鈴木の暗喩
目が覚めたら、目の前がもやけている。
人が、いつもより少しだけ少ない。
それなのに、いつもより早めに出てきた人たちという気がする。
またあの白い冷たいやつが大量に降ってくる日だろうか?あの日の朝は、いつもより早くに人が出てきた。あれが降るにしては今日はあまり寒くない。
鈴木はまあいいやと思って、また目を閉じた。
しかしもう眠くなかった。
眠りが浅いのは、自分の背丈が高すぎるからではなかろうかと鈴木は思う。いわゆる中肉中背というやつでほかのやつらに埋もれていたかった。ビルの森、というたとえがあるけれど、自分はその森にはいない。
森というのは同じような背たけの木がだらだら続いているものだが、自分は背が高すぎて森には入れないし、最新の技術で造形されているからやはり森にはなじまない。専用の中庭もあるし、センサーで水が湧く噴水もある。ベンチには人がたくさん座っている。森の一員になりたかった。日差しをまとわりつかせて、地上を歩く人たちをまぶしくさせるのは、もういい。
もやついていると思ったのは霧だった。
そのせいで人が少なかったのだろうか。
鈴木のところに来るはずの人間たちの出足も遅れている。
一階はロビーになっていて、真ん中に少女のかたちをかたどった石像がある。名前は、アキ。
石像のプレートにはそう書いてある。作者の娘か何かだろうか。それとも秋が好きだったのか。アキはいつもというかずうっと、タクシーを呼びとめている人のような格好で右手をあげている。肩すれすれのおかっぱ頭、ノースリーブのワンピースに裸足。髪の毛も、目の中までも灰色だ。
人間たちはアキの横を通り過ぎ、エレベーターに乗る。
完全に遅刻した人間が走ってきた。エレベーターが上がったり下りたり働いて、鈴木の身体を人間まみれにしていった。パソコンのスイッチが入れられ、挨拶が交わされ、コピー機が動き、電話が鳴る。ロビーは静かになったが、石像は右手をあげたまま。
やがて霧が晴れて青い空が見えてきた。だらっとした形の雲がふたつみっつ浮いている。
道には車が走り、人が歩き、コンビニのビニール袋がふわふわ浮いたり沈んだりしている。雲の間に小さな黒い点ひとつ浮いているのが見える。黒い点はだんだんこっちに近づいてくる。よく見るとそれは黒い鳥だった。黒い鳥が中庭のあたりをぐるぐる回ると、一本の木の枝に足をひっかけたと思ったら、電流でも流れたみたいに無様に後ろに飛びのいた。
誰かがいらいらしながらつくった折り紙みたいだなと鈴木はのんきに思う。
折り紙鳥はしばらくそんなふうにしていたんだけど、いきなり空高く飛んで、仲間を連れて戻ってきた。黒い鳥の群が中庭を埋め尽くし木をがつがつと噛みくだいて、ぼろぼろにした。
鳥ってそんなことするのかと鈴木は訝しんだ。すると鳥たちは一斉にビルのほうを見た。羽をばたつかせ、黒い羽が舞い散った。
黒いのに続いて赤や緑や黄色の鳥が飛んでくる。どれもやたら濃い色をしている。鳥がビルを取り囲んだ。あっという間にビルは汚いクレヨンの箱みたいになってしまった。
実際、鳥たちはガラスをつつき始めている。
黒い鳥が止まったとき、窓際にいた若い男は電話をかけていた。受話器を持つ男の手には血管が浮き出ていた。電話口から早口でまくしたてる声がする。鳥がつつくと窓はサランラップみたいにぺらんと剥がれて嘴にくっつき、鳥はそれを鬱陶しそうに振りまわしながら部屋の中に侵入したが男は気づかない。鳥によって、机の下の電話線をぶった切られる。
いきなり電話が切れたので、男は驚いた顔で急に無音になった受話器を見つめた。それから勢いよく立ち上がると、受話器を宙に放り投げた。電話はその反動でずるずると机の下に落ちた。
