「各国の学校外教育」(第4章関連)(2023.9.27議論)
今回のテーマは「学校外教育」です。日本では、子どもを塾やスポーツクラブに通わせる家庭が多いようですが、海外での習い事事情はどのようになっているのでしょうか。アメリカ、ドイツ、中国、韓国、中東における学校外教育について調べ、話し合いました。
アメリカの学校外教育
◯スポーツを中心とした習い事が多い
集団スポーツ→芸術文化系→個人スポーツの順で多い
■米国政府による調査:
・6~17歳の子供の56.1%が、「スポーツチームに参加した」または「放課後または終末にスポーツレッスンを受けた」と回答
・米国保健福祉省は2030年までに学生の63.3%がスポーツをすることを目標としている
※低所得世帯のスポーツ参加率は34%で高所得世帯の約半分ほどの割合→経済的地位によって格差がある
■The Aspen Institute Project Playによる調査 (2021年のデータ)
・6~12歳のスポーツ参加率は全体で78%、13~17歳の参加率は74%
(年に1回の参加も含む)
・定期的に参加している子供の割合は
6~12歳:男38%・女31.3%
13~17歳:男45.4%・女37.2%
※低所得世帯の参加率と高所得世帯の参加率には格差がある
(6~12歳:低所得世帯24.1%・高所得世帯40.2% 13~17歳:低所得世帯28%・高所得世帯47.9%)
◯人気のスポーツ(定期的な参加)
6~12歳:1.自転車 2.バスケ 3.野球 4.サッカー 5.テニス
13~17歳:1.自転車 2.バスケ 3.野球 4.テニス 5.ゴルフ
(その他:アメフト、陸上、バレーボールなど)
◯費用
・年間平均費用:883$
(旅行費・レッスン料・登録料・用具費・キャンプ費・その他の順に多い)
※低所得世帯と高所得世帯の格差
最も裕福な世帯と最も貧困の世帯の子供のスポーツにかける費用には4倍の差がある
◯習い事の特徴
・向いてない、興味がなくなった、指導者やチームと合わない→辞める
⇔日本:コツコツと努力して、成果を出すまで頑張って続ける
・複数通う:チームスポーツは各種目にシーズンがある→季節ごとに異なる種目をプレー
・長期休暇中のキャンプや短期クラスのプログラムが充実している
ドイツの学校外教育
ドイツの学校制度:三分岐型教育4年制の小学校を卒業した後に基幹学校(職業訓練)、実科学校(専門学校)、ギムナジウム(大学進学)の3つのコースに分かれる※現在は形としてのみ、基幹学校と実科学校が統合し二分岐型へ移行している
ドイツと日本の学校・教育制度の大まかな違い・受験のない学制・義務教育内での留年制度・偏差値の指標なし
→受験がないこと、偏差値の指標がないことから日本のような受験を目的とした学習塾はなく、補習塾(Studienkreis、KUMONなど)が発展
ドイツには「部活」がなく、スポーツクラブが発展している会費は8ユーロ〜40ユーロ(約1200〜6300円) ※登録するスポーツの種類によって変動
ドイツのスポーツクラブと日本の部活の違い・老若男女、住んでいる地域に限定されずにメンバーになれる(0~18歳41%、18~60歳50%、61歳以上9%)・村であっても一つのクラブで複数のスポーツに参加できる・NPO(に近い組織)が運営しており、コミュニティが確立されている・競うことよりも気持ち良くなるためスポーツ
「KIJU」
学校と連携したスポーツクラブと教育界の新しい取り組み。希望した生徒を預かり、スポーツ以外にも宿題や語学学習、音楽、料理などさまざまなサポートを行う。勉強ができる→社会性が身に付く→健康維持→さらに動く、の4つサイクルが生まれることで子どもの教育に貢献している。
中国の学校外教育
・都市部(上位層)
・受験準備のために塾を利用、習い事にも力入れる
・主要科目以外に力を入れる動き 特にスポーツ教育
・地方(下位層や、豊かだが文化資本ない自営業層)
・補習目的で塾利用している一方、習い事には関心なし
背景)
・一人っ子政策による、祖父母も含めた教育熱
・教育負担緩和主要科目における教育規制、塾規制(21年7月政府による小中学生向け塾への規制強化)
・「中考」(高校受験)において、体育は英語数学国語と並ぶ必須科目
・教育に対する意識の違いとして、、
都市:学校教育以外に、将来に備えた文化戦略を加えた階層維持・上昇手段と考える
地方:学校教育での成功を通じた上昇移動と考える
韓国の学校外教育
受験競争が激しいことに伴い学習塾への通塾率が高く、親・子ども共に負担が大きくなっている
受験戦争過熱・家族主義の価値観(子どもの出世=家族の繁栄)
→財閥系と中小企業の格差が大きい→受験戦争を勝ち抜くため、高い教育熱を保つことが当然のこととされている
学校外教育(家庭教育や学習塾)の割合
日本(2008年):小学1年生15.9% 小学5年生33.3% 中学3年生65.2%
韓国(2009年): 小学生87.4% 中学生 74.3% 高校生62.8%
→韓国では小学生から通塾率が高い
日本:高校進学時に偏差値で分けられた高校階層構造にそれぞれ進学し、その時点で将来の方向性や進路が分化する
韓国:受験競争抑止のため、「平準化政策」(一般高校入試の廃止・抽選による入学者決定)
小学生の頃から学歴を意識「一流大学に進学するためには学校の成績が全て」
→弊害も発生
学校生活での児童生徒の意欲低下、家計負担の増大、教育の不平等拡大
国際比較:学力水準高い、学習そのものへの興味関心が低い
子育て世代への負担
・子どもの教育マネジメント(学校や塾の情報収集)が母親に求められる
→高学歴女性の就業率が上がらない
・金銭的な負担が大きい
→子育てをつらいと感じる理由「子育てと教育にお金がかかる」日本58.5% 韓国70.6%
(日本経済新聞社と韓国の中央日報社の共同調査)
習い事
東京:スポーツ(51.9) 音楽(26.9) 英語(18.1)
ソウル:外国語(51.1) スポーツ(36.2) 音楽(35.3)
