【SS】Reunion
星が降る夜、ずっと飛び続けていた俺は地上に向かうためゆっくりと高度を下げていた。俺の記憶が間違いなければ、あいつはこの辺りに家族と住んでいるはずだ。地上に近づくにつれ優しい弦楽器の音色が聴こえてきた。よく見ると大きな木の根元に長くて銀色の髪の男が腰かけていて楽器を奏でていた。別れた時は少年と青年の間といった感じだったのに、今じゃすっかり大人の男じゃないか。俺はわざとあいつのそばをすり抜けた後、木の枝にとまった。一度休憩させてもらったあの大樹には負けるが、この木も中々じゃないか。
「ヌール!久しぶりですね。」
「アズール、立派になったな。家族は元気にしているか。」
「ああ……。」
俺の問いかけにアズールは顔を曇らせた。
「実は父が体調を崩していましてね……。」
「そうか……。」
「そろそろ代替わりしようか、と話しているところなんです。」
アズールの言葉に俺は運命を感じずにはいられなかった。もしかしたらこのタイミングで俺が帰ってきたのも運命かもしれない。
「ヌール、何か話があるんでしょう?」
俺の沈黙に何か感じ取ったのだろう。相変わらず勘のいい男だ。
「アズール、あの本のありかが分かった。」
「……そうですか。」
アズールはそう言って黙り込んだ。長い長い沈黙。我慢できなくなった俺は思わず尋ねた。
「アズール、あの本には何が書かれているんだ?」
「あの本に書かれているのは悲恋の物語です。それはヌールも聞いているでしょう?」
「それはそうだが。」
「ただ、あの本には何かの仕掛けが施されているという事しか分からないです。」
「仕掛けか……。」
アズールなら何か知っているかと思ったが無駄だったか……。そう思いかけた時だった。
「すみません。今の私にはここまでしか……。」
「今の私……?」
「私はこれからあの本のことを含めて様々なことを父から引き継ぐのです。」
俺はアズールを見つめた。忘れていた、アズールに会いに来た目的を。アズールの先祖は本が焼かれたあの街に住んでいた。そして代々歴史の語り部をしていた。本が回収され始めた頃、いづれは自分たちにも危険が及ぶと感じたアズールの曽祖父が、家族を守るためにあの街を脱出していたのだ。その後は住居を転々としながらあの街の歴史の記憶を守っていた。たまに変装して街へ入ったり、我々のような鳥を使って情報を集めたりしていたとか。今ではそれもままならないとアズールの父親は言っていた。情報と言論の統制が以前の何十倍も厳しくなったあの街は、外からの情報流入にも神経を尖らせるようになったからだ。
「ヌール、私も気づいています。状況が変わり始めています。私に代替わりするのも何か意味があるのでしょう。」
アズールはそう言って立ち上がった。そして降ってくる星を見つめてこう言った。
「覚悟を決めました。これから起こることで私も無傷ではいられないでしょう。それでも進み続けます。運命が指し示すままに。」
一番明るい星が降った時に見たアズールの横顔はとても凛々しかった。その横顔を見て俺も覚悟が決まった。
「分かった。俺は街に戻る。俺が集められるだけの情報を集めておくよ。」
「ありがとう。くれぐれも気をつけて。」
「大丈夫だよ。俺は鳥だ。お前たちより怪しまれないよ。俺に用事があるときの連絡方法もしっかりと引き継げよ。」
「分かっていますよ。」
俺はアズールの笑顔を見て翼をはばたかせた。。何かが変わる。その予感だけが頼りだ。俺はまたもと来た空へ飛び立った。あの街へ戻るために。
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このお話は以前書いた「大樹の物語」「始まりの兆し」の続きです。
まだまだ全体像は見えてきませんがシリーズ化する予定です。但し、まだタイトルは決まっていません😅一応マガジンも作りましたが現在「タイトル未定」としています😅😅