「迎える、祝う、赦す」 能登部 直美 (のとべ なおみ)
フランスでラルシュ60周年記念祭がありました。
なかまの江川さんとかなの家の友人と私に参加する機会が与えられました。記念祭の前のフランスのコミュニティでの生活は非常に学びとなる時間となりました。
まず感じた事は、アシスタント全員が心にも時間にも余裕があるように感じた事です。私達の担当を引き受けてくれたエマもとても陽気な方で鼻歌をよく歌っていました。
もし、エマが忙しさを前面に出している人だったら気兼ねし緊張しながら接する事になったでしょう。忙しいはずの彼女が放つその鼻歌は、周りの空気も緊張する私の心も穏やかにしてくれました。
また文化の違いに驚く事もありました。
それはハグです。
休暇中の住み込みのアシスタントが夕食時に帰宅した時、なかま達が大はしゃぎで席を立ちハグを求め駆け寄りました。久しぶりに会う特別な人が来たのかと思う位盛大でしたが、それが日常でした。
非言語のなかまと交わすハグは互いに無言で包みこみ合い、静かに祈りあっているように思えました。言葉の要らないハグは互いの信頼、感謝、愛を確かめ合え、また表明できる素晴らしい伝達法だと思いました。
と同時に、なかまとの関係性がいかに深いコミュニティかを知ることができました。
自分はというと・・・、江川さんとの関係が難しくなっていました。彼はフランスに行くのなら、いい人でないとならないと思い込んでいた様です。かなの家で、他のなかまからの口喧嘩を売られても買わない生活をし続けていましたが、フランスに着いた途端に彼を抑えていたものが外れたのでしょう、私に対し命令口調が始まりました。私は何とかかわしていましたが、ある江川さんの行動が自分に向かってきた時に、とうとう怒りが爆発しました。
「やめて欲しい!こんなんじゃ一緒に旅できない!」と彼に言い放ちました。「もうしません」と棒読みの江川さん。今まで江川さんと他のなかまとで起きるトラブルの仲裁には入ってきましたが、自分がぶつかり合う当事者になってしまいました。溢れ出る怒りを露わに出してしまいました。
結局、私は江川さんをまだまだ知らなかった、という事を知りました。旅を続ける為の話し合いをし、互いに気持ちを切り替え記念祭に向かいました。
記念祭で全世界から集まるラルシュとの交流は素晴らしく、得難い経験となりました。最終日には特別な事が起こりました。豪華ヨットに乗る機会が与えられ、アシスタントとなかまのフランソワとで乗船しました。しかし出発後、江川さんはバケツ両手に船酔いと格闘することになってしまいました。
乗船時間はまだ2時間以上あります。「帰りたい」と言う江川さん。フランソワ達にとって貴重な時間を奪ってしまうと心が痛みましたが、江川さんの苦しみは限界でした。
「ごめんなさい!陸にもどって欲しい」とお願いしました。乗るべきじゃなかった、未然に防げた事だったのに。やるべき事を知ってなかった自分が情けなく、申し訳なく。苦しむ江川さんと共に苦しみながら帰路を辿りました。
到着後、江川さんはベンチで休んだ後、起き上がる事が出来きるようになりました。他のヨットから降りてきた皆に回復を祝福され始めた時、突然フランソワが私の目の前に現れ、私にハグをしてくれたのです。江川さんの回復を一緒に喜んでくれているの?でも江川さんじゃなく私に?と戸惑いました。
しかし、長いそのハグで彼から伝わってきたのは「もう大丈夫だよ」でした。自分自身のすべての負の心が癒されていくのを感じました。涙をぬぐいながら「メルシー」と、彼に何度も伝えました。これがラルシュの相互関係。なかまからの賜物に触れることが出来たこの体験は心に大きく刻まれました。
その後、江川さんは最後のダンスパーティーに参加でき、言葉のあるなしではなく、みんなが一緒にいる事を喜びあい、記念祭は幕を閉じました。
夢のような日々を思い出に、かなの家に到着し江川さんの部屋で荷物解きをしている時、ふと江川さんが私に「なおさんありがとうね」と言ってきました。
満面の笑みを向けながら放たれたこの言葉に、私の心に何かとてつもなく熱いものが溢れてきました。色々あった負の感情が全て洗い流されました。私も「怒ってばかりだったね、ごめんね」と謝ることができました。
そしたら江川さんから「いいから、いいから!気にしないで」と返ってきました。やはり江川さんの方が一枚上手!そう感じながら仲直りする事ができました。
私の負を引き出してくれた江川さん、それを取り去ってくれたのもまた江川さんでした。こうして私達の濃厚な旅は終わりました。
ラルシュの神髄である「迎える、祝う、赦す」この全てを経験させてもらい感謝で一杯です。
忙しい時ほど鼻歌が歌えるような人になりたい、そう思いながら、今日々の暮らしをしています。