男は、相手が怒って電話を切ったと思っているんだろうか。
そのままトイレに行き、顔と手をばしゃばしゃ洗っている。目の前の鏡にも黒い鳥がいて、羽ばたいているのが映っているのに、何も見えないみたいに気が付かない。
鳥はそんな調子でどんどん中に入ってきてしまう。どうしたものか。
べつに痛くもかゆくもないけれど、これからしばらく修理人が這いまわるのかと思うと鈴木は憂鬱な気持ちになる。
赤、黒、青、茶色、となぜか色ごとに各階を襲って、人間の業務をめちゃくちゃにして、そこらへんのものに糞尿をかけたり、机の上のものをけちらかしたりしていたが、人間たちは誰一人として鳥の存在を認めようとしない。
こいつら、鳥たちをなにかの比喩だと思っているのだろうか。幻覚だと思っているとか?それにしては、なんだかみんな興奮してはしゃいでいるようにも見える。きっと、こんな破たんを待ち望んでいたのだ。
緑の鳥が、女人しかいない会社に入り込んだ。
コピー機にまたがっていると、一人の女人がガムを噛みながらコピーをとりにきた。この会社では飲食はいつでもどこでも自由である。鳥を見た女人は、ガムをぺっとそのへんに吐きだした。何度も見かけたけどそんなことをする人だとは思わなかったのに、と鈴木は驚いた。
しかも彼女は持っていた紙束で鳥をはたき落とした。
落とされた鳥が大声で鳴きだした。
女人はコピー機にけりを入れながらむかつくんだよ、と鳥以上に大きな声で叫んだ。緑はエコか?平和か?へっ、笑わせんじゃねええええ。
女は見えない何かに向かって体いっぱい振り回す。ほかの女人たちも加勢して鳥たちと闘っていたが、そのうち何をしているのかわからなくなって腕を振りまわしながら階段を一斉に駆け降りて行った。
他の階も似たようなものだった。
エレベーターも階段もパニックだ。ロビーが人でいっぱいだ。ぺらぺらになった窓から飛び降りる人もいたが全員が無事で、何事もなかったように歩き去った。
そして、鈴木から一人の人間もいなくなった。
すると最初にやってきた黒い鳥が、展開図みたいに広がり始めた。内臓などの中身がどろっと出るのかと思えば、そいつは無数に筋のついたよれよれの一枚の黒い紙になってしまった。鳥たちは一羽、また一羽と赤黒青緑茶色の紙になって、窓から舞い落ちて行った。
ガラスは砕け散り、つつかれまくった壁も崩れて骨組みだけになった。鈴木は一瞬泣こうかと思ったが、どうせ誰かがすぐにきれいにしてくれるだろうし、その際自分が泣くと表面が汚れて修理に支障をきたすと思って泣くのはやめにした。
残ったのはエレベーターと、屋上の給水タンクと、タクシーを呼んでいる石像だ。石像は、人間達がみんな出て行くと右手をゆっくり下ろして台から降りた。
もう比喩としてではない、人間の女人になった。
☆
急に肩から掌にかけてざあっと血が流れたなと思ったら、右腕が下ろせた。まじで変なポーズだったよ。自分を作った彫刻家を憎みたいとアキは思ったが、とりあえず血が流れるのはとても気持ちがよかったので台座から飛び降りた時の反動で足の裏がじーんとしたのも、みんな血のなせるわざだと思って我慢した。
エレベーターや階段からわーっと人が出て来たときは、てっきり防災訓練でもしているのかと思ったのだが、先導している人もおらず、みんなすごい形相で頭から血を流したり、スカートが半分脱げちゃっている女の人もいたのですぐにこれは何かあったなと思った。人々はののしりあったり、倒れている人を平気で踏んづけたりしながら、そのまま出て行って、戻ってこなかった。
どうやら鈴木は壊れてしまったらしい。鈴木というのは、人の名前ではなくビルのことで、アキがそう名付けた。鈴木自身はそのことを知らずに自分を鈴木と呼んでいる。
