どうもー、消費財メーカーのマーケターとして働くmotuです。
マーケティングに関する書籍の"理解"から"実践"への架け橋となる記事を投稿していきたいと考え、活動しています。
今回は、以前の記事にて紹介したP&Gマフィアのおすすめ書籍を、要約・体系化して一つにまとめれば、ビジネスマーケの全体像を理解できる"教科書"になるのではないかと考え、執筆しました。
以上6冊の本を、マーケティング課題に取り組む手順に沿って再構成しています。マーケティング課題に取り組む際は、以下の手順を参考にしてみてください。それではやっていきましょう!
1. 目的設定
マーケティング課題に対する戦略を組み立て、戦略的に考えるにあたっては、目的を明らかにする必要がある。
1-1. 良い目的
SMACあるいはSMARTという要素を満たしていて、かつなるべく単一の目的に的を絞っているといい。
以上の条件に加えて、「Focus(焦点、集中)しているか」や組織を動かすために「魅力的か」も重要である。
1-2. 目的の再解釈
目的を再解釈することで、以上で設定した良い目的をより深く理解し、戦略をさらに効果的に使うことができるようになる。
難しい問題であっても解決しやすい角度からとらえる。単位が円(売上、利益)から人(ユーザー数)や回数(使用頻度)、グラムやリットル(使用量)などに変化する。以下の戦況分析を通じて、再解釈することもある。
2. 戦況分析
市場構造を理解して、それを味方につけるために行う。
現状を把握して、どこに課題・伸びしろがあるか理解するために行う。
戦況分析を通じて、上記で設定した目的がより進化していく。
2-1. 自社(資源の把握)
資源とは、目的の達成のために使えるすべての有形無形の資材、資産、人材である。
①内部資源
内部資源とは、社内、組織内、そして自社で保有している資源であり、随時直接的に利用可能なものである。
ブランドについての理解を深めるためには、ブランドホロタイプモデルやブランドパーパスを設定しておくとよい。
②外部資源
ブリーフに、達成したい目的を明示しつつ、提供できる資源を明確にし、専門性を鼓舞することができているかによって、外部資源は増減する。
③内部資源になりそうなもの
埋もれた資源を見出すのに有効な手段の一つは「比較」。製品や組織構造、組織の構成要素などを過去や競合と比較してみる。その違いが強みになる状況を想定する。競合と比較した時の違いが、潜在的な消費者ニーズと一貫性を持っていれば、資源として活用し、既存の評価基準を変えることができるかもしれない。コアコンピタンスにも注目。
④外部資源になりそうなもの
最後に、上記の資源を獲得するための2つの方法を紹介する。
2-2. 競合分析
2-3. 消費者分析(定量調査)
「確率思考の戦略論」によると、市場規模が一定の時、売上を伸ばすためには、①認知を高める、②配荷を高める、③自社ブランドへのプレファレンスを高める、の3つしかない。よって、この3つのドライバーに絞って分析していくことで、確率の高い戦略に早くたどり着く。
①認知率
認知率の伸びに対してビジネスは一定レベルまで直線的な関係で伸長していく。したがって、自社ブランドの認知の量、質いずれか、または両方に伸びしろがあれば確率の高い戦略になる可能性が高まる。
②配荷率
認知率と同様に、自社ブランドの配荷の量、質いずれか、または両方に伸びしろがあれば確率の高い戦略になる可能性が高まる。
また、配荷率を上げて配荷の"量"を改善できるかを分析するだけでなく、
配荷の"質"をプレファレンスに合わせて改善することができるか分析することも重要。
③プレファレンス
認知率と配荷率には上限が存在する。しかし、プレファレンス(消費者のブランドに対する相対的な好意度)に上限はない。したがって、プレファレンスはブランドの最大ポテンシャルを決定するため最重要指標。プレファレンスの構成要素は、 (1)ブランドエクイティ、 (2)製品パフォーマンス、 (3)価格、の3つからなる。成功確率の高い戦略を選択できるようにするため、プレファレンスとその仕組みを解明する。
(1)ブランドエクイティ
すべてに優先してプレファレンスを支配する最重要な要素。ブランドエクイティを測定することで、自社ブランドのポジショニングを知ることができる。
この分析を通じて、Mが増える(プレファレンスが高まる)伸びしろのある、ポジションが見えてくる。
また、プレファレンスを高めるには、水平拡大と垂直拡大の2つの選択肢があるが、水平拡大の方が成功率高いことも留意しておく。
(2)製品パフォーマンス
ブランドへのプレファレンスに占める重要性は、製品の機能性が重視されるカテゴリーか否か、比較しやすいカテゴリーか否かによって異なる。
また、リピートビジネスかトライアルビジネスかによっても異なる。
