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宮部みゆき『昨日がなければ明日もない』

探偵という言葉は浸透しているけど、実際に探偵をしている人に会ったことはない。
探偵になりたいと言う人には何度か会ったことがあるけれど、お前がなりたいのは探偵じゃなくて出歯亀だろという所作。

タイトルの『昨日がなければ明日もない』って、いい言葉だ。
明日を作るためには昨日が必要だもんなって思って手に取った。
でも小説の中で使われる意味はぜんぜん違った。

自分の過ごした昨日じゃないのに、自分の迎えたい明日じゃないのに。

困った女たち

ちょっとなんかこの人嫌だなっていう女性が小説の中で登場してくる。
そんな書き方したら女性差別だと批判されちゃうんじゃないかって思うくらいの表現が飛び出る。

でもこれを書いているのは宮部みゆき。
れっきとした女性。

女性が女性を書く小説が好きだ。
同性の視点として書き表してくれている作家が好きだ。
そんなことある?って思わせてくれる内容を垣間見るとソワソワする。

この小説でもたくさんソワソワを味わえた。
たまんなかった。

出会いはいつも突然に

僕が人生で初めて宮部みゆきに出会ったのは中学生の時だった。
確か横山秀夫のミステリーを読んで、他にもミステリーを読んでみたいなと探していた時に書店に平積みされていたのが宮部みゆきだったはず。

初めて読んだのは『誰か』だ。
タイトルだけは覚えている。
内容は覚えてない。
だから『昨日がなければ明日もない』が『誰か』から始まる杉村三郎シリーズの第一部だったことも巻末の解説を読んで知った。

約20年ぶりにシリーズの続きを読み進めることができたというわけ。

宮部みゆきの小説は結構いろいろ読んできた。
僕はあまりミステリーを好むタイプじゃないけど、宮部みゆきだけは1年を通して何冊か読む。

文章が踊ってるなと思う。
なんていうか、宮部みゆきは文章で遊んでる。
そしてその遊びがあしらいになって、重要な部分を引き立ててくれている。

不思議な書き方をする人だ。
読む度に感じる。
言葉遊びを文章レベルでやってくれる。

こういう作家はめちゃくちゃ珍しい。

小説って、作家によって文体が異なるから、またあの感覚を味わいたいなとか、今回も楽しませてくれるんだろって期待きて、好きな作家を見つけていく。
でも、宮部みゆきは小説によってぜんぜん異なる文章を見せてくれる。

ミステリーで唸らせてくるんじゃなくて、人間味で潤わせてくる。
だから安心して身を任せることができる。

次はどんな宮部みゆきに出会えるだろう。

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