5.放課後教室

 幼稚園の年少、私はすみれ組。
担任の先生のピアノが大好きで、
いつか私も弾いてみたい
と思っていた。

幼稚園が終わった後、放課後教室の中にピアノ教室もあった。
ある日母に
私もピアノを習いたい
と言ってみたが、母は取り合ってくれない。
毎日毎日、幼稚園から帰ると母に言い続けた。

すると、ピアノを買ってくれた。
ヤマハの黒いピアノ。
嬉しくて飛びついたけど、弾けないので困っていると…
父が
『パパが教えてあげるよ。』
『弾けるの⁉︎ 教えて教えて!!パパってすごい!!』
期待した私に弾いて教えてくれたのが、人差し指だけで弾く “日の丸”
弾き語り⁇
ドドレレミミレ~

毎日、幼稚園から帰るとピアノに向かい… “日の丸” だけを何度も何度も弾いていた。人差し指だけで。
違う…私が弾きたいのは日の丸じゃなくて…

ピアノ教室に行きたいの
私はまた、毎日母に言い続けた。

すると…
『ピアノ教室に行きたいんだよね?
通い始めたら、毎日練習しないといけないの。
真枝ちゃんにできる?』
と母は言った。
できる!!毎日練習する!!
そう約束して、ピアノ教室に行くことになった。

幼稚園が終わって、放課後教室に行こうとしたら
『まさえちゃん、帰らないの?
バス、乗らないの?』
とお友達が聞いてきたので、
うん!!わたし、ピアノ教室に行くことになったの
自慢げに話した。

母が幼稚園に来てくれて、一緒に教室に近づくと、お友達がピアノを弾いていた。
いいなぁ、わたしもあんなふうに弾きたい。

でも、現実はちょっと違った。

母が先生に挨拶して、先生が私に
『今日はまだ弾かないからね。だからそんなに緊張しなくていいのよ。』

は⁉︎ 今日はピアノに触れないの!!
あんなに楽しみにしてたのに⁇

ショックすぎて言葉も出なかった。

先生の名前、まきの先生。
記念すべき第一回目のピアノ教室開始は
私が4歳の12月12日。
寒いけど、そんなの吹っ飛ばしてくれるくらい嬉しさでたまらなかった日。

こんなに楽しみにしてたのに、ピアノに触れないなんて
信じられない!!

まきの先生が、ピンクのA4サイズくらいの、五線譜ノートをくれた。
子供用だから、五線譜の幅がとっても広い。
そこにト音記号を一つ書いて私に言った。
『これはト音記号というの。
これをたくさんこのノートに書いてきてね。』

第一線と二線の間から書き始めて、第三線から第一線を通り上へ向かって第五線を突き抜けたら丸を描いて真ん中へ、第四線で線が交わるように真っ直ぐ下へ下ろす。最後はネズミの尻尾みたいに丸める。
ひたすらト音記号を書く宿題を出された。

たくさん書くから、お願いだからピアノに触らせて!!

毎日ト音記号だけを書いて、次の週、そのノートを持って行った。

これでピアノが触れる!!

でも、また宿題が出た。
次はヘ音記号。
1週間、ヘ音記号だけを書いて持って行った。

いまでもそのノートはあるのだが、ト音記号もヘ音記号も、だんだんズレていってる。
頑張った!!小さい頃の私!!

これでやっとピアノに触れる!!
・・のかと思いきや、今度は音階の書き方の練習。
全音符をドから次のドまで、一オクターブ、その音符の中の色を塗る。
ドは赤、レは黄色、ミは緑、ファはオレンジ、ソは水色、ラは紫、シは白、で…ドで終わる。

今はそんな教え方はしないと聞いた。

またひたすら色付き音階を書いて持って行った。

次の宿題は何?

まきの先生が
『まさえちゃん、えらいね。ちゃんと書けてるね。
今日は、少しピアノに触ってみましょうか。』

やった~!!やっと触れる!!ピアノに触れる!!

本当に本当に嬉しかった!!

ありがとう!!先生!!
わたし、ぜったいがんばるね!!

絶対!!毎日練習する!!
と、心に誓った。

ピアノ教室で初めて教えてもらったト音記号、
今でも一番好きな記号。
めちゃめちゃ上手に描ける。自慢できる場所もないけれど。
役にも立たない、けど大好き。

ワンコの「待て」と同じくらい、すごく待った思い出。


…続く……🎹


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