自宅に帰りたい患者さん、その後はどうなった?
私が勤めている病院を先月退院した患者のTさん。
退院しなくても良かったのだけれど、本人がどうしても帰りたいと怒るので、私達も家族もしぶしぶ退院してもらいました。
病院なんて、生活するところではないのです。ですから、Tさんの帰りたい気持ちもわかるのです。家で自分の好きなように生活したいって思うのは当たり前だと思います。
だけれど、やっぱり人は一人では生きていけない、だから出来ないことは人を頼ってくれたらいいと思うのです。でも、Tさんの場合はサービスを使うのはやっぱりハードルが高かったんですよね。
自宅に帰る時の準備
前回の記事では、家に帰るための準備をしています、という内容で終わっていたと思います。
実際、Tさんが一人暮らしとなる自宅に帰る時のサービスはどのように決めたか。
退院するときに、ご本人の状態をケアマネージャーと家族に伝え、だいたいのサービスを決めておきます。自宅に帰ってから、サービス内容について、サービス事業者と一緒に打ち合わせを行います(サービス担当者会議)。
そこで決まった内容は・・・
1.デイサービス・・・週2回で調整
2.ヘルパー・・・毎日、掃除や洗濯、安否確認など
3.福祉用具レンタル・・・ベッド横の手すり、トイレ・玄関の手すり
4.配食サービス・・・1日2回弁当のお届け、安否確認
5.紙おむつの定期配送・・・月1回
介護サービスは、介護度によって使えるサービスの量が異なります。使えるサービスの量に応じて、必要なサービスを組むのが、担当のケアマネージャーの仕事です。
ケアマネージャーが患者に必要なサービスを組む時に必要なのは、本人の気持ちと客観的にみたサービスの必要性の判断です。
Tさんはなんとか一人の生活は出来るかもしれませんが、きっと家で転ぶと1人では起きることが出来ないと思います。ですから、福祉用具で環境を整えたり、ヘルパーや配食サービスでの安否確認は必要だと考えました。また、もともと家がごみ屋敷一歩手前だったようですので、定期的な掃除洗濯などは必要ではないかということでヘルパー利用は必要と考えました。
そんな思いもあってのサービス調整でしたが、本人はあまり必要性を感じていなかったのです。
自宅に帰ってから
自宅に帰り、最初はサービスを使っていました。心配していたデイサービスの利用も2回くらいは行ってくれたようです。
ただ、しばらくすると、手すりはいらないと返却されてしまいました。
デイサービスも、やっぱりやめてしまいました。
オムツの配送の時は、業者さんに押し売りだと言って追い返してしまいました。
ヘルパーさんも来なくていいと言います。
そうしてすべてのサービスを一度やめてしまったのですが、やっぱり来て欲しいと泣いてみたりして、またサービスを再開。
でも、またすべてやめると言い出してしまいました。
Tさんは、自分でタクシーを呼んで、スーパーに買い物にも行っていました。これは入院中から言っていたことでしたので、まぁ、ある意味有言実行って感じですね。笑えるような笑えないような。タクシーで買い物に行けば往復3000円です。でも、それは本人に言わせると必要経費なんだとか。そして、歩くのも不安定ですので、どうやって買い物しているんだろうって思ってしまいます。
ヘルパーさんに来てもらう方がよっぽど安く済みますが、そういった道理はTさんには通じないようですね。
そうして、サービスをすべてやめた後、自宅で転んで起きれなくなり、約1日そのままで過ごし、紙パンツはぐしょぐしょになり布団や床も排泄物で汚れてしまっていました。
さて、これで1人の暮らしは継続できるでしょうか。
本人の気持ちと現実と
Tさんのもともとの性格もあるでしょうが、たぶん、認知症や、なにか精神疾患があるのかもしれません。
冷静な判断が出来ませんし、このままでは自宅での生活は生命に関わりそうです。Tさんが「自宅で自分の思うように生活したい」と思う気持ちは、もちろん大事にしてあげたいですが、そのために必要な最低限のサービスも拒否してしまうと、一人暮らしの生活は難しくなってしまうでしょう。
本人の気持ちが最優先ではあるのですが、現実とのギャップが大きい場合は、どうしたものかと考えてしまいます。
今、こういったどうやって生活しているのだろうと思う高齢者が増えてきている気がします。背景に、認知症の問題や経済的な問題、家族の問題があるような気がします。
私たちは、こういった高齢の方にどのように関わっていけばいいのか、考えさせられる出来事でした。なかなか思うようにはいかないものですよね。