さっきまでぶつぶつ何かを言っていた鈴木は今は黙っている。死んだのだろうか?どちらでもいいや。とにかく今は頭がねっとりして眠い。長いこと立っていた疲れがきたらしい。
鈴木が完全に崩れる前に外に出ようとしたら、なにかのベルのような音が聞こえてきた。電話だろうか?しかし、電線が切れたんだから電話が鳴るはずがない。生き残った電話が自分のことを風とか雷だと思っているのだとしたら、これからもずっと鳴り続けることになる。
「もしもし!」
思いっきり叫んでやった。自分の声を聞くのは初めてだった。もっと可愛い声だと思ったけど掠れたおばさんみたいな声だ。でも、案外いいかも。
五時を知らせる音楽が流れている。鈴木には、朝九時と夜五時にそれぞれ違う曲が流れる。五時のは物悲しいが、人間たちはこの曲を聞くと嬉しそうになる。家に帰れるという反射的なものだろうが、結局はそのあとも居残って仕事をしている。
「五時だから!」と叫んでやると電話が止んだ。
鈴木を出て、バス停を目指す。そこにいれば、駅と鈴木をつなぐシャトルバスがやってくるはずだ。ベンチに座って足をぶらぶらさせていると、長細いバスがやってきて、ぷしゅ、と音を立てて止まった。ドアが開いて、中から紺色の背広に赤いネクタいの運転手が降りてきた。
「もう、みんな居なくなったと思ってたぜ」
運転手は紺色の帽子をはずすと、ぺたんこになっている髪の毛をなでつけてまた帽子をかぶりながらそう言った。
「今日はもう、走らないぜ。バス」
「それならどうしてとまったの」
「だってあんたが座ってるのが見えたし。すっげえ寒そうな格好で」
アキは袖なしワンピースの腕を見た。鳥肌が立っている。彫刻家は、女の身体に冷えは大敵ということは考えなかったのだろう。いや、男だって冷えはよくないだろうが。
「待ってな。今なんか持ってきてやっから」
運転手はまたバスに戻っていった。ふいに鈴木の方角から強い風が吹いてきて、そこいらの砂を巻き上げて、その砂が目の中に入った。瞬きをすると涙が流れたので、一瞬これが泣くということなのかと思ったがとくに悲しいわけではないので、ただ砂を眼球から押し出しているだけか。
「ほい、これ。客の忘れもん」
運転手がくれた青いセーターをすぽっと頭からかぶったが、袖も裾も長くて、青いワンピースを着ているみたいだ。
「男物だったか」
「でも、あたたかい」
「ビルのやつら、ぐにゃぐにゃになってどっかに行っちまったな」
バスに町まで連れられて降りたころには空は真っ黒くなっている。まんまるい月が見えて空気は澄んでいた。ベンチに横たわってぐっすり眠ってふいに目を覚まして、あ、寝てたんだと思い、また寝た。鈴木にはいつも、夜になっても窓に明かりがついていたなあと思いながらまた眠った。
クラクションの音がして薄目を開ける。前の道に灰色の車がとまっている。運転席の窓が開き大きな四角い顔が出てきた。
「あっ」
その顔は真ん中から左右に割れていた。どういう仕組か、真ん中あたりから、「乗りな」と声が出た。それがなんなのか、すぐにわかった。
「もしかして、エレベーター?」
助手席にまんまるく太った男が座っている。
「あたしは確かにエレベーターだよ。こいつは給水タンクだったけど、いまはあたしの弟なの。つまりあたしは姉」
エレベーターが手を伸ばして男の肩に手を置いた。
「早く乗りなよ」と弟が親指で後ろの席を指さしたが前を向いたままだ。
「もう、エレベーターとかタンクとは言わないでよ」
姉が言い、車が走り出した。フロントミラーに黒い髪の女がいる。自分だ。
