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【SS】新世界へ

働いていくのはここじゃない。そのことに気付いたのはいつの頃だろう。ともあれ退職することを決めた時から辞めることに対して準備し始めた。期間が決まっている仕事をきっちり終わらせた。面倒で後回しにしていたことをこつこつと片付けていった。諸々のことに区切りがついたのは8月の終わりだっただろうか。後は退職の意思を伝えるだけとなった所で急にためらいが出てきた。今まで積み上げてきたことをリセットすること。長く務めた会社への愛着。上司への申し訳なさ。(上司との仲は良くも悪くもなかった。)言わなきゃ、と思いつつ前に進めない。「辞めます」の一言が言えないまま2日が過ぎた。
意思表示をしようと決めてから3日目の朝、いつも通り会社へ向けて車を走らせていた。平日定休の会社でその日は日曜日だった。平日よりはるかに少ない交通量のため車はスムーズに進んだが心は重いままだった。今日こそ言わなきゃ、そう思えば思う程何かに締め付けられたような気分になる。そんな気分を変えたくてカーステレオのCDの再生ボタンを押した。ここ最近ラジオばかり聞いていたので、何のCDを入れていたかすっかり忘れていた。そして何の曲が出てくるかも全く分かっていなかった。だからカーステレオのスピーカーから流れてきたファンファーレのようなイントロにドキッとした。

何度も聞いた曲なので歌詞は覚えている。特にサビの歌詞は。だから信じられなかった。嘘でしょう?出来すぎている。これって偶然なの?混乱する私の耳にこんな歌詞が飛び込んできた。

Go ! 旅立て新世界へ !
理想というNeo Universe
Go ! 目指せ新世界へ !
永遠というNeo Universe

『Neo Universe PART I』作詞:高見沢俊彦

そうか、そういう事か。迷う私に何かが背中を押していた。「新しい世界へ行け」と。そして私の心は決まった。「今日言おう」と。新しい世界へ行くためにちゃんと言おう。私の中にあった迷いはすっかり消えていた。その日の仕事終わり。私は上司に声を掛けた。「お話したいことがあるのでお時間いただけますか。」


こちらに参加しています。小牧部長、いつもお世話になっております。それにしてもまたギリギリ😅

この作品は9割方実話です。全て私の経験。○年前に以前勤めていた会社を辞めようとしていた時のことです。ショートストーリーとしたのは多少の脚色をした時点でノンフィクションじゃないな、と思ったからです😊

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