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「枯葉」というシャンソンは続く

秋になると、日本では必ずと言ってよいほど「枯葉」が歌われる。
ジャック・プレヴェールが作詞し、ジョゼフ・コズマが作曲した名曲だ。
最初から大ヒットしたように思われるかもしれないが、実は、難産の末にリリースされた。その経緯から、まず説明したい。

日の目を見ないところだった

このシャンソンは、映画「夜の門」の挿入歌として作られたものの、監督のマルセル・カルネが好きではなかったと言われている。
初めは映画の中で出演女優が歌うシーンがあり、その吹き替え録音をコラ・ヴォケールがしていた。ところが、マルセル・カルネ(監督)はこのシャンソンが気に入らず、シーンを切り替えて、ジャン・ヴィラールがレストランに入ってきて、ハーモニカで「枯葉」のメロディを吹くと、ふとそれに気付いたディエゴ役のイヴ・モンタンが、歌詞の最期の部分を口ずさむことになった。
だから、映画の中では、ジャック・プレヴェールの美しい歌詞もコラ・ヴォケールの歌声も披露されずに終わってしまった。
コラ・ヴォケールは、そんなキャンセル騒ぎにはめげずに左岸のキャバレー "L’Échelle de Jacob" でこの歌を披露し、次いで右岸の "Chez Gille" 、そしてとうとう、あの有名な "L'Ecluse"(レクルーズ)で歌い、評判を得ることができた。
一方、イヴ・モンタンも映画で少し口ずさむだけでは飽き足らず、プレヴェールとの交友関係を通じて、この歌をレパートリーに付け加えた。
マルセル・カルネの嗜好によってこの世から消え去りかかった「枯葉」は、コラとイヴの働きかけで見事シャンソンを代表するような一曲となったのだった。

「愛の讃歌」との結びつき

越路吹雪は、「枯葉」と「愛の讃歌」の両方をレパートリーにしていた。
彼女の歌を聴くかぎり、2つのシャンソンには何ら関連性はない。それは岩谷時子の日本語歌詞になっているからだ。
フランス語の原詞を読めば、その関連は如実にわかる。

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