【SS】腐れ縁の行方
「金魚鉢、貸して。」
あいつがそう頼んできたのが一週間前。私がインテリア用に骨董市で格安の金魚鉢を買ったことをあいつは覚えていた。まあ、あの日はあいつに荷物持ちをさせたからそれくらいはいいか、と貸してあげた。余計なことは特に聞かずに。
私とあいつは腐れ縁だ。大学のサークルで知り合った時から妙に馬が合った。以来、様々な出来事を共に乗り越えてきた。もちろん、互いの恋愛事情も良く知っている。彼氏ができた、彼女ができたといって祝杯を交わした。別れた切れたで大騒ぎしては互いに慰め合った。今までそんな関係を続けてきていた。これからも続くと思っていたけど…。
最近、あいつから彼女の事を聞かされるたびにモヤモヤするようになった。以前はこんなことなかったのに。最もあいつと女性の関係は長続きしない。半年持てば長続きした方だ。それでも「付き合い始めた」と聞くと心にさざ波が立つようになった。私の中に認めたくない感情が生まれ始めていた。
「部屋の模様替えをしたんだ。見に来てよ。」
あいつの誘いに答えて私はあいつの部屋へ行った。あいつの部屋には何度も行っている。部屋で二人きりになったとしても何にも起こらないのが私達の関係。遠慮も警戒も不要な関係なのだ。
「うわぁ!おっしゃれー!!」
久しぶりに訪れたあいつの部屋は以前のむさくるしさがすっかり消えていた。家具が一部新調されていて、おしゃれな空間に変わっていた。私の金魚鉢は窓からちょっと離れたところに置いてあるチェストの上に置いてあった。中には赤い金魚が気もちよさそうに泳いでいた。
「悪友どもが金魚を押し付けてきたんだ。部屋の模様替えで金が無くて金魚鉢が買えなくてね。」
あいつが珍しく言い訳がましいことを言っていてちょっとおかしかった。それよりも私の金魚鉢があいつの部屋になじんでいることが妙に嬉しかった。
「彼女、喜んでいるんじゃない?」
私は金魚を眺めながら言った。
「さあ、どうかな…。」
金魚を眺めていたからあいつがどんな表情をしていたか分からなかった。うまくいっているんだ。今回は半年以上続いているじゃん。胸の奥がズキッと痛んだ。心のどこかで「あいつとは別れたよ」と言ってくれることを期待していた。それがどういうことを示しているか分かっている。それでも私はそんな想いを封印する。
「じゃあ、部屋の完成祝いにおごってあげる。」
「えっ?本当?」
「コンビニコーヒーだけど。」
「うわぁ、セコい!!」
ほら、友達ならばそばにいられる。それでいい。今はそれでいい。私にはあいつとの友情が一番大事なのだから。水の中でゆらゆらと泳ぐ金魚を眺めながら私は軽くため息をついた。本当の想いを吐き出すように。
こちらに参加しています。
今回は難産でした。ちょっと遅刻してしまいました😅
今回のヘッダーはみんフォトのuuuさんの画像を使わせて頂きました。ありがとうございました。
R6.5.27追加
岩沐さんに教えていただき、急遽こちらにも参加します。岩沐さん、ありがとうございます🙇
山根あきらさんよろしくお願いします🙇