3.縁日のひよこ

 父と一緒に行った縁日。夏の夜。
昔の縁日って、金魚だけでなく、ウサギやひよこ…
生き物が売っていた。

“ミニウサギ 〇〇円” と箱の中にたくさんの小さなウサギさんが入れられ、売られていた。
でも、大抵は普通に大きなうさぎさんへ成長して、ビックリした!!という話をよく聞いた。
“ミニ” なのはおそらく子うさぎだから、と思う。

そして、 “カラーひよこ” の話もよく聞いた。
赤やピンク、緑、青…
そんなひよこがこの世の中に存在するわけもなく、大人だったら、普通のひよこにカラースプレーで色を付けただけだと気づく。
でも、子供たちにはそんなことは分からない。
夢の世界から飛び出してきたような、キレイな色のひよこ。
『赤いひよこを買ってもらったのよ。とっても可愛いの!!今度見にきてね!』
と、嬉しそうにひよこの話をしていた友達が、次の日、
『聞いて!!水に濡れたら、赤いひよこが黄色になっちゃったの!!』
と泣いていた。

私は縁日って行った事がなかったので、実際に見たことはないけれど、このあるある話はよく耳にした。
だから、
私は絶対騙されないぞッ!!
と、思っていた。

そんな私が、父に連れられて行った縁日。
いろんな屋台があるけど、背のちっちゃな私には、何が売っているのか見えない。
唯一、低い位置にいる金魚たち。
父は金魚すくい屋さんで、黒のデメキンと赤い小さな金魚をすくって、袋に入れてもらった。

そして次に、私の見える高さにいたのが、ひよこたち。
四角い箱にたくさんのひよこが入れら、ピーピー鳴いていた。
そのひよこたちは、カラーに染められてはおらず、フツーに黄色のひよこたち。
私は、
このひよこを売っているオジサンは、いい人だ。
と、思った。
眺めていると、父は太っちょのひよこと、少し痩せ気味のひよこ、2羽買ってくれた。
単純だけど、このひよこたちの名前は、
太っちょさんがピヨちゃん、少しお痩せさんをピーコと名付け、毎日可愛がっていた。

ひよこは、いつまでも “ひよこ” ではない。
当たり前のことだが、暫くすると、この子達は……
ニワトリになった。
ピヨちゃんは、ニワトリになってまもなく死んでしまったが、ピーコは立派な雄鶏に成長した。
とても懐いていて、私の後をずっとついてくる。名前を呼べば走って来る。
どこへ行っても、私の後ろにいた。
庭でビニールプールにお水を入れてもらい、一緒に水浴びもした。
とっても可愛かったのに……

ある日、幼稚園から帰ってくるとピーコの姿がない。
いつもなら、走って来るのに…
ピーコを探していると、母が言った。
『人懐っこい子だったから、きっと誰かの後をついてっちゃって、連れて帰って食べちゃったかもね。』
そう、さらっと言って、フツーにしている母に返す言葉もなく、私は泣いた。

“縁日” と聞くと、小さい時の、このピーコちゃんと、母のさらっと言ったフレーズが、鮮明に思い出される。

…続く……🐥


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