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【SS】渡せない手紙
茜さんのカバンの中には手紙が一通入っている。宛先のないその手紙は読書会で一緒になる藤堂さん宛のものだ。藤堂さんは少し前、体調を崩して読書会を休んだ。久しぶりに元気そうな藤堂さんの姿を見た茜さんは、居ても立っても居られず手紙を書いたのだった。
お久しぶりです。お元気そうで安心しました。
藤堂さんに会えなかった時間が長すぎて、会えないことが当たり前になっていました。だから久しぶりに藤堂さんの姿を見た時にどうしたら良いか分からなくなってしまいました。挙動不審でしたよね。お恥ずかしい。
体調を崩したと聞いた時からずっと藤堂さんのことが気になっていました。ただの風邪ならまだ良いけど質の悪い感染症だったらとか。熱はどのくらいあるだろうか。食事はちゃんと摂れているだろうかなどです。藤堂さんと私にはあまり繋がりがありません。読書会という場所以外は皆無です。藤堂さんの様子を知るすべがなく、ただ心配するだけでした。元気になられて本当に良かった。
私は藤堂さんのことが知りたいです。今回みたいに体調を崩したと聞いた時、直接様子を聞けるくらいには近づきたいです。だからもし、本当にもし良かった少しだけでもお話しませんか。話の内容は何でも良いです。藤堂さんのこと、教えてください。
まだまだ寒い日が続きます。治ったばかりですので、ご無理なさらないように。次に会う時間を楽しみにしています。
藤堂忍様
宮森茜
思いつめて書いたものの、茜さんは手紙を藤堂さんに渡せないでいる。かといって渡さない、と決めることもできないでいる。今日も読書会で藤堂さんを見かけたが、茜さんはカバンから手紙を出せないままだった。
三羽 烏さんの企画「恋文求ム」に参加します。
以前書いた「雲の向こうの恋」という作品の設定を使って書いてみました。
茜さんは手紙を渡すでしょうか???