナを合わせてみる。
セレーナが、試しに野菜スープを一口飲んでみた。
「うん、暖まる感じ。体が喜んでる!これが[美味しい]っていうのか。」
シルフィールは、初めて食べ物を食べた感覚を味わった。
「ずるいぞ、シルフィール。わしにもやらせろ!」すると、テラリベラが片手を出して、セレーナのマナと干渉してきた。
セレーナは、シャラル鴨のステーキを頬張ってみる。
「んんっ!!これは凄い!!なんだ、この感覚!なるほど、これが[味わう]なんだな。人間が羨ましくなったわい」テラリベラも大喜びだ。
「体が喜んでるって言うことは美味しいってことだよね?良かったね。」セレーナが微笑んだ。
「だからといって干渉しすぎて、セレーナにお腹がはじきれるぐらい食べさせるなよ。」
イスが念押しをする。
精霊使いと干渉して食事を味わう精霊など聞いたことない。セレーナが優しすぎて、逆に精霊達にいいように利用されなければよいが・・・。
イスはますます考え込んだ。
「みんな、ちょっといいかな?」
ルカが口を開いた。
「どうした?ルカ、改まって。」
「お願いします。僕もセレーナと一緒に連れてってくれませんか?」
「「えーっ!!!」」
レオとセレーナは顔を見合わせて驚いた。
エドガーとソフィーは、何故か動揺している。
「ど、どうしてなの?」
「そうだ、なぜなんだ?村の学校はどうする?」
「僕もエルフ領で勉学に励みたいです。そちらは何でも世界有数の国立図書館があると聞きます。なので、僕を連れて行ってもらえませんか?」
「…………。エルフの中には人間嫌いもいる。それでも行きたいのか?」
「分かってます。それでも行きたいです。」
「何言ってるんでしゅか?ルカは、クォーターエルフでしゅよ。」
「あ、ああ、そうだ。そうだなセレーナ。ルカはクォーターエルフだ。しかし、人間に近いエルフでもある。それを御父上は、心配してらっしゃるんだ。」
エドガーは、慌てて取り繕った。
エドガーと、ソフィーは、ルカのことが心配だった。ルカはうちの子ではなく、バルドル帝国の第4皇子だから。しかも公に出来るような子ではない。命を狙われている。
もしかして、帝国の貴族と親交のあるエルフ貴族なら、ルカのこと知ってるやつが、現れるかも知れない。エドガーは、それを恐れた。
「なあ、ルカ。諦めることはできないのか?」
エドガーが懇願した。
「心配なら、私が魔法でエルフに見えるように変身魔法をかけてやる。見破られなければいいがな。」
「お父さん、やめて!!」
ソフィーは強く反対した。
「勉学を励みたい者を拒む必要などない。」
ルカは顔が明るくなった。
「ありがとう……、その………。」
「おじいさんでいいだろ。孫よ。」
「!!!」
「はい!おじいさん、ありがとうございます。」
ルカが、久々に明るくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
夜、大人だけで話し合いをすることになった。
「お父さん、本当にルカのこと大丈夫?」
「ソフィー、何を心配してるんだ?」
イスは、ウィスキーの紅茶割りを上品に飲んでいる。
「実はあの子は、バルドル帝国の第4皇子なのです。しかも、公にしてはいけない子。だからこそ、命を狙われています。もし、エルフ貴族の中に、帝国の人間と懇意にしてる者がいれば、ルカの素性がバレてしまいます。」
エドガーが両手を強く組んでいる。
「誰に狙われてるんだ?」
「………。アイリス皇后です。」
「ああ、あのオーディン王国の姫君か。確か、政略結婚だったな。」
「あの方は、多種族との交わりを快く思っていません。血統を重んじる国の方なので。」
「なのに、この多種民族国家のバルバト帝国のシラフ皇帝と結婚した。いや、せざるおえなかったというのが正しいか……。」
「はい、何か目論見があるのでしょう。あの、オーディン王国のラウール王は腹黒で有名ですから。」
「なんとなく見当つくが・・・。ルカの母君は?」
「………。王宮薬剤師をしていたサキュバスのリリスです。」
「よりによって、何故サキュバスを王宮薬剤師になんかにしたんだ?どうせ皇帝はその者を側室にでもするつもりだったんだろう?あのスケベは。」
