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【SS】はじめて切なさを覚えた日


日曜日の昼下がり、ショッピングモールで偶然彼に会った。
「やあ!奇遇だね。」
「あっ、こんにちは。」
いつも通り爽やかな笑顔を見せる彼は彼女連れだった。
彼は同じ部署の先輩である。新人の頃からずっとお世話になっている人だ。厳しくも優しく指導してくれる彼の役に立ちたいといつも努力していた。そのおかげか、最近は彼と一緒に仕事をすることが少しずつ増えていった。彼との仕事は大変なものが多かったが、彼のおかげで楽しくこなすことができた。
彼は男女問わず人に好かれるタイプだ。人当たりが良いのか、年上には可愛がられ、年下には慕われた。普段はおちゃらけていても仕事はしっかり丁寧にやるので、同僚からも信頼され一目を置かれていた。そしてイケメンという程でもないのに彼は女性に良くモテた。そのくせ浮いた話一つ出ない不思議な存在だった。
「彼女、いたんですね。」
「うん。付き合って2年位かな。色々面倒だから隠していたけどね。」
紹介された彼女は同じ会社の別の課に所属している子で、確か彼とは10歳近く年下のはずだ。直接話したことはないがちょっとウェーブがかった柔らかな長い髪が印象的な可愛らしい女性だった。それにしても同じ会社にいてよく2年もの間誰にも知られずに交際できたものだ。思わず感心してしまった。
「どうせもうすぐバレるから言っちゃうね。俺達2ヶ月後に結婚するんだ。」
ああ、やっぱり……。言われた瞬間、何故かそう思った。女の勘というヤツだろうか。一緒に働いていた時の彼の雰囲気で何となくそんな気がしていた。相手がこんなに近くにいるとは思わなかったが。
「そうなんですね。おめでとうございます!お祝いしなくちゃ。」
「別に大げさにしなくていいよ。」
彼は照れ臭そうに、でも嬉しそうに彼女と笑い合っていた。
「じゃあ、あんまり邪魔しちゃいけないから、この辺で。」
「おう!じゃあ明日、会社でな。」
そう言って爽やかに笑う彼に、私は軽く会釈した。彼はそれを受けて軽く頭を下げると私に背を向けた。そして彼女に寄り添いながら歩き出した。私はしばらくの間、二人の後ろ姿を静かに見つめていた。
「そういうことか……。」
私は思わず呟いた。何人もの女性が彼にアプローチしているのを見た。ほのめかし程度からかなり直接的なものまであったが、彼はさらりと受け流していた。当然だ。あんな可愛い彼女がいるのだから。でもアプローチをかわした後でも彼は以前と変わらず彼女達と接していた。だからきっと今回の事が分かっても誰も恨んだりしないだろう。今の私のように……。

ショッピングモールの外は雨だった。あまりに出来すぎていてちょっと笑ってしまった。
「私、あなたが好きでした。って言ったらどんな顔したのかな。」
私はそう呟いて空を見上げた。彼に恋して初めて切なさを覚えた日。降りしきる雨が心に痛かった。


こちらに参加させてもらいます。

お題を見たときから「参加したい!」と思っていましたが、中々上手くできず😅結局締め切りギリギリになってしまいました😅😅
山根あきらさん、よろしくお願いします🙇

#青ブラ文学部
#はじめて切なさを覚えた日

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