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傷を負って、優しくなる

人参を切りながら泣いたことがある

今まで生きてきたなかで、1番傷ついた日

家に帰りついて深夜
野菜室からあるだけの野菜を出して賽の目に切った

買い物にも行けてなかったので、あったのは常備野菜の水気が抜けてくたっとした人参、じゃがいも、玉ねぎ
ちょっと萎びかけたブロッコリー
切って鍋に放り込んでひたひたにお水を入れ、トマト缶を入れてコンソメと塩胡椒を振って煮込んだ

心の中で、私にだって出来ることはある
出来ることはある 大丈夫 大丈夫 と何度も念じた

深夜1時
夫は起きてこなかったが、当時はまだ一緒に住んでいた娘と息子が異変を察知して2階から降りてきた

「なんにも出来ないんだね」って言われちゃったよ

と泣き笑いの顔で言う私を無言で抱きしめる娘と、「かーちゃんはなんでも出来るよ」と頭をポンポンと優しく叩いてくれる息子に

あらためて自分にとって何が大切なのか考えさせられた

家族の笑顔
穏やかな時間
美味しいご飯
人を人たらしめるもの

「ワーク」と「ライフ」のバランス

花屋に勤めている時の私はワーク90%くらいまでいっていたと思う。そうじゃないと回らないからだ。ライフは完全に置き去りにしていた。

ようちゃんは暮らしが好きだからきっと苦しくなるよ だから、無理しないでね

私をよく知る人から転職時にかけられた言葉だ

その時は自分ではよくわかっていなかったが、出来なくなって初めて私は私にとって家族との時間が、ささやかなことだけどご飯を作って食べたり、何気ない団欒がかけがえのない宝物だと気付いた

人は失ってはじめて大切なものを知る

人によって大切なものは違う
仕事が優位な人、暮らしが大切な人
どちらも間違いではない

それでも、なんにも出来ない と言われたことと、自分のなかで覚悟を決め転職した仕事を続けられなかったことがいまだに私の傷になっているのは確かだ

そして、中途半端に投げ出して迷惑をかけてしまったことも

「瑕、とは、大切な宝なのでございますよ」「瑕こそ、人をその人たらしめるものにございますれば」

光る君へ 第36回より

瑕 傷 きず
厳密には少し意味は違うけれど

いつか、傷を癒せれば。と思っていた

今期の大河ドラマ 光る君へ
で藤式部(紫式部)が中宮である彰子に白居易の一節を説く場面の一言である

今期の大河ドラマは、胸にグッとくる言葉のやり取りが多くて見入っている

私はこのシーンを観て

そうか傷は

そのまま まるごと
宝物のように抱いていていいんだね

と思えた

人は誰しも傷を負っている

無傷の人などいないのだ
傷つき痛みを知る
痛みを知って
人は優しくなるのだと思う
そして人は深みを増す
より魅力的になる

それなら、傷を負うのもこわくないかもしれない

悔しくて泣く母親をみて、子どもたちは胸にどんな感情を抱いたのか
私はまだ聞けていないしこれからも聞かないかもしれない

でもあの時の


塩辛いミネストローネスープの味を決して忘れない

よう

子どもたちは良く
学校の帰り道花を摘んでは家に飾って
私の帰りを待っていた

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