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想定外の出来事 ~乾杯編~
これは『どうする?乾杯編』の続編です。
【なるほどアナウンサーだ】
初めて何かの会に参加した時には、自己紹介をします。
「所属と名前を言うだけだから、特に真剣に考えたことはないなぁ」という方も多いと思います。
しかし、自己紹介は極めて大切です。本当に大事です。
中身のみならず、例えば、ゆっくり、はっきり、相手に聞こえるようにと、意識していますでしょうか。「えー、XX##の△△#*むにゃむにゃ…」
名刺があるからわかるはず、では、相手の印象に残すことはできません。 そうです。自己紹介は相手の印象に残すことが目的です。
先月のとある同窓会。乾杯あいさつの依頼を受けました。自己紹介をしなければなりません。正直にいいますと私は自己紹介がかなり苦手です。特に”アナウンサー”と付けることに抵抗があります。自分ではアナウンサーっぽい声とは思っていないからです。耳を研ぎ澄まして声に集中する聴衆に対して、「私はアナウンサーです」と言えるほど肝が据わっていません。ですから、いつも言わずにやり過ごすことが出来ないかと考えます。何か方策は?皆さんの期待に応えるには?など様々に考えます。
私はまず、檀上には上がらず、司会者のマイクを借り、小さめの声で”司会者風”に話し始めることにしました。自分をサブの位置に置いてスタートしようとしたのです。すると、事務局をはじめ多くの方々が、慌てて檀上を指し、数を頼んで、ほぼ人海戦術で私を檀上にあげようとするではありませんか!「ええっ!そういう…ことではなく…」体全体を押される空気感。
聞く側からすれば、”どうぞ見えるところに”というのは当然のこと。
「私が落ち着くのはこちらの位置でー」と言おうとする雰囲気はなくなり、檀の上に上がらずを得なくなりました。かくして、
”アナウンサーっぽい司会者を演じることで自己紹介をする”というつたない作戦は失敗し、つかみの演出は崩れました。
【マイクをテストする】
頭の中が白くなりかけながら、私はマイクをオンにしようとスイッチを探しました。すると、別の方がマイクをトントンと叩き、”入ってますよ”と準備をしてくださいました。アナウンサーがマイクのテストをする際はどのようなことをするか…「あー、あー、あいうえお、テスト中です」などというのを耳にしたことはありませんか。マイクはデリケートな精密機器であり、高価な物なので、音声を発することでテストするのです。
その時、私はつい「あ、マイクは叩かないようにしましょう」と声に出していました。すると張りつめていた会場のあちらこちらから、笑いが聞こえてきたのです。プロの第一声が「マイクを叩かない」!?
このことは棚からぼた餅効果をもたらしました。会場の”なごみ”と「なるほどアナウンサーだ」を同時に手に入れ、私自身はホッとしていました。マイクをトントンしてくださった事務局の方には大いに感謝でした。
【会場を巻き込むワザ】
前置きが恐ろしく長くなりましたが、あいさつを始めます。笑いをとったあとは、仕切り直して以下のように考えていました。
あらためまして、みなさま明けましておめでとうございます。柿崎元子と申します。弊社、アウベコトハの名前の由来は、青森の方言でアウベ=会いましょう。言葉を使ってお話しましょうという意味を込めてアウベコトハとつけました。(余裕あれば、津軽弁講座っぽい感じで)
余裕があれば、会場の皆さんを巻き込もうと考えていました。登壇者と、聞いている側との間に線を引くのではなく、一緒に巻き込んでおしゃべりを展開していく…。ラジオ・パーソナリティーの発想です。プレゼンテーションは一方通行ではなく、相互にキャッチボールをすることで、時間の共有が理解を促します。「会うべ、アウベ~、ではご一緒にどうぞ」という演出を入れたのはそのためでした。
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話を始めて1分弱。起承転結の”起”を終え、次は”承”の部分です。”転”に移るための種まきをする予定でした。原稿をご覧ください。
【比喩表現で説明する】
さて、その青森といいますと今、豪雪に悩まされていることはご存じかと思います。
人口30万都市でこれほどの雪が降る場所は全世界でも珍しいぐらいです。
降る雪が多すぎて、「雪かきが追い付かない」、「捨てる場所がない」という状態です。
青森の大雪の話をして次につないでいくつもりなのですが、どうしても大雪のすごさを上手く表すことが出来ません。状況を説明するだけでなく、積雪の数字を入れてみたり、比較を考えてみましたが、どうもピンとこないのです。相手の頭の中に、映像を映し出すように話すにはどうしたらよいか。経験したことがなければわからない…というのでは、残念過ぎます。そこで私が考えた方法は比喩でした。
引っ越しの際にものを片付けて段ボールにいれますよね。この時の状態は、段ボールが積み重なっていき、最後は段ボールの山の中で寝る状態になります。
目の前の雪は片付くけれど、脇に積み重なった壁はどんどん高くなる。外に運び出さないことには埋もれてしまう。排雪ができなければこんな状態になるのです。
どうでしょう?情景が浮かびますか。
結論から言いますと、私はこの比喩を使いませんでした。会場を見渡すと、やはりあまり響いていないことが感じ取れたからです。「ここでさらに説明しようとすると話が長くなる。であれば、この話は捨てよう。」大雪を実感してもらうことはやめた私は、市長に情報共有をアドバイスした話でまとめることにしました。
先にお話ししておくと、私が挨拶の中で話したいことは「情報を集める」ことでした。”情報”というキーワードを出しておかないと、結論に到達できないことは明らかでした。
青森の人たちが大雪対策の情報がなく、不満や不安に苦しんだこと。市長に情報を共有するべく、記者会見の提案をしたことを盛り込んでおく必要がありました。
ここまでお読みいただいてお分かりだと思いますが、私は、全然計画通りに話せていません。ほぼ失敗の領域に踏み込んだと思っています。次回は、
いかに失敗を回収してあいさつを終えたかについてお話します。つづく…
(了)