20.地獄の日々

 私は転校3日目に出しゃばったがために、一気に地獄の日々となった。
ただ、不思議なのは、私をいじめるのは男子10人のみ。
その他の男子、そして女子は遠巻きに見てはいるが、現在でもよく問題になるような、クラスの人から全無視とかっていうことはなかったので、そこは助かった。

よく世間で耳にするいじめは、クラス全員から無視されたり、『汚い』とか言われたり、ノートや教科書に“死ね”とか書かれたりとか…
自殺に追い込まれるケースが多いけれど、私の場合はそれとは違うタイプ(?)のいじめだった。

構造を説明すると、大ボス(歯医者の息子K)、組長のようなイメージ。
どんと座って構えて、基本副ボスAに命令し。本人は基本動かない。
でも相当厄介な事が起きた時に動く。

副ボスA。
基本その副ボスによくくっついてるT(まるでジャイアンとスネ夫そのもの)、その他家来たちの中の小ボスSと仲間たち。
全部で10人。

(昔懐かしい歯医者の息子、Aくん。
体が大きくて丸いイメージ。お顔がアンパンマンみたいに丸くて、人当たりのいいイメージ。
彼は優しかったなぁ。歯医者の息子でもこうも違うのか。)

何十年も経った今、このいじめっ子集団くんたちの名前が全部思い出せたところが自分でも驚いた。
忘れてたはずなのに、意外としつこい私の性格。

この10人男子だけがいじめっ子集団。
その他の子達は、私と普通に話してくれるし、遊んだりもする。
誰かのお家に行くこともあったし、それをいじめっ子集団くんたちが知っても、そこは何も言わない。
いじめられるのは教室の中のみ。
一歩入るとそこは地獄。
もう他の子は私に近寄らない。

椅子に座ろうとすると、画鋲が置いてある。
「その上に座れよ!」

嫌だ!!

と言って、画鋲を取って座ると、その画鋲で私の腿に何度も刺した。
もう授業が始まっていて、騒いで事を大きくすると、後で何をされるかわからない。
「騒ぐなよ。
声を出したら後でどうなるかわかるか?」
私は、黙って痛みに耐えた。

放課後の掃除の時間、Sに、
「床にしゃがめ!」
と命令され、嫌だというと蹴ってくる。
やることはわかっていたから…本当に嫌だった。
仕方なくしゃがむと、Sは掃除のために窓際に寄せられた机の上に上がり、私の背中に向かって蹴りを入れながら勢いよく飛び降りた。
背中にSの靴の踵が当たり、激痛が走った。

Sは、それが楽しくなったのか、それから何度も何度もそういう事があった。
放課後のお掃除Time。
恐怖の時間がまた増えた。

お腹を蹴られたり、背中に蹴りとか、よく病院へ行っていた。
当然母には事情を聞かれる。
毎日毎日泣いて帰ってくる娘を心配して、今日はどうだったか聞いてくる。

大したことなく、耐えられる時は話さないけれど、さすがに怪我したり、耐えられらないくらいの暴力を振るわれた時は、母に話をしていた。

母はその度に、副ボスの家に電話をしていた。
副ボスはジャイアンだから、“かあちゃん”から叱られると、もう何もできない。
だから、その後1週間くらいは平和な日々を過ごせる。

時には再開が数日のこともある。

あ〜また地獄の日々が始まるんだ。

その繰り返しだった。
私は学校を休むことはしなかったけれど、眠れない日々が続き、当然朝はなかなか起きられない。
だから集団登校の時間に間に合わない事が多かった。

朝ごはんは食べないと家を出してもらえなくて、母はご飯を無理やり私の口に入れた。
それが日課のようなもの。
その時、テレビからは“明るい農村”の曲が流れていて、それから何年も経ってから、その曲を耳にした時鳥肌が立った。

教会の日曜学校には、そんな最中に通っていた。
日曜学校で一緒の、ちょっとヒョロ長、小ぶりの男の子は、お隣2組だった。

同じクラスでなくてよかった。
日曜学校で、このいじめの事をみんなに知られるのは嫌だ。

好きとかではなかったけど、こんなことで友達を失いたくなかった。

でも実は、彼はこの状況をよく知っていた。
そりゃそうだよね、隣のクラスなんだから。

日曜学校では、彼は何も言わずに普通に接してくれていた。

ありがとう。

ある時、放課後だったか、音楽室とか他の教室に行くところだったのか…
教室には数人の生徒しかいなかった。

勉強がよくできる、習字がとても上手で、性格も穏やかなSくんが、急に私に話しかけてきた。

背の高い彼がうつむき加減で、目も合わせずコソコソと小さな声で話し始めた。

「君がいじめられてるのは、本当に可哀想だと思うよ。
でも、僕は助けてあげられないんだ。
彼らが怖いし、勉強の妨げになるから関わりたくないんだ。
多分、他の子達もそうだと思うよ。
だからごめん。」

それを告げて彼は去っていった。

私は背の高い彼のうつむいた顔を覗き込むように彼の言葉を聞いていた。
私の答えは何も聞かず、ただ言い去った。
あの時の彼の姿は、目に焼き付いている。

君の気持ちもわかるよ。
逆に気にしていてくれてありがとう。
全然、放っておいてくれてくれていいよ、Sくん。
でも、どうしてそんなこと、わたしに言ったの?

…続く……📌

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