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憲法9条の理解を正す、西修の    『いちばんよくわかる! 憲法第9条』

2015年初頭くらいまでの憲法第9条をめぐる議論を理解する上で役に立つ一冊。日本は憲法上、戦争ができないことになっているはずなのに、当時の安倍政権が戦争をできる国に強引にしてしまったと考えている、かつての私のような人にお薦めです。

安倍首相は9条解釈を是正しただけ

 「いちばんよくわかる」というタイトルはどうかな、と思ったところからまず始めさせていただきます。西さんの言いたいことを理解したうえでわかるためには、まず憲法の成立過程について書かれた本から始められたほうがいいと思ったからです。西さんは現行憲法の成立過程を研究してきた方で、その研究成果を一般向けに書かれたのが、前々回のブログでご紹介した『証言でつづる日本国憲法の成立経緯』などの一連の著作です。

 もちろん、本書でも簡単に触れられてはいるのですが、上記の本などで日本国憲法をどう解釈すべきかについて納得したうえでこの本を読むと、あとがきの最後におかれた次の提案が本当に胸に響きます。

私は提案したい。第9条を誰が読んでも自衛戦力さえもてない非武装条項に改めることと、誰が読んでも自衛戦力(軍隊)をもてるような条項に改めるための二者択一の国民投票を実施することを。

『いちばんよくわかる! 憲法第9条』

 西さんのライフワークからでてきた叫びだと思います。9条をめぐる学説は、自衛のための武力行使すら否定し、自衛戦力の保持は認められないと解釈する立場と、自衛のための武力行使は否定されておらず、自衛戦力の保持は認められるという立場に割れています。その上で政府は、自衛のためならば武力行使はできるけれども、自衛戦力の保持は認められていないという第3の立場をとっていると、西さんが整理されています。そんな解釈の派閥争いのなかで、日本人の多くが戦争をしたくないという思いもあって、戦争はできないという学説を信じ込み、それがこの立場を学説上優位に立たせているといった循環構造ができているような気がしました。
 そんな世論が政府の解釈にも反映され、9条をめぐる議論がゆがみ、理解しがたい、騙されているような感覚を覚えるものになってしまうのでしょう。安倍首相の解釈の変更も、曲解ではなく是正だったのだと、西さんの著作を通して私は理解するようになったので、かつての私と同じような誤解をしている方には是非読んでいただきたいです。

緊急事態条項も憲法に盛り込むべき

 西さんの著作は憲法にまつわる誤解を解いてくれるものとなるはずです。そうやって、自分の妄想のなかにある憲法から脱したうえで、憲法がどうあるべきかを考えられるようになる人が増えるといいのだと思います。多くの人が9条平和幻想にひたっているような現状において、意味のある憲法議論は難しく、まともな議論をへないままの改正など論外ですよね。
 その上で、まともな議論ができるようになったら、西さんの次のような知見にもきちんと向き合わなければならないのだと思います。

立憲主義を採用している国家で、集団的自衛権を採用していない国家は、ほぼ皆無
 

『いちばんよくわかる! 憲法第9条』

 また、国家緊急事態条項を欠いている国家も、ほぼ皆無だそうです。となると、これらは憲法のなかで規定することを前提に議論が進められなければならないわけですが、それらを許容するだけの理解が今の世論にはないと思うのですね。かくいう私も、緊急事態条項については、ネットなどでも反対の声が強く、以前の投稿で取り上げた『ナチスの「手口」と緊急事態条項』なども読んで、その恐ろしさを感じ、直近まで絶対反対の立場だったのです。
 国家には「自己保存」の権利があり、国家を滅亡させないことを大前提として、立憲国家は、憲法秩序の維持を第一の課題にしていると西さんは言います。その憲法秩序を保障するための措置が国家緊急事態条項で、その憲法への導入が現代立憲国家の不可避の憲法構造だそうです。そういう観点から、多くの国で緊急事態条項が濫用されないような歯止めをかけながら、憲法に取り入れるということをしているようです。緊急事態条項を入れることすら反対という議論ではなく、どういれるかを冷静に議論できるようにならないといけないのだなと考えるようになりました。
 そのためにも、憲法改正についてご関心がある方だけでなく、多くの方が、西さんの著作を読んでほしいと思いました。

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