消費者が実感できなければ意味がない。
シングルプロダクトブラインドテストは、プロジェクト初期における製品のスクリーニングに適している。
また、後に紹介するコンセプトテストの「購入意向」を重回帰分析することで現状のプレファレンスの改善余地を判断するのに使うこともできる。
ここで、重回帰分析などの統計分析について学びたい人は、西内啓氏著書の「統計学が最強の学問である」や中西達夫氏、畠慎一郎氏著書の「武器としてのデータ分析力」を読むことをおすすめする。
(3)価格
値下げでプレファレンスを高めようとするのは愚策。一流のマーケターの仕事は、値上げしながらもMを増やす(プレファレンスを高める)。どうすれば新たな需要を作り、より高い価格で売れるか考えることが重要。
2-4. 消費者分析(5セグマップ)
上記は、「確率思考の戦略論」に書かれていた消費者分析の手法であったが、以下では、"5セグマップ"を活用した消費者分析の手法をまとめる。
顧客ピラミッド(5セグマップ)
どの顧客セグメントをターゲットとするか、何を目的に投資するべきか、いつまでに何を達成するべきかという顧客セグメントごとの戦略を立てるために実施する。つまり、現状を把握して、どこに課題・伸びしろがあるか理解するために行う。
セグメントごとに、「顧客数」「年間売上」「費用」「利益」を把握する。
競合ブランドの顧客ピラミッドも作成可能。ギャップから、自社の強み弱みを把握する。
新規カテゴリー参入の際にも活用可能。既存のブランド同士でオーバーラップ分析を行い、主要ブランドの未開拓層を発見する。それに対するアイデアを開発することで、独自性のある新規参入の可能性を見出せる。
顧客ピラミッド作成の方法
上記の調査で算出された割合と、自社プロダクトが対象とするマーケット全体の顧客数をかけ合わせれば、5つの層の人数を把握することができる。
2-5. 9セグマップの作成
上記の簡易調査に加えて、「このカテゴリーにおいて次も購入/使用したいブランドは、以下のうちどれか」を質問し、ブランド選好を加える。これによって、販売促進効果だけでなくブランディング効果を定量化することが可能になる。
また、「ブランド選好は将来の成長ポテンシャルの先行指標として優秀である」といった内容が同著の「企業の成長の壁を突破する改革 顧客起点の経営」で論じられている。併せて読むと理解が深まるためおすすめする。
セグメント分析(量的調査)
次に、各セグメントの詳細な顧客分析を行い、成長のポテンシャルを見極めるためのヒントを探していく。①RFM分析、②行動データ分析、③心理データ分析、からなる。
①RFM分析
現在の顧客状態を知るのに有効である。しかし、既存顧客の購入頻度や購買額を上昇させる施策に陥りがちになるため、中長期の成長に欠かせない視点が欠けている。
②行動データ分析
行動データ分析を通じて、最適なタイミングで最適なマーケティング提案を行うことで、売り上げや利益に貢献する。特に、デジタルマーケティングで活躍する。この分野に興味があれば、北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏の著書である「ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング―Webマーケティングの成果を最大化する83の方法」を読むことをオススメする。
③心理データ分析
もちろん、行動データ分析だけでは不十分である。その行動を左右する心理的理由を深く分析する必要がある。
以上から、各顧客セグメント間における行動面と心理面の違いが見え、それぞれの顧客セグメント固有の課題や機会の仮説を見出すことができる。
3. 戦略立案
次に、これまで行ってきた目的と戦況分析をもとに、戦略を立案する。
ここで、良い戦略になっているかどうかは以下の軸で判断する。
このとき、達成すべき目的と投入可能な資源に大きな変化がない限り、当初の戦略に固執することは論理的に正しい。目的と資源に変化が生まれたとき、戦略も変更していく。同時に、同じ目的をベストシナリオとはできるだけ違う道筋で達成する戦略をもう1つ考えておくとよい。
3-1. WHO (ターゲット)
ターゲティングは狭めるというよりも、コアターゲットを拾っていくイメージ。したがって、戦略ターゲットは変更しないが、コアターゲットは変更できる。ここで、有効なコアターゲットを発見する方法を紹介する。
上記の方法でコアターゲットを設定したら、コアターゲットの深層心理を探り、後のWHATの手がかりを見つけていく。
3-2. N1分析(定性調査)
