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# カバー小説 「『死にたい』を繰り返す私」 ( スズムラさん )

薬を飲んでも改善されない。世の中の全ての人々がが敵に見える。そんな私には今、布団と病院しか居場所はない。毎日ずっと、同じ景色を見ている。

育児に疲れたのだろうか、それとも人生そのものに疲れたのだろうか。自分でももはや分からない。
子どものためにちゃんと母親をしてやりたいという気持ちに体が追いついていかない。

母親として子供たちのお弁当を作ってやることも保護者会に出席する事もちょっとした相談に乗ってやることさえできない。

駄目な母親···。駄目な人間···。

まだ未成年の子どもたちに日々謝り、
「もう死にたい」、「今までありがとう」「ごめんね」
と繰り返す私。子どもは、何も言わず姉弟で、買い物にいき食事や弁当を作る。

子どもたちは言葉にはしないものの、私のことを世間一般に言う「いい母親」とは思っていないだろう。母親とさえ思っていないかもしれない。自分が子どもだったら母親だなんて思わない。

普通のことができない自分。
ああ…やっぱり私は死んだ方がいいのだ。
それが子どもの為であり社会のためになる。

迎えた新年。

元旦だというのにお正月らしいことは何もしてやれなかった。冬休みが明けると、学校で「お正月で楽しかったこと」をクラスで発表し合うらしい。
その時の子どものやりきれなさを思うと、言葉にならないほどに胸が強く締め付けられる。
あまりの情けなさに1日中涙が止まらなかった。

翌日、朝起きると慌ただしく階段を降りてくる子どもたちの足音が聞こえる。何があったのだろうと寝室のドアを少し開けると、急に子どもたちが勢いよく布団に飛び込んできた。その手に1枚の紙が握られている。

「どうしたの··· ? 」

「書き初めだよ。2人で一緒に書いたんだ。お母さんにあげる」

そこに書いてあったのは「生きて」の3文字だった。

「お母さんが調子悪いのは知ってるよ。でも僕たちのお母さんはお母さんしかいないから。だから『死にたい』なんて言わないで。どうしてもって言うんだったら僕たちも一緒に死ぬ ! 」

「·····」

今まで悲しくて流した涙が嬉し涙に変わった。

「ごッ…めん」うまく発せられない言葉。

「え~ごめんじゃなくて『ありがとう』って言ってよ」と笑う子どもたち。

「うんうん、ありがとうね。今までごめんね」
声がかすれていた。

精一杯、子どもたちを抱きしめる。
私の背中にまわす小さな手は温かかった。


*****


「冬休みはみんな楽しめましたか ? おせちやお餅を食べすぎて太ちゃった人もいるんじゃないかな。1人ずつお正月で楽しかったこと、うれしかったことを話していこうね。じゃあ◯◯君からどうぞ」

「親戚の人がたくさん来て楽しかった」
「お年玉でほしかったおもちゃが買えた」
「家族で旅行に連れて行ってもらった」

みんないきいきとお正月の思い出を話し始める。
先生も満面の笑みでその様子を眺めている。

「じゃあ次は◯◯君、立ってお話してあげて」

「僕が一番うれしかったのはお母さんが笑ってくれたことです」

一瞬、教室内がし~んとした。

「僕のお母さんは体調がよくないし、お金持ちじゃないから、みんなみたいに美味しいもの食べたりお年玉もらったり旅行に行ったりはできないけど、僕はお母さんが大好きです。だからとてもうれしかったです。お母さんはできないことも多いけど、「死にたい」なんて言ってるけど、僕にとっては世界一立派なお母さんです。」

教室内はまだ静まり返っている。
口を開いたのは先生だった。

「◯◯君はお母さんが大好きなのね。特別なことがなくても笑顔が見れただけでうれしいって思えるのは素晴らしいことよ。先生、ちょっと感動しちゃった」

目の前に眼鏡を外して懸命にハンカチで涙を拭う先生の姿があった。教室中が温かい笑顔に包まれた瞬間だった。どこからともなく響き渡る拍手の音。

(お母さん、大好きだよ)

窓の外にはいつしか粉雪が舞っていた。


*****


企画に参加させていただきました。


【 原作 】



スズムラさん、ありがとうございました😊

椎名さん、素敵な企画をありがとうございました😊


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虎吉
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