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藤井風さんの魅力を言語化してみた
子育てを始めてからポップスを聴くということから遠ざかっていた私が、これだけハマるようになったアーティスト、いやエンターティナーの藤井風さん。しかも、どちらかというと息子の年齢の方に近い若者。高身長で笑顔が爽やかなイケメンというだけでなく、何が魅力なのか、風沼にハマって4年目にして初めて言語化してみることにした。
出逢いは2021日産スタジアムfreeライブ
2021年秋、岡山出身のすごいシンガーソングライターがいると聞いた。
当時は精神的にかなりうつ状態だったので反応は薄かったが、仕事の忙しさが落ち着いたのもあり、お薦めされた日産スタジアムフリーライブのアーカイブをYouTubeで見てみることにした。
「コロナ禍でスタジアムライブを計画したのに、コロナの感染状況の悪化で観客が呼べなくなった。でも、せっかくだからやれることをやりましょう」というイベントだということはわかったが、それ以外のことは理解が追いつかない。
ピアノを子どもの頃から弾いている私は頭の中が?!?になる。ピアノの先生が見たら「とんでもない!」って言われそうなことをしている演奏者がいるんだから。
当日雨だったのは、自然現象だから仕方ない。でも、屋根のあるところでなく、スタジアムのど真ん中。楽器が濡れているけれど、指はすべらない?前髪が濡れて目が隠れてしまいそうだけれど、鍵盤は見えてる?足元はなんと草履。ペダルは踏みにくくない?立ったまま弾くこともあり。身長が高いのに、その高さで弾きにくくない?
演奏スタイルも凄かった。弾き語りをする人が選ぶ曲(アレンジ)は、無理なく弾き語りができるスローでシンプルなものが多い。なぜなら、歌いながら弾くというのは2つのことを同時に行うので、マルチタスクができないと難しいからだ。
なのに、風さんは、ピアノをガンガン弾きながら歌っている。しかも、鍵盤をほぼ見ていないし、使う音域も広い。それでいて、ミスタッチがない。弾き語りの域を超えるテクニックの持ち主だ。
ピアノはすべての楽器の音域をカバーするメロディ楽器であるが、打鍵して音を出す打楽器でもある。でも、打楽器という性質を生かして弾いている人はあまり見かけないし、ガンガン叩き過ぎるとピアノの先生に叱られる(笑)。風さんの場合は、ピアノからドラムも聴こえてきそうなリズミックな演奏で心地よい。
MCは岡山弁の日本語で、東京に出てきたら標準語を使う人が多い中で、方言を隠さないんだ。と思いきや、その後、通訳のように自然な英語に切り替わる。えっ、この人は外国にルーツがある?それとも、子どもの頃外国暮らしをしていた?
曲のタイトルも短くてわかりやすく、それがサビに効果的に使われていてメロディと自然にマッチしている。一部に英語歌詞もあり、日本語と英語両方の言葉使いが秀逸。誰かサポートしている人がいるのかな?
突然、雨の芝生の上で寝そべる。いつもやっていることらしい。服が汚れない?濡れて風邪ひいたりしない?息子を見守る母親のような心境になってしまう私。コロナ禍で大変な思いをしているのは画面の向こうの観客だけでなくて風さん自身もなのに、とってもリラックスしている。
時間があっという間に過ぎようとしていた。その時だ。完璧な演奏中、好青年が一瞬おもしろい「変顔」を見せたのだ。えっ?どういうこと?
今までに見たことのない(いや、子育て中で知らなかっただけかもしれないが)アーティストがこの世に存在していることを知った不思議な体験。もっといろいろ知りたくなってハマっていった。
生い立ちとYouTube
気になって風さんの情報を調べてみる。
外国にルーツがあるわけでも外国暮らしをしていたわけでもなく、日本人のご両親から生まれた4人きょうだいの次男坊末っ子。お兄さんもトランペットを吹きながらピアノが弾けるプロのミュージシャン。
ご実家が喫茶店を営んでいて(残念ながら現在は営業終了)、幼い頃からクラシック、ポップスからジャズまで幅広いジャンルの曲を和洋問わずたくさん聴いて育っている。
子どもの頃からピアノ・エレクトーン・サックスの演奏、大人になってからはカバー曲を歌いながらピアノ演奏(演技も⁈)する弾き語りスタイルをYouTubeにアップしている。
楽器の演奏は、特に男性の場合、見よう見まねで弾けるようになってしまったという人もいるし、プロの歌手でも実は楽譜が読めないという人もいるが、風さんは3歳の頃から中学生までピアノのレッスンを受けていて、音楽専攻がある高校に通っていたので、クラシックも理論も勉強済み。
音楽だけでなく、英語や人としての生き方を教えてくれたのは、お父さんだったとか。
音楽雑誌MUSICA2022年5月号の80,000字にもなるロングインタビュー記事で、風さんという人がどのように作られていったか詳細がわかる。
ピアノ弾きとしては、楽譜も見てみたい。ファーストアルバム「HELP EVER HURT NEVER」のオフィシャル・ピアノスコアがあると知り、買ってみた。
オフィシャル・ピアノスコア
オフィシャルスコアは、各曲ピアノソロと弾き語りの2つのバージョンが入っている。風さんの演奏が忠実に採譜されていて、風さんの各曲に対するメッセージもしっかり入っている。
オフィシャル・ピアノスコア 藤井 風「HELP EVER HURT NEVER」 (OFFICIAL PIANO SCORE)