戦況分析における量的調査を通じて、"ある程度"顧客に対する理解を深めることができている。しかし、量的調査だけでは深層心理(インサイト)をとらえることは困難である。そこで、「いつ、どのようなきっかけで、ブランドを知ったのか/買ったのか/ロイヤル顧客化したのか」を理解するため、コアターゲット一人ひとりの深層心理を探り、後のWHATの手がかりを見つける。
インサイトの発見については、桶谷功氏の著書「インサイト」に詳しく書かれているためおすすめする。
3-3. WHAT (アイデア)
消費者がそのブランドを選ぶ必然、独自性と便益を兼ね備えたWHAT(アイデア)を考える。消費者の頭の中で、購入の強い理由となるブランドエクイティに最も近い場所にポジショニングできると良い。
アイデアの創造
N1分析をもとに、その顧客の行動と心理状態を変えるアイデアを考案する。潜在的に大きなセグメントをターゲットに、効果が高く既存のユーザーの離反を促進することのないアイデアが理想。ロイヤル顧客がどんなアイデア(独自性と便益)を感じ取ったかを手掛かりに、それを他セグメントに拡大して再現する手法が効果的。
以上のようなアイデアを生み出す思考法として、①ブレスト、②KJ法、③キーニーズ法、が挙げられる。
①ブレスト
複数の人が集まって話し合いながら、連想と結合でアイデアをどんどん広げる、膨らませる手法。
②KJ法
「これとこれが似ている」「これとこれがつながっている」などと各ラベルの相似性や関連性に注目し、複数のスモールアイデアをまとめ、いろんなものに共通するビックアイデアを見出す手法。さらに発想が豊かになり、別のアイデアも出てくる。アイデアを絞るステージで使われることが多い。
③キーニーズ法
「コンセプト=アイデア+ベネフィット」という公式に基づく。ベネフィットの裏側には消費者の充足していないニーズがあり、これを捕まえるものがベネフィットであって、それとアイデアがセットになると新しい商品のコンセプトになる、という理屈。
ここでベネフィットは以下3つの普遍的な類型に分けられる。
以上のようなアイデアは、いかに競合あるいは過去とは違うことをするか、もしも同じことをするのであれば、いかに違うようにするか、が重要である。そのためには、意識的にいろいろな角度から注意深く視ることが重要。
物事を考える視点については、BCG出身の御立尚資氏の著書「戦略脳を鍛える」を読むと理解が深まるのでおすすめする。
3-4. アイデア検証
アイデアの候補が複数見つかれば、アイデアに再現性があるかを検証するため、コンセプトテストを実施する。
①コンセプトボードの設計
②スクリーニング
以上で設定したコンセプトボードを消費者に見せ、反応を計測する。既存品の改善や新製品のアイデアの選択を診るのに適している。
ここで、コンセプトと実際の製品のマッチングを確認したいときは、コンセプトユーステスト(C&U)を実施する。
また「確率思考の戦略論」ではアイデア検証の別の方法として、消費者テスト(BP-10)が紹介されている。
以上で求めたテストコンセプトシェアを、認知や配荷、価格に応じて調整し、ユニットシェアを予測する。ユニットシェアは、市場全体におけるブランドのプレファレンスそのものであるため、プレファレンスを予測している。これによって、アイデアを現行品のコンセプトや競合品のコンセプトと比較・検証し、目的を達成することができるのか分かる。
4. 戦術設計 (HOW)
アイデア(WHAT)をターゲット(WHO)に届けるための仕組みを設計する。
4-1. Product
WHATを提供するための製品スペックを決める。
【パッケージ】
キャンペーンが終わってしまえば、パッケージが唯一のコミュニケーション手段になるため重要。パッケージの開発は、①パッケージブリーフの作成、②パッケージテストの実施、③サイズと形状の選定、以上の3つのプロセスからなる。
①パッケージブリーフ
まず初めに、「一体そのパッケージで何をコミュニケーションしたいのか」を決める。将来的なリニューアルを視野に入れておく。
②パッケージテスト
パッケージブリーフに基づき、デザイン案が挙がってきたら、「パッケージブリーフで定義した伝えたいことが、伝えたい順番で伝わっているかどうか」を自社で判断するのに加えて、スクリーニング調査を行う。また、使われる場所も確認しておく。
また、長年使っても問題ないデザインや、カテゴリーらしさが必要になる。
ここでECサイトの場合は、パッケージよりもテキスト、つまり「ネーミングやキーワードでどう差別化を打ち出すか」が重要。また、製品の使用シーンを一緒に見せることも考える。
③サイズと形状
販売価格や競合、棚効率の観点から考える。製品の正面だけでなく、側面でも十分コミュニケーションできるかも考える必要もある。のちの増量キャンペーンやリニューアルを考えておくことも必要。
【製品ミックス】
