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恋愛の駆け引きとプレゼントの魔力—愛なのか、秘められた計算なのか—

知人がマッチングアプリで二人の男性から同時にアプローチされていると聞いたとき、まるでドラマのような展開に思わず笑ってしまった。
「へぇー、モテモテじゃないですか!」なんて軽くからかいつつ、心の奥ではちょっと羨ましい気持ちも芽生えていた。

話を聞くと、一人は社長で、いきなりブランド物の財布をプレゼントしてきたという。
もう一人は証券アナリストで、「チケットは手配するから、一緒に旅行に行こう」なんて誘ってくるらしい。

「どっちがいいかなぁ?」と笑顔で語る彼女を見ていると、「なんだか楽しそうでいいな」と思う反面、果たしてそれは純粋に喜んでいいものなのかと、ふと不安がよぎる自分もいる。

大人の恋愛って、ほんとにややこしい。 プレゼントをもらっても、「私のことが好きだから?」と単純には喜べない。むしろ、「これ、何か下心があるんじゃないの?」と疑ってしまう。

人間関係において、プレゼントには不思議な力がある。目に見える「物」以上に、目に見えない「気持ち」を左右し、関係性を大きく変えてしまう力があるからだ。

例えば、友人から誕生日プレゼントをもらうとき。嬉しい反面、「今度は自分が何か返さなきゃ」って、自然にそんな気持ちが湧いてくるものだ。

この「プレゼントをもらったら返したくなる」という性質について、フランスの社会学者マルセル・モースは『贈与論』の中で詳しく研究している。彼によれば、この「もらったら返す」という行動は、世界中どこでも見られる普遍的な人間の特徴なのだという。

この考えを恋愛に当てはめると、交際が始まる前からの高額なプレゼントには、どこか深い意図が隠れているように思えてしまう。

恋愛におけるプレゼントは、単なる贈り物以上の意味を持つ。 値段相応のものをすぐ返せればいいが、高価なプレゼントとなると、受け取った側には「何を返せば釣り合うんだろう」というプレッシャーがかかる。

つまり、高価なプレゼントを受け取った側は、ある種の「負債」を抱えた状態になり、贈った側は相手に「見合ったものを返してほしい」と要求しやすい関係性を築けるわけだ。

こうして、二人の関係性を大きく揺さぶるプレゼントの影響力を考えると、「高価なプレゼントに見合う見返りを求められるのではないか」という懸念が生まれる。これは私が小説やドラマの影響を受けすぎているのかもしれないが、現実にも十分起こりうることだろう。

「私は相手の本質を見抜ける!」なんて自信を持つ人ほど、恋に落ちると判断が甘くなりがちだ。
特に「この人だけは違う」と信じた瞬間、理性のスイッチがあっという間に切れてしまう。自分もそんなふうに恋に溺れかけた時期があったから、分かるのだ。

だからこそ、私は恋愛における自分なりの基準を持つようにしてきた。
その基準とは、双方がリスクを負う覚悟を持ち、お互いに「投資」する意志があることだ。
恋愛では、お互いの「投資」のバランスが重要だ。ここでいう投資とは、時間やお金だけでなく、感情や成長への意欲も含まれる。
一方的な贈与や見返りを求める関係ではなく、両者が共に成長できるパートナーシップを目指すことが、健全な関係を築く鍵となるからだ。​​​​​​​​​​​​​​​​そうした考えや覚悟を共有できる相手との恋愛ならば、多少のリスクがあっても受け入れられると考えていた。

ただ、現実にはその基準を貫くのは難しく、「例外を認めてもいいかも」と心が揺らぐことも少なくなかった。人間の感情とは予想以上に不安定で、自分の変化に驚くこともあるが、それを発見するのも案外楽しいものだ。

現在の夫とは、偶然その基準が合い、気づけば10年以上の歳月を共に歩んできた。周囲からは「夫のために引っ越しや転職までして大変じゃない?」と私が失ったものを心配されたこともあったが、私は「これは将来への投資です」と答えていた。
恋愛に損得の感覚は避けられないものの、すべてを損失と見なせば味気なくなる。だからこそ、「投資」をしていると捉えることが重要だ。

証券会社の営業として働いていた経験から、私はリスクを負わずして大きなリターンを得ることがいかに稀であるかは身に染みて理解している。
しかし、それでもなお、自分の手の中にあるものを惜しみなく手放すことで、これまで知らなかった新しい価値や未知の可能性に触れられる瞬間が訪れるかもしれない――そんな思いが私の心を静かに震わせるのだ。

「無償の愛」という言葉には、私は違和感を覚える。人は無償と言いながら、どこかで見返りを求めてしまうものだ。だからこそ、プレゼントひとつにしても「どんな意図があるのか」を見極める目が必要になる。

恋愛は、年齢を重ねてもなお、予測不可能な要素に満ちている。 ただ、「相手の気持ち」を推し量るばかりでなく、「この関係から私は何を得られるのか」という視点で考えることで、より豊かな関係を築けるはずだ。結局、恋愛を楽しむ過程で、その本質的な魅力が自然と見えてくるものなのだと思う。

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