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【SS】物語が始まる!

「来年はもう少し余裕ができるから。」
朝、出がけに貴大さんはそう言った。私はその言葉に少しだけ笑った。確か昨年の今頃も同じことを言っていた気がするからだ。
「じゃあ、行ってくる。」
「今夜も遅いの?」
「多分な。先に寝ていていいぞ。」
貴大さんはそう言って部屋を出ていった。もしかしたら、という期待も空しくドアが閉まる音が聞こえてきた。静寂……。置いていかれてしまったような心もとなさが私の胸に溢れてきた。
貴大さん。私、昨日美容院に行ったんだよ。ちょっと髪の色も変えているんだよ。お願い。ちょっとでいいから振り返って……。
私はスマートフォンを取り出しメッセージアプリを開いた。本当はダメなことと分かっている。でも、無くしかけた自信を取り戻すにはこれしかない。今の私にはあの子の言葉が必要なの……。

来年は少しは彼女に近づけるだろうか。スマートフォンの画面を見ながら僕はため息をついた。彼女とはつかず離れずの関係のまま1年ちょっとの月日が経った。これ以上近づくことは許されない。かといって離れることもできない。本当ははっきりさせたい。でもそうするともう二度と彼女には会えなくなる。それが怖い。それが辛い。
僕はたくさんの人を傷つけた。たくさんの人を怒らせた。何とかしなくちゃと思いながら一歩前に出ることができずにいた。
ふとスマートフォンを見ると新たなメッセージの着信があった。
―この前の飲み会の写真、送るね―
あの人からだ。初めてゆっくりと話したあの人。姉御肌だけど今野さんの姉御肌とはちょっと違う気がした。表立っては控えめだけど裏でしっかりフォローしてくれる、そんな感じ。あの人が担当にしてくれるようになって僕は少しだけ救われた気がしていた。
―ありがとうー
そうメッセージを送信した。

来年はいい年にしなきゃね。先日の飲み会の写真を送信して、私は一息ついた。今年は色々あったな。あいつとの別れ、転職。人間関係もガラッと変わった。新しい職場の人達とも良好。飲み会で初めてちゃんと話した営業の彼もななみちゃんが言う程悪い子ではないと思うが……。ともあれまずは順調な滑り出しと言えるんじゃないか。そう思える現状が嬉しかった。
とにかく以前のことは全部忘れてしまおうと思った。というかもう思い出したくなかった。もう区切りをつけたこと。きれいさっぱり忘れて前に進みたかった。
スマートフォンから目を離し、私は窓の外を眺めた。新しい職場、新しい部屋、新しいつながり。私の前途は明るい、と思えた夜だった。

それぞれの場所で別々に過ごしている3人の物語がもうすぐ始まる。


こちらに参加しています。小牧部長、今回も、そして今年1年ありがとうございました。

またまた『Starting Over』の作品です。頑張っていましたが年内に始められませんでした😢
ですが、年明け早々に始められるよう準備していますのでしばしお待ちを🙇


あともう少しで2024年も終わりです。今年一年私の作品をご愛顧いただきありがとうございました✨来年も色々な作品に挑戦していきたいと思います。どうかよろしくお願いします。よいお年をお迎えください😊

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