強いブランドであれば、製品ミックスの拡張はビジネスの拡大に効果的。弱いブランドの細分化はブランドの競争力をさらに落とすだけ。ブランドの希薄化に気を付ける。既存ブランドの高価格版(プレミアムブランド)より、高価格ブランドの低価格版の方が成功確率が高い。
4-2. Price
同じものをいかに高く売るか、それを考えるのがマーケティングの仕事。どうすれば新たな需要を作り、より高い価格で売れるか考えることが重要。原価から売価を決めるのではなく、理想的な売価から原価を決める。価格設定の目的は"お得感"を出すこと。
4-3. Place
「どのようなブランドにしたいのか」「どこで消費者と接点を持つべきか」というコンセプトを考え、それに従って最適なチャネルを決定する。また、店頭やウェブサイトでの露出を増やす"流通販促"は、他のマーケティング施策との効果を比較したうえで、強化を検討すべき。
4-4. Promotion
【広告】
関与の高い商品ほど多面的な情報を広告で伝えなければならない。そのとき、どんな順番で、いつ、何を伝えるかというコミュニケーションのデザインが重要。導入部分の重要性。トンマナで関係性を創り出す。重要な情報は繰り返し伝える。
ブリーフィングで重要なことは、アウトプットへの期待を明確にして、マイクロマネジメントを避け、専門家が能力を発揮しやすい自由度を確保すること。
【メディア】
様々なメディアを俯瞰的に見て、それぞれにどのような役割を担わせるのかを考え、実行する。
利用するメディアは、「誰に何を伝えたいか」があったうえで、コストの安い順番で考えていく。
オンラインメディアの考え方も基本的にはマスメディアと同じ。ただし、マスメディアと異なるところもある。
Twitterで、製品やサービスの特徴やそれが提供する便益など、市場の創造や需要の掘り起こしに結び付く話題を作ることができれば、大きな利益をもたらす。
どの時期の、どのプロモーションで、どんな話題が欲しいかを先に考え、そのアイデアに合わせて商品開発することもある。
【パプリシティ(PR)】
自分たちが伝えたいことと、第三者が面白いと思っていることが重なっていないと成功しない。期間中にだらだら小さな山が続くよりも、ドーンと話題になる高い山ができる方が効果的。Twitter広告には、従来のマスメディア向けの広告とは異なり、エッジの立ったクリエイティブが必要。
【販売促進】
ロイヤリティープログラムは、割引ではなく付加価値を提供する。
CRMは、オペレーションの改善や競合に差をつけられないために重要だが、継続的かつ大きな競争優位は築けない。
【イベント活動】
イベントの目的は何なのか、ターゲットは誰なのかということを明確化して、①イベントにくるお客様、②メディア、③主催する企業やブランドからなる3つのステークホルダーのバランスをうまくとっていくことが重要。
参加者に特別な「経験」や「限定」を提供することで黒字化する。
4-5. 5W1Hのマーケティング戦略立案
別の視点として、5セグマップから立案するマーケティング戦略の設計について紹介する。アイデア(WHAT)が見えれば、それが受け入れられるターゲット(WHO)も見えるし、行動データ、心理データ分析の中で、いつ(WHEN)、どこで(WHERE)、どのように(HOW)アイデアを届けるかも見えてくる。
以上、4P・5W1Hのマーケティング戦略に基づき、テストマーケットに進む。顧客ピラミッドの変化や、N1インタビュー、プレファレンスの測定も継続しながら、目的を達成するための戦略の強化を継続する。
5. 実行
5-1. KPIの設定
実行に進む前、PDCAを上手く回して継続的なラーニングを蓄積するため、KPIを設定しておく。目的を達成する指標になっているか確認。
5-2. 実行後の検証
次回によりうまくやるため、どこを改善し、修正すべきかを学ぶ。
以上、①目的設定、②戦況分析、③戦略立案、④戦術設計、⑤実行、の手順で、マーケティング課題に取り組む。
(補足)パーセプションフローモデル
最後に、これまで論じてきたプロセスとは別の視点で、マーケティング課題に取り組む「パーセプションフローモデル」について紹介する。
パーセプションフローモデルとは、消費者の視点から「どのように欲しくなり、満足するか」を考え、可視化したもの。カスタマージャーニーとは、未来の消費行動を促す消費者の"認識の変化"に着目する点が異なる。
以上で紹介してきた型にはまったフレームワークよりも、柔軟なアイデアを生み出すことができるときがあるので、パーセプションフローの視点から戦略を練り上げることも同時並行で進めるのをおすすめする。
具体的な手法は、以下の記事を参照。
以上です。長い文章にお付き合いいただきありがとうございました。
本日紹介した書籍は以下のリンクにまとめておきました。どの書籍も手元に置いて損はしないはずです。それではまた次回!