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俺たちはどこへ…。『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

 井上淳一監督の新作『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は、前作『止められるか、俺たちを』の10年後を舞台に、若松孝二が名古屋に作った映画館シネマスコーレとその支配人を任された木全、そしてシネマスコーレに導かれた若者たちの姿をみずみずしく映画愛溢れるタッチで描いた作品である。

 この映画では大きく3人の主人公の視点で描かれる。1人目は映画監督の若松孝二、2人目はシネマスコーレの支配人になる木全純治、3人目は映画監督を目指す若者の井上淳一だ。
 この3人を主軸にこの映画について語っていきたい。

①若松孝二の視点

 若松孝二は1970年代にピンク映画で、反体制派の学生運動を描いた監督である。作品は過激で内ゲバや連合赤軍を題材にしていた。しかし、浅間山荘事件以降の日本の学生運動の下火により、映画も反政治的な側面は少しずつ消滅していった。また、レンタルビデオの到来や映画でも言及されていたが共同監督もしていた足立正生は指名手配され、スタッフの秋山道男はチェッカーズをプロデュースし少しずつ映画仲間たちは離れていた。そんな彼が作った映画館シネマスコーレ。それは今で言うミニシアターの先駆け的存在だった。
 若松孝二は井上淳一を助監督に招き入れ、パワハラ同然の罵詈雑言をしながら指導する。それを観ても分かるように時代に取り残された人なのだ。だが、どこか人情があり優しさもある。だから、彼の映画に魅了される人々が出てくる。

若松孝二役の井浦新

②木全統治の視点

 若松孝二のお願いでシネマスコーレの支配人になった木全。優しく幸せそうな木全は若いスタッフたちとシネマスコーレを盛り上げようとするが客足は伸びない。若松と相談し、成人映画館としても活用することにする。
 木全は若松孝二と違い、学生運動の波にも乗らなかった。なので、その穏やかさとまた違った映画愛を持っているように感じた。特に若い映画作家たちについて言及していた「自主映画をかけるって良いなぁ。ピンクも才能の宝庫なんだよ」それは見事に的中する。
 1980年代に出てきた自主映画出身やピンク映画出身の監督は今や日本映画を担う作家になった。滝田洋二郎や大森一樹、石井聰互に金子修介、黒沢清、周防正行と正に才能の宝庫だった。

 そして、この木全は現在もシネマスコーレの支配人として活動している。私が映画を観た日も受付をしていて、映画と現実がシンクロしたように感じた!シネマスコーレは自主映画も上映していて、やはり若松孝二から貰った火を消すことなく繋げている姿に感動した!

木全役の東出昌大

③井上淳一の視点

 さて、本作の真の主人公はこの監督をした井上淳一だろう。この映画では彼がまだ予備校時代だった頃の様子が描かれる。シネマスコーレに通いながら映画に魅了され若松孝二に弟子入りする。しかし、現場では上手く演出できない。また、女性にアタックできず、金本(芋生悠)からの誘いも断ってしまう。そんな彼が河合塾の広告映画を作ることになり監督デビューが決まるが、現場で若松孝二がほとんどのシーンを演出し、監督の座も奪われてしまうのだ。このキャラクターは『桐島、部活やめるってよ』の映画部の前田にも似ている。
そして何より、私自身に顔も性格もそっくりだった!!!
 
 井上の一番の問題は、何をやって良いのか分からないのである。世代的にも学生運動の波が静まり、バブル期の1980年代に青春を置いた彼は裕福な家庭と時代に生まれたため、破壊欲求もなければ世界を良くしたいとも思わないのだ。だからこそ表現ができずに葛藤する。金本は殺したい相手はいるのだがその表現ができずに苦労する。井上はそれすらも浮かんでこない。このシーンを観た時、今の我々若者たちも同様なのかなと 感じたのである。 私たちは もうこの日本に諦めを感じているのだ。でも、こんな嘘と出鱈目の今だからこそ映画を作るのだ!

井上淳一役の杉田雷麟

 井上淳一は脚本家へと転身し、多くの作品を手掛ける。そして近年は安倍晋三暗殺犯の映画『REVOLUTION+1』や関東大震災の朝鮮人虐殺を描いた『福田村事件』に脚本参加。その次作にこの『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』を撮ったのだ。これは井上淳一が静かに怒りを込めて映画を作っていることが理解できる。

最後に俺たちは何をするべきか?


 私たち20代の若者はこの日本を世界をどうしていきたいのか?ほとんどの大多数は自分と自分の周りだけの幸せしか考えていないように感じる。でもそんなこと言ってる場合じゃない!私たちは表現するべきでないのか!今でこそ芸術が必要ではないのか!そんな風に感じた。私はこれからシネマスコーレの映画制作ワークショップを受けるのだが、果たして何を表現したいか今一度考えてみる。

 最後にこの映画の主題歌『まだみぬ果ては』を聴いてお別れしよう🙋

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(2023)若松プロダクション
全国公開中



 

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