いけないこととわかってる
私は、結婚してしばらくの時間が経過している。
これまで、幾度と無く夫婦喧嘩をしてきた。
正直なところ性格はお互いにマッチしていない。
趣味も合わない。
一番辛いのは、怒りの沸点が違うこと。
これが違うのは、結構しんどい。
普段通り過ごしているつもりでも怒られたり、何気ない一言に嫌な想いをさせてしまったり…。
私が良くないのはわかっている。
嫌な想いをさせたのだから。
でも少し息苦しい…。
そんな生活が十数年続いているのである。
何故、この人と結婚したのだろう。
あぁ…そうだ。
最愛の息子が授かったからだ。
息子に出逢わせてくれた神様に感謝です。
でも、夫婦喧嘩する度に「辛い」や「苦しい」がとても大きな波となり、私の日常的な感情や表情を飲み込んでいく。
そうすると、
何故、お前がそんな顔をする
被害者面するな
重たい言葉が私の感情に蓋をする。
ねぇ、お母さんはさ。
なんで結婚したの?
きっと、心配掛けてるのだな。
そりゃ、あんたができたからじゃない。
などと、ごく普通のことは、息子に辛さを押し付けるような気がして今は言えない。
きっと幸せな家庭なら、
そりゃ、あんたができたからじゃない。
と言えば、愛し合った結果の証を愛でて結婚したということになるのであろう。
あぁ、そんなふうに到底考えることはできない。
なぜならば、
私は結婚前からずっと想っていた人がいたからだ。
今でも夢に出ることがある。
本当に良くない。私はダメ人間。
でも人生で唯一、他人様から無償の愛を注がれた実感が持てた人。
とてもとても愛してくれた。
言葉にも行動にも示してくれた。
辛い時、怖い時はいつも近くにいてくれた。
しかも、依存しない程の距離感で、自走できるように背中を押してくれて、ダメな時はそっと抱きしめてくれる、そんな人だった。
そう。今でも想っているのである。
息子に出逢えた奇跡には、とても感謝。
本当に有難い。
息子も本当に愛している。
でも、夜中1人でいるとたまに押し寄せる孤独感は重たくて、彼を思い出しながらの自慰をしては虚無感に呪われる。
コロナ禍で通勤中、街中の人がマスクをしている中、マスク以外の顔のパーツが彼に似ている人を見ると、いつも目で追っては思い出してしまう。
そしてまた、1人で想像しながら処理する日々。
彼にも家庭がある。
前を向いて、主人との向き合い方を変えてみよう。
まずはハグをして、匂いを嗅いで、たくさんコミュニケーションとスキンシップをとろう。
その上で、きちんとお話し合いをしよう。
背丈の低い私は、論理的に建設的な話をしても、小さな犬が吠えるように煙たがれる。
だから、まずは行動するのである。
機嫌が良ければ、可愛がってくれるはず。
洗面所で歯を磨く旦那の背後から、ぎゅーっと抱きつき、正面に周りハグ。
無視して歯を磨く旦那に負けず、胸に顔を押し付けてみる。
すると、
チッ
えっ、舌打ち?と思い、顔を離した瞬間には腕の中から旦那の身体は引き離され、目にうつるのは立ち去る後ろ姿。
せめて、なんか言ってよ…。
しばらくの間、きっと半年もの間だろうか、本当に無の状態を作り、息子との時間以外はペッパー君と変わらない人間になっていた。
そんな中、彼から久しぶりにLINEに着信した食事のお誘い…
ちょっと待って…。
なんで、このタイミングなの。
聞いて欲しい。たくさんのこと。
何もなくて良いから、大変だったねって同調してほしい。
他の誰かではなく、彼に。
本当に良くない。本当にだめ。
でも私は疲れ果ててた。
これを言い訳にしてランチに行った。
少し、顔には皺が増えていて、でも変わらない優しい目や喋り方。
安心する。
何よりかわいいのである。
ひとしきり話を聞いてくれて、やはり同調してくれて、逆に彼も同じように大変な想いをしていて、共感が持てて、とても有意義なランチだった。
そのまま帰ろうと思い、電車に乗った。
すると、彼から
まだ一緒にいたい。
とLINEが入った。
私は返答することなく、反対側のホームへ走っていた。
もといた駅の改札でうろうろと彼を探し、LINEに目を落とすと、スッと優しくハグをしてくれた。
あぁ、この匂い。落ち着く。
その後、何度も結ばれた。
その度に涙が出た。
久しぶりの愛の実感。
その実感を持てる言葉も貰った。
聞くと彼も私と殆ど同じの結婚生活だったそうで、毎日、子供を育てる使命感と同時に押し寄せる虚無感に苛まれていた。
私達はいけないことをした。
感情に身を任せてしまった。
最低だ。
でも、私達はこれを充電時間として、また数年頑張ろうと誓った。
また潰れてしまった時に、互いに癒しを求めて頑張るのだ。
批判される、絶対に。
でも、自分を保てる術があるというのは、とても幸せだ。
手段が一般的ではないだけ。
そして私は、彼がまだ私のことを想ってくれていたことを知れて、私がまだ彼を想っていることを伝えられて、とても満たされた。
しばらく会わなくても大丈夫。
本当に私はダメ人間。