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円安で思うこと

 外国為替市場で円安が進み、GW中に政府・日銀の介入が入ったらしいことが報道されました。じりじりと円安の水準が変化するにつれて、いつ介入が入るのか。市場は神経質になっていました。
 介入には実際に介入したであろう「観測介入」と、通貨当局者や政府要人の発言による「口先介入」があります。日本では1990年代の過去の介入についての情報開示がありませんので、その効果を比較するのはなかなか難しいものがあるようです。
とは言えアカデミックな分野の先行研究でも、報道ベースの情報の正確性については、一目が置かれているようなので、今回は新聞報道での介入について思うことを記します。

GW中の4月29日外国為替市場。
まずレベル感で言うならば、一気に5円以上の動きがありました。
そもそも為替の水準が短期間で1円以上動くことは稀であり、そこには何らかの市場以外の力が働いたと勘ぐることができます。
マーケットは売りがあれば買いがあるからこそ、売買が成立します。それが「銭」単位で、しかも一瞬で成立するため、あっという間の出来事です。 この日の5円以上の動きは、「普通ではない動き」なので、売買が人為的だと思うのは当然です。ちなみに、5月2日早朝では、4円超の急騰。水準は153円になっていました。160円から円高に動いた裏には、為替介入があったことがイメージできます。

次に為替介入を主導する財務省財務官のコメントを見てみましょう。
報道によると30日午前、財務省の神田財務官は、介入の有無については、
「わたしから申し上げることはない」と介入への言及を避けました。
そして、マーケットを常に注視しており「ロンドンだろうがニューヨークだろうがウェリントンだろうが関係ない」と語りました。この部分はマーケットをけん制したと報道されていますが、口先介入と言えます。

月が変わり、5月2日は財務官はジョージアに出張されていましたが、
「過度な変動が大きな影響を日本経済に及ぼすことは看過できない」と語りました。この部分も口先介入と言えるでしょう。為替介入の有無については「私から申し上げることは何もない。ノーコメントだ」と述べているのです。
そして、取材に応じたものの、やはり介入についてはコメントせず、「必要な場合は、機内にいようが、海外にいようが、24時間適切な対応を取る」と話しました。
隠したいのに取材に応じるとはどういうことか……

コメントを報道してほしいからです。つまり「口先介入」により、マーケットに「実はやりました。だから今後も警戒してくださいね」ということなのです。

 同じく、政府側からも鈴木財務大臣が「急激な変化は好ましくない。行き過ぎた動きについては、それをならすことが必要かもしれない」と述べる
一方、為替介入の有無については明言を避けました。実務部隊がほぼ認めているわけですから、政府側も援護射撃をしていることになります。

もう一度、30日や5月2日の神田財務官のコメントを見返してみると「ノーコメント」という言葉が出てきます。日本経済新聞では、政府・日銀が為替介入に踏み切った可能性が取り沙汰されていることについて、神田財務官は「為替介入の有無について申し上げることはない。ノーコメントだ」と話した。とあります。

この「ノーコメント」は、メディア的にはまちがいなく、コメントと判断します。なぜなら、「ノーコメント」は、答えを避けていることであり、話したくないと言うことです。つまりそれは介入したとも言えます。財務官的には認めたコメントではないと思いますが、メディアでは、何か話さない限り、認めたという範疇の言葉と受け取ります。

もう少し深読みすると、財務官は「ノーコメント」と発することで、介入したことをメディアに認めたと書かせたかったのかもしれません。

実は過去にも同じような発言が繰り返されたことがあります。
例えば
「高い緊張感をもって注視する」
「ファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要」
「過度な変動は望ましくない」 
ここまでは、口先介入の範疇です。

一方、実際に介入した時には、
「行き過ぎた動きに対しては、あらゆる手段を排除せずに、適切な対応をとりたい」
「あらゆるオプションを排除せずに、断固たる措置をとっていきたい」と話しています。これは2022年9月に24年ぶりの介入で用いた表現です。

 市場に「やるぞ、やるぞ」と思わせる、あるいは「実はやりました」と暗に認めるなど、なんてめんどうくさい表現なのだろうかと思う方もいるかもしれません。
日本語ははっきり言わない文化であり、奥ゆかしさがいとおかし…
(というようなことを古典で習いました)

何度も全く同じフレーズを使うので、今ではもう、それなりにダイレクト感があると言えるかもしれません。

しかし、英語の記者はどうするんでしょうか。訳す時には、ちょっと大変そうです。

ドル円チャート 5年(上向きは円安方向)

Yahoo ファイナンスより


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