ポピュラーピアノの楽譜はたくさん出版されているが、曲の流行り廃りが激しいためか慌てて出版するため誤りが多い楽譜もある。しかし、これは品質が良い。シンコーミュージックさんの仕事が丁寧。また、1番歌詞と2番歌詞で同じ部分は繰り返しになることが多い曲の作りは、同じことを繰り返さない(飽きさせない)風さんらしいアレンジなので、繰り返し記号はほとんどなくて曲のページ数が多くなり、ピアノ楽譜としてはかなり分厚い。
ピアノの音域をフルに使い、コードがテンション多めでおしゃれ、コード進行に意外性があるなどいろいろなテクニックが盛り込まれている曲ばかりで、難易度は上級レベル。
これは練習し甲斐がある。そして、何回弾いてもホントに飽きない。それどころか、辿々しく弾いていてもなぜだか心が落ち着くのだ。
もちろん、セカンドアルバムのオフィシャルスコア「LOVE ALL SERVE ALL」も同様。
深い意味がこめられている歌詞
タイトルとサビのメロディがマッチしているだけでなく、さりげなく韻を踏んでいたり、歌詞をよく読むと、人生の哲学というか、マインドフルネス的な内容になっていて、メロディに合った言葉を付けた以上のものが伝わってくる。愛を歌っていたとしても、ポップスによくある恋愛ネタではなく、もっと広い意味の愛である。聴いた時の精神状態で、いろいろな解釈もできそう。歌詞にはあまり興味がなかった私だったが、これほどよく考えられている歌詞も今まで出逢ったことがない。
商業的には、売れているうちに定期的に新曲を出さないといけないのかもしれないが、風さんの場合は新曲を出すペースは一定ではない。タイミングを見計らって発表するので、しばらく新曲が出ないこともある。でも、決して飽きない曲ばかりなので、私としては待ちくたびれない。それよりも、新曲を次々に発表されると、自分の生活に余裕がない時にはついていくのが大変かも。量より質を求めるなら、充分なペースである。
こだわりのサウンドと歌い方
サウンドにこだわっているミュージシャンはそれなりにいるが、もちろん風さんもだ。風さんらしさをあえて1つ挙げるなら、通常は440Hzのところ、432Hzという癒しの効果があるといわれる周波数を使っていること。
風さんの声質ももちろん良くて、音域もかなり広いし、高音で出すファルセットも綺麗で、風さん自体も1つの楽器のよう。作曲やアレンジの際に、歌い手の声の音域を気にする必要は全くなさそうで、これがまた表現の幅が広がる要因の1つだと思う。コーラスも効果的に入っているし、同じ曲でもアレンジによって歌い方を変えているというのも魅力的。
公式ファンクラブはなく、公式アプリ
これだけハマると、ファンクラブはないのかと気になる。しかし、公式サイトはほとんど情報がない。その代わり公式アプリをダウンロードして見てみると、ファンクラブなみの情報がたくさん載っている。しかも無料。
SNSでも対外的な情報は発信されているが、公式アプリは必見!
風さんだけのレーベルHEHN RECORDSは、総勢5名ほどのアットホームだけれど少数精鋭の組織。風さんには係長という役職がちゃんとある。大手事務所に所属する多くのアーティストのうちの1人ではない。このチーム風と言われるメンバーをはじめとしたスタッフの仕事ぶりにも魅力の素がある。
音楽以外の活動も注目のエンターティナー
YouTubeで才能を見い出されてプロデビューすることになった風さん。
それまで発表してきたカバー曲の弾き語りは、各曲を風さんなりに解釈した愛がこもったピアノアレンジと歌い方、小物も使った演技がいい。デビュー後も、リクエストに応じて弾き語りを披露しているが、彼の引き出しの多さにはびっくりする。私の想像だが、きっと記憶力や音楽の才能があるだけではなく、大量の音楽を聴いて得た分析力があるのだろう。曲を聴いたらすぐ再現できるように、分解・整理して記憶しているのかもしれない。
デビュー後はバンド形式で曲を発表しているが、風さんの特長であるカバー曲のピアノ弾き語りも継続。
新曲とともに発表される公式MVでも、風さん自身が曲の世界観を演じていて、それを最大限に生かす撮影地、衣装、演技、登場人物など見所が満載。ただのイメージ映像と思っていたMVの印象がガラリと変わった。
また、アルバムを出す時は、風さん自身がYouTubeライブで曲の解説をしてくれ、曲順もよく考えられているのがわかる。CDには日本語歌詞の英訳も付いてくる。SNSでは英語での発信も時々ある。国内だけでなく、世界にいるファンも想定した対応ぶり。
シンガーソングライターとしてMISIAに楽曲を提供したこともある。が、風さんは、もはやただのシンガーソングライターではない。
・「藤井風のオールナイトニッポン」
ラジオの生放送のパーソナリティ
・「藤井 風テレビ with シソンヌ・ヒコロヒー」
テレビ番組でお笑い芸人との絡み
もしたことがあり、音楽だけでなく、言葉や演技のアドリブもできて、周囲の人々を楽しませてくれる、まさにエンターティナーである。
ライブではJazzでサックス演奏、ショルダーキーボード演奏、ダンスも披露し、風さんの才能を活かせるだけのエンターテイメントはすべてやっているような気がする。
ハプニングがあっても機転のきく対応(アドリブ)ができる。アメリカツアーで弾き語り中にキーボードがスタンドから落下する事件があった(その前から風さんが打鍵するたびにキーボードが揺れていて危なそうだった)。場内は一瞬騒然となりそうだったが、誰かがケガをしたわけではない。風さんはアカペラで観客を巻き込んで歌い続け、その間にスタッフが不具合がないかのチェック。曲が終わる前に間に合い、風さんは(いつもの寝そべり配信で慣れている)床置きにしたキーボードでエンディングを弾いて無事終了!スタッフも観客もそして風さんもあっぱれの大拍手だった。SNSで動画を公開してくれた皆様、ありがとうございます!