背もたれに身体を預け窓の外を眺めていると、家と街路樹と信号機が混ざりあってひとつになったり、家に木が刺さったり、信号機がコンビニで買い物をしていた。目の中で景色が混ざっているのだ。
「あんた、だいじょうぶか」
弟が前を向いたまま言った。アキは黙って頷いた。
「もうすぐ橋のてっぺんだ。そしたら景色は全部消える。あとは降りて行くだけだ」
てっぺんにつくと姉の顔は割れておらず、きれいな狐が化けたようになっている。弟も、細い狐が化けたように細い。
「私たちの家に行くけど、ここからは歩いてもらうよ」
姉の顔は変わっても、声は変わらない。
黄色い稲穂のなかを小さな獣が何度も通ってできたような細い道を歩いた。空の高い所を鳥が二羽、つかず離れず飛んでいたかと思うと、季節を無視した花が咲いている。そのうちに道が開けて、瓦屋根を載せた大きな平屋が並ぶ道に出た。
「もうすぐ家だ。うちは町でもいちばんでかい」と弟が言った通り、たどり着いたのはすすけた土壁に囲われたひときわ大きな家だ。門先には家紋も何もない真っ赤な暖簾がかかっていたが、土に着くほど長くて向こうが見えない。最初に弟がくぐると暖簾は赤いべろのようにまとわりついて、弟はそれをうるさそうにはらって向こうに消えた。
「お先に」
姉も行く。アキが行こうとすると、背後から土を払う音がして誰の足もささっていない草履がぞろぞろと行列でやってきて暖簾に触れることなく入っていく。最後のやつにとっさに足を踏み入れると、ぎゅっと踏みつける。
「早く入りなよ」
庭には白くて丸い石が敷き詰められてまぶしい。沓脱石で脱いだ草履はあわてて逃げていき、弟がそれを見て、
「あれはビルでばらばらになった窓なんだよ」という。
長い廊下を歩くと、三十畳くらいある広間についた。
「ご飯持って来るから、そこの浴衣に着替えて」
弟が指さした行李を開けると、金魚と出目金模様の浴衣が入っていた。光を浴びた金魚がすす、と泳ぎ出し、出目金がはねる。帯を締めると元の場所におさまり、それきり動かない。
「金魚は非常用の赤い豆ランプで、出目金はどこかの部屋のドアノブなんだよ」
いつの間にか、膳をさげた弟が立っている。
「みんながみんな、人になるとは限らないから」
ごちそうはどれも舌がとろけそうに美味しかったが、椀も、煮つけも、刺身も、ふしぎとみな似たような味がして食べれば食べるほど空腹がつのり、食べつくした途端に空腹は消えてしまった。腹が張って、もう空腹がどんなものか思いだせない。
「おいしかったか」
食べ終えるところを見ていたように、弟が戻ってきた。
「人はどこに行ったのかな。ビルの人」
「あの人たちはいなくなったよ。かわりに俺たちが人になったわけで」
「だとすると、ここはすごく人の少ない町だね」
これから自分たちがこの町で人として生きるなら、繁殖しないといけないだろう。それはいやだなあ、とつらつら考えていると、弟は白けた顔をして出て行った。
庭からさしてくる陽が弱まったな、と思ったら姉が現れた。お風呂に行くよ、と言う。
「ちょっと遠いから」
姉は廊下を歩かずにいちいち襖を開けて暗い部屋のなかを通った。
「襖を開けたままにすると、何かが入ってくるかもしれないから必ずきちんと閉めるんだよ。後ろ手じゃなくてちゃんと向かい合って」
「後ろ手に閉めたらどうなるの」
「自分では襖を開けられないものが入ってくるんだよ」
姉は、こちらが襖を閉めたかどうか振り返りつつ、暗い部屋をすり足で歩いていった。床がなだらかに下りはじめ、どこからかたぷたぷと水音がしてきた。汗をかいた曇りガラスの引き戸を開けると、木蓋の乗せられた石釜がひとつ現れた。
「風呂が終わったら迎えにくるからね」
