ISMサマリー:景気減速は良いことか?
5月のISM製造業は48.7と、市場予想の49.7を大きめに下回った。既に多くのメディアや金融機関から「米経済はノーランディング」と太鼓判を押されていただけに、ISM軟化はサプライズ感が強い。
実は、24年3月を除けば、ISM製造業は19ヵ月に渡り50を割っている。ここまで長い50割れはリーマン・ショック時(12ヵ月)ですら経験がない。米景気はサービス業の好調でリセッションを免れているが、最近ではISM非製造業も50割れとなっており、先行きリスクは高まっている。
当NOTEでは半導体サイクルの改善がISM製造業を押し上げるとみていた。足元では中国でのスマホ販売増の報せもあって当該ストーリーへの確信を深めていた。しかし、最近では乖離が大きくなってしまっている(図表)。
半導体サイクルがISMを押し上げていない背景には、利上げの影響があるだろう。加えて、ISMの受注在庫バランスは下方屈折しており、ISMに下押し圧力をかけている(図表)。要は在庫が多すぎるのである。
また、地区PMIを合成した模造ISMは2024年に入り下振れており、ISM悪化に警鐘を鳴らしている。総合的に考えると、半導体サイクル「だけ」で米景気を上向かせるには力不足な現状が明らかになりつつある。
ISM悪化に伴い、市場では景気減速懸念から金利が低下し、ナスダックなどグロース株が上昇している。日本市場でも、日経平均が対TOPIXで下げ幅を縮めている。ただ、世界の屋台骨たる米景気が減速する中で単純なグロース買いで正しいのか、という疑問はぬぐえない。
今後はISM以外にも景気減速の指標が出る可能性が高いとみる。雇用統計やJOLTS求人は、既にindeedカンペによって採用意欲の低下が示されている(図表)。雇用統計も徐々に軟化していくだろう。
小売売上高は、4月に続き5月も下振れサインが灯り始めた。5月中旬時点のクレカ消費は減速しており、先月の小売ショックが再現されるおそれが高まっている(図表)。
小売売上高は最重要な指標である。大切なのは、過去2年に渡りISMは悪かったのに市場の景気拡大への自信は揺らがなかった点だ。背景には小売売上の異常な強さあった。メディアや金融機関が喧伝したスタグフレーション懸念をデータで反証し続けたのである。もし、その小売が下振れたらどうなるか。ISM低下よりも重く受け止める必要があるだろう。
現時点において、消費失速を織り込むことは難しい。米家計は強烈なインフレと利上げにもかかわらず、膨大な家計資産(株・不動産)と賃金上昇を背景に強い消費を続けてきたためである。こうした前提が崩れないことには、消費失速を予想することも難しい。
とすると、消費失速のカギは賃金減速にかかってきそうだ。雇用統計によると23年後半からはパートタイマーが増えてきており、賃金も雇用者数の伸びから受ける印象ほどには伸びなくなってきている(図表)。2024年も折り返しが近づいているが、年後半は米景気も減速の色合いが濃くなり、消費減速から予想EPSも伸びにくくなるのではないだろうか。
予想EPSが伸びないならば、FRBの利下げでPERが改善(≒金利低下)してほしいところである。ただ、ここの点でも住宅(家賃)が悪さをする懸念がぬぐい切れない(図表)。市場は5月初のFOMCでFRBは利下げに前向きであると快哉を挙げたが、「データ次第」のデータが出揃わないことには、買いの手を伸ばすことはまだリスクがあるとみる。
※本投稿は情報提供を専らの目的としており金融取引を勧める意図はありません