国内ライブでスマホ撮影OK
日本ではほとんどのエンターテイメントでスマホでの撮影は禁止されているのが普通。ところが海外では撮影OKが主流らしい。そんな流れからか、私が初めて行った国内のライブでも、まずは1曲だけスマホ撮影OKの許可が出た。海外ツアーを経た2024年の日産スタジアムライブでは、スマホ撮影の制限はなくなった。そして、風さん自身もスマホ撮影を楽しんでいた。「オレの才能を見て!」ではなく、「一緒に楽しもうよ!」というスタンス、人柄が現れている。
海外でも人気
国内はもちろんのこと、世界中で人気者となった風さん。アジアやアメリカでもライブツアーを行った。
スマホ撮影OKなので、SNSでツアーの様子を垣間見ることができる。各国の文化をリスペクトした曲のアレンジ、各国の言葉を覚えて交流する姿勢も素晴らしい。風さんの生き方がスタッフにもインスパイアされて、よりよい雰囲気になっているのだと思う。
花柄の衣装も似合うし、手で作るハートのポーズやパンダの被り物なども自然で愛らしい。みんなを楽しませることが大好きな風さんは、世界にも通用するエンターティナーだ。
紅白歌合戦では演技しながら生歌唱
最新の公での出演は、2024年のNHK紅白歌合戦。B’zの「Ultra Soul」で大盛り上がりの後どういう演出になるのだろうと、テレビの前で固唾をのんで見守っていたら、なんと日本ではなくニューヨークからライブ中継だって!
えっ、日本にいない?拠点があるロサンゼルスでもない?ニューヨークは今何時?朝だよね?と少々パニックに。
上記が「満ちてゆく」の公式MV。この曲ならニューヨークもありだなと気持ちを落ち着かせていると、部屋の中で椅子に座って机に置いてあるアルバムを見ている状態からスタート。演技しながら歌うのは歌手なら多少はやるが、ここからどう動いていくのか?
アルバムをバッグに入れて歩いていこうとしたけれど、バッグは手放して出て行った先は屋外。マフラーを外して子どもに与え、ミュージシャンに投げ銭をして、さらに歩いていくと、何かに乗って上へ上がっていく。ニューヨークも寒いんだろうなあ。その後は、朝日に照らされた高層ビル群をバックに歌い上げる。最後は地面に倒れ込む。風さんに先ほどマフラーを与えた子どもが花を手向ける。
演技しながら屋外を移動しつつ生で歌い、天気をも味方につけたというのは風さんでなければできなかったのではないか。「満ちてゆく」に込められた世界観を新たな手法で魅せてくれた感動の演出だった。
まとめと今後
今回noteを書くにあたり、改めてMUSICAのロングインタビューを読み返してみた。デビュー当時からスタンスが全くブレず、人気がこれだけ出ても決して天狗にならず、チャレンジをし続ける風さんを見習わなければと思った。風さんの素晴らしさは挙げればきりがないが、今回はこの辺で止めておこう。最初は2000字くらいかなと想像していたが、書き続けたらなんと6000字を超えていた‼︎
NHK MUSIC SPECIALで、全曲英語歌詞のアルバム作りにチャレンジしていることが放送された。英語ネイティブではない日本人初である。風さんの誕生日である6月頃には発表があるかもしれない。
最新ニュースでは、今までライブを行ったことがないヨーロッパ、オランダで7月にジャズフェスティバルに登場する。文化・言語の違う地で、新たなチャレンジをする。
この素晴らしき成長を続けるエンターティナーをこれからも温かく、ワクワクドキドキしながら見守っていきたい。