「あの者は新魔族王国「ディアブロ」から派遣されたものです。世界の薬草学に詳しく、魔族界では1,2を争うほどだとか。シラフ帝王は、新魔族国王のディアブロス王とも友好関係を図っていたようです。」
「経済発展のためとは言え、この有り様か。笑えんな。」
「あの子は、サキュバスと人間のハーフです。」
「道理で、闇属性に特化してるわけだ。」
イスは紅茶をすすった。
「皇帝自ら私めに懇願されました。この子の命を守ってほしいと。」
「そのリリスとやらはどうなった?」
「・・・殺されました。」
「秘密裏に皇帝の【隠れ別荘】に移し出産なされたのですが、どこからか情報が漏れ、襲撃に遭ったんです。きっと、出産後の弱ってる時期を狙ったに違いありません。皇帝の影集団『ステルス』のリーダーがこの子を抱いて、命からがら王の元へ戻ってきたわけです。」
「リリスの死は新魔族王国には?」
「はい、伝わっております。かなりの賠償金をリリス様のご家族に払われたとか。」
「リリスの親族は、ルカを引き取ろうとはしなかったのか?」
「あんな死に方をしてしまった元凶を作ったのが、あの子の存在です。それを知りながら、引き取るでしょうか?」
「・・・確かにな。」
「それで丁度家を勘当され、ソフィーと駆け落ちするつもりだったお前に皇帝は、この子を預けたのだな?よく、皇后はお前のことに気付かなかったな。」
「・・・はい。」
「じゃあ、皇后は今でもルカを探してるわけだ。」
「そういうことです!」
「あの子は、自分を守れる程度に強くならなくてはいけないな。あの子が、お前の子じゃないとバレたのは、私の発言のせいでもある……。その責任を今果たそう。」
ーーーーーーーー
イスが、ソフィーの元へ初めて訪れたのは、6年前。レオが誕生した年だった。
初孫を見にこの家にきてみると、5歳ぐらいの金髪の男の子が、玄関でウロウロしていた。
「君は誰だい?」イスが尋ねると、
「僕、ルカ!弟が生まれたばかりなんだ。」
「・・・お前、弟と言ったな?」
「うん。」
「見たところお前にエルフ特有のマナは入っとらんが……。」
「えっ?」
「もう一度聞く、お前はどこの子だい?」
「えっ……だって、僕はこの家の子だよ?おじさんが嘘をついてるんだ!」
ルカは、今にも泣きそうな顔をした。
「私は、ハイエルフだ。私は他人のマナをみることができるんだぞ?お前が嘘をついてるのは、すでに分かっていることだ。どうして、そんな嘘を付くんだ?」
「うっ、うっ、うぇ〜〜〜〜ん!!!」
ルカの鳴き声を聞いたのか、エドガーが、家の中から飛び出してきた。
「どうしたんだルカ。」
「どうしたんだじゃないぞ、エドガー!これはどういうことか、説明してもらおうか!」
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「あの時、お前は、身寄りのない子を頼まれて預かってるとしか言わなかったからな。」
「………。すみません、御父上。ご迷惑かけたくなかったんです。」
「まったく、馬鹿皇帝も厄介な者を押しつけたもんだ。」
「皇帝は、魔族と人間のハーフであるルカを王位継承に考えてるようです。ルカを16歳には、秘密裏に帝王学を学ばせてルカが成人する頃に王位継承をさせる算段です。」
「そうなると、あの皇后が度肝を抜かすだろうな。」
「そういうことです。」
「まさに多種族国家の帝王らしいな。ハーフにこだわらない所は、考え方が柔軟と言うべきなのか……。ルカはこれに同意するかどうかな……。」
エドガーは、俯いて呟いた。
「ルカは茨の道を歩まなくてはなりません。」
「今のルカは、私の孫である。孫を守るのはじじいの役目だからな。私が5年であの子を強くしよう。自分の命が守れるぐらいにな。1年じゃ流石に無理だからな。セレーナも5年預かるけど異論はないか?」
「・・・仕方がないですよね。レオとセレーナには悪いけど、ルカの為に5年間修行させてください。」
イスは、ウィスキー入りの紅茶を飲み干すと、立ち上がった。
「そろそろ寝るとしよう。本来なら、魔法陣を作って空間移動したいところだが、場所が遠いだけにセレーナには、きついかもしれない。あの子が酔ってはいけないから、明日はあるものを手配している。きっと喜ぶだろう。」
「お父さん、本当にあの子たちをどうぞよろしくお願いします。」
ソフィーとエドガーは立ち上がると、深々とイスに頭を下げた。