人間は慣れる生き物である
どんなに好きな食べ物でも、どんなに好きな音楽でも、毎日食べていれば、毎日聴いていればいつかは飽きてしまう。
飛び上がるほど美味しい食べ物、感動するほど素敵な音楽があっても、それだけ食べていれば、それだけ聴いていれば幸せになれるかというとそうはならない。
反対にきつい仕事、大変な作業があっても、毎日のように繰り返せば少しずつ楽になってくる。何年、何十年と仕事を続けていれば、新人の頃には苦しく感じていたことでも楽にこなせるようになる。
人間に「慣れ」がなければ何度でも同じことをして幸せを感じようとしてしまうし、反対に不幸を感じたことは一切やらなくなってしまう。
「慣れ」という仕組みを導入することが人間にとって生存競争上有利に働いたのだと考えられる。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンのプロスペクト理論では、人間の価値判断は金銭の絶対量では決まらず、相対的な変化に反応するということが示されている。
誰だって金銭的に困窮しているときに得た100万円と、十分に裕福なときに得た100万円に同じ価値は感じない。だがこの考えは古典的な経済学の考えとは相容れないという話。
経済学は人間の行動原理を解くものなので「人間は変化に反応する」という見方をしているが、私たち個人の主観からは「人間は慣れる」ものとして捉えられる。
同じことばかりしていても飽きてしまう。それは誰もが経験的に知っていることだが、それは同じ食べ物、同じ音楽のように、同じ対象に対する価値観が一定ではないということ。
私たちは「慣れ」の世界の中で、相対的に物事を見ているのである。