→韓国では小学3年生以上で英語が必修のため、「外国語」が多い
中東の学校外教育
・イラン
義務教育:初等教育(6年制、6~12歳)+ 中等教育(3年制、13~15歳)就学前教育:幼稚園(4~5歳) 義務教育前に1年ほど通わせる家庭が多い
学校外教育「青年と子どもの知性開発センター」
イランの学校教育は、暗記と試験が中心となっている。進学競争が激しく、美術・音楽・図工は軽視されている。学校教育では学べない芸術的・文学的な内容を中心に教えている。
ex)読み聞かせ、陶芸、絵画、アニメづくり、演劇、他文化交流会
【サウジアラビア】
本筋からは少し外れてしまうかもしれませんが面白い資料がありました。
「サウジアラビアには自己学習をしない学生が多い。」
「宗教上の善い行いをしていればまた生まれ変わることができるという死生観の影響か、“将来に備え、しんどいことやつらいことに取り組む”ことよりも“宗教上の善い取り組み”を優先する部分がある。」
「日本人は将来に対して悲観的で、どこか窮屈そうに生活をしている。それに比べ、サウジの人々は、実に大らかで今を楽しんで生き、宗教という精神的な支えがあることからも将来を楽観的に考えることができている。」
個人的な感想・・・こういった宗教的な考え方も学校外教育をするかしないかの判断に影響するのかもしれない
まとめ
地域によって学校外教育に違いがあることがわかりましたが、日本・中国・韓国といった東アジア地域の学校外教育には共通点が見られました。進学競争が厳しいためなのか、進学に有利な習い事をする家庭が多いようです。一方でアメリカ、ドイツでは、子どもの興味や主体性、リフレッシュを重視しているようです。
参考文献
・藤後 悦子, 井梅 由美子, 大橋 恵(2023)「子どもの習い事に対する親の意識に子育て絵本が与える影響 - 日本・中国・アメリカ・ドイツの 4 か国比較 -」『日本社会福祉マネジメント学会誌』, 3, p40-52 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmjournal/3/0/3_40/_pdf/-char/ja
・早乙女誉(2018)「米国におけるユーススポーツ (子ども・青少年スポーツ) 振興策 -The Aspen Institute Project Playの事例-」『スポーツ産業学研究』,28(4),p.4_287-4_294https://www.jstage.jst.go.jp/article/sposun/28/4/28_4_287/_pdf/-char/ja
・せかいじゅうライフ「アメリカでの習い事・人気10選。取り組み方、探し方の違いを解説」https://sekai-ju.com/life/usa/life/child-lessons/
・kiminiオンライン英会話「【子育て英語】世界の子どもの習い事事情」https://kimini.online/blog/archives/15821#i-11
・卜部匡司(2012)「ドイツにおける中等教育制度改革動向に関する一考察」, 徳山大学論叢第74号, p69-79
https://www.shunan-u.ac.jp/_file/ja/article/6446/fileda/2/
・高松平蔵(2020)『ドイツの学校にはなぜ「部活」がないのか』, 晃洋書房
・松田雅央(2017)「ドイツの学習塾事情」, 日経研月報, p62-63
https://drive.google.com/file/d/1BkTe0lL4JtPw27UKFpa3ei2Xbl-90EIe/view?usp=sharing
・馬芳芳、「中国中小都市における学校外教育から見た親の教育戦略に関する階層差」、家族社会学研究第29巻第1号、2017https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoffamilysociology/29/1/29_19/_pdf/-char/ja
・「中国の教育熱、次は体育」、日本経済新聞、2022年4月19日朝刊
・「中国塾、課外科目に活路」、日本経済新聞、2022年5月27日朝刊
・小澤昌之.「青少年の学校外教育経験と教育格差」.都市社会研究.2017.p141₋155
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/002/006/003/d00152433_d/fil/013.pdf
・ベネッセ教育総合研究所「学習基本調査・国際6都市調査 速報版」2014
https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gakukihon_6toshi/soku/soku_07.html
・韓国、日本を下回る出生率、教育熱、親の負担重く――学歴重視の社会、女性の就業率上がらず(くらし) 2016/12/28 日本経済新聞 夕刊 9ページ
文部科学省「世界の学校体系(中東)」
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2017/10/02/1396869_006.pdf
ノールズィ・ヘディエ著(2008)『イランの学校外教育施設における国際理解教育―「青年と子どもの知性開発センターの活動を中心に」―』
https://waseda.repo.nii.ac.jp/record/10198/files/KyoikugakuKenkyukaBessatsu_15_02_016_NOROOZI.pdf
上坂 浩一, サウジアラビアの教育事情の研究とその考察
https://www2.u-gakugei.ac.jp/~kokuse/pub/report/762bf65aeadee6ed9849f092fc93b6d47d5d0133.pdf
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