
奇妙な会社「誤配達社員」
午後、会社に宅配人がやってきた。
お荷物です。
荷物はどれですか?
これです。サインをおねがいします。
はい。
サラサラと、秋田さんがお気に入りのボールペンでサインを記す。
それで、荷物はどこです?
ここにあります。
え?これって?
荷物はこの人です。この、青白い顔をした女の人です。
ええっと、そう言われましても。
配達人は出ていく。
あのう、あなたはどなたですか?
頭ををふらふらさせて倒れそうになる女の人だ。
どうしようと、どうしようと課内は大騒ぎになる。といっても秋田さんと私と岡崎さんの三人しかいないが。
とりあえず、寝かせようか、と秋田さんが言う。
仮眠室に連れていこう、と私が提案すると、
仮眠室って、そんな大層な名前がついてたんだあそこ。ただの折りたたみベッドがあるだけでしょと、岡崎さんが苦笑いする。
まあそうだけど、ベッドだし仮眠するわけだし、いいじゃん、仮眠室で。
仮眠室のベッドって、二段ベッドっていう感じがしない?私、むかし二段ベッドに憧れてたんだよ。
あんなん、ろくでもないよ。私はずっと、兄貴に上をとられたままだったからね。
そこ、しのごの言ってないでこの人を運びますよと、秋田さんに叱られる。
考えてみたらあそこの布団ってカビ臭いから、余計に調子悪くなるかもしれないよと二段ベッドにこだわる岡崎さんが言うと、
「それは嫌です」
青白い女の人がとつぜん口をきいた。
お、気がつきましたか?
「カビ臭いのは勘弁してください」
そうですよね。なら、会議室の机ぜんぶくっつけて簡易ベッドにしようか。
こんどは秋田さんが提案した。
背中、いたくならないですかね。
痛いよぜったい。
よしみんな、なんかフワフワするもん集めてー。
はーい。
持ってきた。
なにこれ?
わたしのくまです。
と、岡崎。
くまのぬいぐるみか。
くまに頭のせるんだね。
ダメだめ。そばに置くだけです。
えー、置くだけなの?
「置きたいです」
と再び女の人が言った。
では、とくべつに。
ぞくぞくあつまるフワフワしたもの。
女の人をフワフワに寝かせたものの、しきりに足と手をこすっている。
「冷え性、貧血、めまいもちなのです」
茶をいれて運ぶ者、自分のジャケットをかける者、真夏なのにホカロンを取り出す者、なぜか女の人の周りをぐるぐる回る者あり。
しばらくすると、漢方薬の店から会社に電話がかかってきた。
「薬の代わりに間違えて、冷え性めまいもち貧血気味の女の人を送ってしまいました」
やってきた店の人は、ひたすら頭を下げている。
女の人に店の人が持参した漢方薬を飲ませると、すっかり元気になった。二人はそろって帰っていった。
ところで誰が漢方薬を注文したの?
秋田さんがボールペンをくるくる回しながら言う。
さあ?岡崎がくまを抱きしめてとぼけている。
ともかく、よく効く薬だってことはわかったね。
以来、うちの課にはあの薬が常備されている。
布団は定期的に、干しましょう。