サイレントヒル2リメイク
イントロダクション
排水溝へと冷たい水が流れていく。男は震える右手で、何かを拭い去るかのようにもう片方の指先を洗っていた。
濡れたままの右手で、瞼を触る。
鏡を覗こんだ男の顔は、心なしか目に光がないように見える。そして、男は自分だけにしかわからない何かを確認したことに満足したのか、ゆっくりと外へと歩き出す。
扉を開くと一迅の風が彼の頬を滑るように抜けていった。まるで、大事なものを奪い去るかのように。
3年前に死んだ妻から手紙が来た。
その手紙は亡くなったはずの妻メアリーからのものだった。ジェームズ・サンダーランドは、2人の思い出の場所である、サイレントヒルの街に帰ってきた。
死んだはずの妻を探すために。
サイレントヒル2って何?
イントロダクションはこんな感じだ。これノベライズする人楽しかっただろうなぁ。書きながらジェームズの心情や陰鬱なあの雰囲気を文章に起こすのは行間を想像するのが中々面白い。
知らない方に基本的な情報を伝えると、サイレントヒル2はもともとPS2で発売されたホラーゲームだ。クリーチャーと呼ばれる敵を倒しながらステージの先へと進んでいく。それはリメイクされた今作でも変わらず。木の棒やら鉄パイプやらクリーチャーを殴ったり蹴ったり、ショットガンやハンドガンをぶっ放したりとしっかりとアクション要素もある。
僕はホラーゲームを本格的にやるのは初めてだった。生まれつきのビビリで、怖いものは大嫌い。恐怖のビデオとか無理なタイプの人間だった。けれど、今回サイレントヒル2のトレーラーや前評判を聞いて、これはやらないといけないタイプのゲームだなと確信し、1年前から目星をつけていた。
そして、封切りから数日経ち、そこからは怒涛の如くやり一週間ぐらいでクリアをした。
結論からいえば、よかった。
神ゲーかどうかと言われれば、そもそも神ゲーという言葉の裏の、その人の感じた意味がごっそりと抜け落ちたことに対する無頓着さと、無理やりみんなの使っている言葉でそれを補完しようとする表現に対する怠惰さが嫌いなのでわからないけど、少なくとも僕は好きだ。ここからはその感想ということになるのだが、いかんせん内要が膨大だから印象に残ったところをつらつらと思いのままに書いていく。だから、何回かに分けることになるだろう。
こんな川端康成は嫌だ。
サイレントヒル歴史資料館からトールカ刑務所へと下っていく長い長い階段。ひたすら目の前の底の見えない暗闇を睨みながら前にスティックを倒す。ジェームズと僕はこの時完全に一体となっていた。狭い階段、四方の壁は漆喰が剥がれ、剥き出しの煉瓦が見える。遠くからは船の汽笛のような、刑務所のサイレンのような、大地が震える時の地響きのようなそんな禍々しい音が聞こえてくる。
どこまでも、どこまでも、どこまでも、終わりの見えない階段を降っていく。
いつ終わるのかという不安と、それを煽るようになり続けるサイレン。
僕は気は触れてしまったのだろうか。
段々と感覚が麻痺してくる。僕は本当に操作しているんだろうか。確かめるように、スティックを倒すのをやめると、ジェームズも立ち止まる。だが、サイレンは止まなかった。少なくとも、ジェームズだけは僕の味方らしい。歴史の暗部とジェームズの心の深い古層へと降りていくような錯覚がする。そして自分でもよくわからないうちに、気がつくと目の前には重々しい金属の扉があった。
長い階段を下り降りた先は刑務所だった。
最悪な改変の川端康成だった。
暗黒ダイバージェームズ
とっくに正気と狂気の境界線を超えてしまったような錯覚を抱きながら進めていくと、ステージの空間はどんどんと現実感を失っていった。ここはもはや僕の知っている現実とは接点を失った世界らしい。それが物語終盤から薄々とわかってくる。
風呂場を覗き込むと、鍵が見つかった。金網のついた扉が下向きについている。鍵を開ける。どうやらそれは下向きについた扉も開ける鍵だったようだ。
ジェームズが下を覗き込む。
見たところ、吹き抜けになった穴のようだ。穴の壁面はコンクリートで塗り固められていて、比較的新しいように見てる。だが、どう考えてもこんなものを作るのはおかしい。
アクションを促すように、Aボタンが出る。
僕はすっかり困惑してしまった。見たところ、地上が見えないところから考えると高さにして高層ビルの6階以上はある。そんなところから、生身の人間が落ちて生きているわけがない。だが、進む道はどうやらこれ意外にないように思う。
ジェームズの息遣いは荒くなる。僕のコントローラを握る指も汗ばんでいる。彼は意を決したようにハッと息を止めると、虚空へと身を乗り出した。
どうやらいつの間にか地面についていたらしい。マップがない。
探し回っているうちに、ここは迷宮ということがわかった。
歩き回るが、マップがないからか全く方向が掴めない。
同じような道がずっと続く。見たところ、フローリングの床があることから室内であるということはわかる。けれどそれが帰って位置感覚を狂わせる。僕は正しい方向へと向かっているんだろうか。それとも正しい方向なんてものはとっくにないのだろうか。妻を探す。ただそれだけを思ってやってきたことさえも彼はもう忘れてしまっているんじゃないだろうか。そんな恐怖感に駆られた。