「入らないの」
「一人で入るんだよ」
ここでは何事も独りらしい。蓋を沈めてそっと足をおろすと湯が肌にまとわりついて、すぐにほぐれた。
それからも三人そろっての食事はなされなかった。ひたすら食べて、風呂に入って眠る。なんだか鈴木ににいたときとあまり変わらない。
町へ行こうと思ったが、二人はどこにも連れて行ってくれない。それどころか、この家に来てから一度も外に出ていないのだ。ふとビルの人たちの声を思い出した。時折、風に乗って遠く電話の音が聞こえる。
弟と姉はご飯を一人で食べるのではなく、食べないのだった。かわりにこちらの夢を食っている。いつも風呂に入るとすぐ眠くなり、その先のことを思い出せないのがその証拠だ。
布団に横たわっていただけなのに、目が覚めるともう空腹だ。
弟の出した膳を食い、食った記憶が夢になる。夜ごと二人がそれを食べにくる。身体が斜めになっているようで、まっすぐ立っていられない。膳の中身は一度身体に入るけれど、とどまらず出て行く。
そもそもその膳が幻のようなものだった。頭には鈴木にいた人たちが食らったものが詰まっていて、それは三人の腹を一生涯満たして余りあるほどあった。
ある日、姉の目を盗んで襖を少し後ろ手で開けておいた。どこかの町の人間が入ってきて、その人に記憶ではない本物の町というものを見せてもらいたいと思っていたのだが、よりにもよって入ってきたのは鈴木だった。
鈴木は来るなり、ずっと電話が鳴ってうるさいんだよと文句を言った。
「あんたが出ればいいでしょ」
「なんで僕が。あんなのは人が出るもんだ」
「だから人はもういないんだよ」
「君と僕が繁殖すればいいんだよ。それで人が生まれるよ。きっとそれが僕を再生させてくれるだろう、ああ早くビルに戻りたい」
「新しい人間は壊れたビルを再生なんかしないと思うよ。新しいやつを建てるんだよ」
言い争っていると、姉と弟がやってきた。
「こいつについていったら景色がめちゃくちやになってあんたもめちゃくちやになるよ。俺たちがいるからここに来られたし、うまい飯だった食べられるんだぞ」
鈴木はいちはやく逃げていた。アキも逃げ出した。すぐに姉と弟が追いかけて来た。襖をどんどん開けて、滅茶苦茶に走った。古い昔ばなしみたいだが三枚のお札を持っているわけではないから、走るしかない。足がもつれて転びそうになる。身体の奥から風が吹いて喉に向かって突き上げてきた。
地面に突っ伏してしまった。しかし、そこは土でもアスファルトでもない紙の上なのだった。建物も道も電信柱も鉄橋も鉄道も橋も坂も何もかもぺたんこである。立体なのは自分だけだ。線の人が話したり、線の車が排気ガスを吐いたりして、遠くで鳥の鳴く声がする。
空に長い影が貼りついていて、その影に、エレベーターやタンクやパソコンがくっついていた。彼らはもう線になっていて、何も言わないし動かなかった。
僕ってほんとうにビルだったのかな。僕はビルという暗喩だったのかな。暗喩の人間、暗喩の窓、暗喩の石像…。
空から鈴木らしいつぶやきが聞こえたけれど、アキは無視した。
くっきりとした輪郭のある雲の間から、まっ黒な鳥が飛んでくる。本物の鳥か折り紙鳥かわからない。少なくとも線ではなく立体だった。鳥はビルに飛びビルに消えて行った。
橋をあがっていくと景色が消えて、そこに長いバスが止まっていた。運転手が降りてきて、
「またあんたか」
と言った。
「今日はバス、走るの」
「走るよ」
運転手は紺色の帽子をとり、頭をなでた。アキは窓際の席にからだを沈め、新しい町に運ばれていく。
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