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「はじめてのスリザーリンク」のどのへんが画期的か

「はじめてのスリザーリンク」なる本が出ました。2023年の9月に。ニコリ社から。この本はスリザーリンクの入門本なんですが、すごく画期的でして、どのように、どの程度画期的かということについて書いておきたいと思いまして。

本の構成としては、7章立てです。
最後の章はまとめの問題集ですが、
1~6章は、図解、のち、練習問題、という流れになっています。
1章がいちばんやさしく、6章までじょじょに、何となく難易度の傾斜がついてる感じです。

その練習問題は基本的には5×5マスで(第1章は3×3マスから始まる!)、ふだん解いていただく問題より圧倒的に小さいんですね。

しかもどの問題も、その章より前に身につけたこと&その章で解説した内容だけを使って解くことができ、すなわち手筋解説のフォーカスがとても絞られている、きゅきゅーっと絞られているというのがなかなか画期的なのです。

それ以上に画期的な点があります。第3章から5章は、特定の数字の並びのときに特定の線の引き方ができるという、いわゆる「定理」の説明なのですが、
1章と2章では、それ以前のことを解説しているのです。
スリリンのいちばん基本的な、ルールに書いてある通りにつじつまをあわせるために把握すべき線のつなぎ方の性質から解説してある、というのが画期的なのですね。

スリリンのイージーな問題(じつはこの本の内容はミディアムまで含んでるけど)を解くために必要なスリリンスキルが仮に10段あるとして、そのうち10段とも書いてあり1段も飛ばしていない、というのが、ニコリのスリリン史上になかった大いなる特徴なのであります。

中身の文章とか図のわかりやすさとか分量の洗練については今回はおいておきますが、これさえ読んで理解すれば、イージースリリンに至る道筋が完全に整備されているんですね。

で、それがどの程度画期的かというと、
これはこのあたりの記事と関連する。

1つには、リンク先の雑記で書いたように、20世紀生まれのパズルは「手筋主義」が強い傾向があったと。なので初心者が最初の1問を解くときに、何をやったらいいかがわかりづらいパズルが多いんですね。
ま、ほんとはスリリンもへやわけももっともっとずーっと、わかりやすく易しく優しくすることもできるんですが、今もニコリ本誌のイージーの1番でもそこそこ難度があるじゃない? だいたいイージーの1番なのに10×10マスから始まっている、というところが、真の初心者向けイージーとは言えない、というか。

もう1つは、というかそれに関連して、2000年前半くらいまでのニコリの特徴として「自力主義」が色濃かった、と。
自分で手筋を発見していく喜びがペンパにはあって、
だからあんまり教えない、おいしいところは自分で探ってまさぐって登ってきなよ、という姿勢も強かった。

そんなこともあいまって、簡単に言えば時代がそういうペンパを欲していたわけでしょう。なもんで、20世紀型ペンパのトップスターにしてニコリ発のオリジナルパズルであったスリリンの最も初歩の解説というのがいきなり「03定理は(0の周りに4つ×をつけたあと)線が5本と×が4つつけられる」から始まる、という時代が30年に渡って続いていたのでありますなと。いきなり定理の紹介からする、なんでそうなるかは自分で考えてみよう、というスパルタンな。

ということを踏まえると、今回のこの本がどのように画期的かというのが見えてきます。
いうなれば、「20世紀型ペンパの、対初心者向け姿勢の再構築の第一歩」と言っていいんじゃないかなぁと。
今までイージーと大雑把にくくられてきた難易度の問題の中で使う考え方を切り分け、イージーの中でもステップを作り、そのステップに応じた「本当のイージー問題」を提示した、という意味で。
その解説の巧拙については、今後また洗練されていくでしょうけども。さっきも書いたけど。

ということで、今回の本は、決してある1種類のパズルのやさしい問題が出たよ、というだけではなく、40年に渡るニコリのペンシルパズル史におけるルネッサンスと言ってもいい、とわたくしは思っている次第です。

※この本の編集時期は私のニコリ退社ぎりぎりのタイミングで、じつはこの本の多くの部分に私は関わっているので、それなりに偉そうに書きました。あと、上記はかなり私個人の意見であるぞよと。ニコリ公式見解とかじゃ全然ないぞということでなにとぞよろしくどうぞ。

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