長く長く胸につかえてきたこと
「うまおいさん,おはようさん,あんたらはええなぁ…そこら辺に生えとる草食うとったら、腹いっぱいになるんやろ?そこいくと,人間は,金払わんと、食べ物が,手に入らない。食べる物の値段が,どんどん高くなってなぁ…1ヶ月ぐらい,あんたんとこの生活と,交換したいわぁ。」
また,うちのおかん,あの頭巾をかぶって,草むらにいる虫と話しとるんか?
皆さんは,聞き耳頭巾の話を知っているだろうか?我が家は,あの主人公の子孫で,あの頭巾も,家宝として,代々引き継がれている。あの絵本では,鳥の世間話を聞いてるだけの話となっているが,動物だけでなく,魚や爬虫類,小さな虫の会話も聞き取れるし,こちら側の話も,動物や虫たちに伝わるという優れ物であることがわかった。それをいいことに,うちのおかんときたら,田んぼでカエルの合唱が聞こえれば,あわてて頭巾を被って,田んぼに飛んでいくし,この間は,アリ地獄からアリを助けて,お礼を言われたと喜んでいた…。
ウーン,先祖のように,頭巾はアリ助けではなく,人助けに使って欲しいんだが。
我が家が,聞き耳頭巾を持っているという話は,全国的に知られるところとなり,ペットの気持ちを知りたい人や熊やイノシシの被害で,困っている野菜農家や家畜農家 競馬の騎士などからの依頼が,毎日のように来るようになった。虫にスーパーの商品が,高くなったと,愚痴をこぼしているおかんには,しばらく休んでもらおう。息子は母親が反面教師として役に立ち,清く正しい大人に成長していった…。ペットや家畜,害獣駆除に奔走し,市から感謝状をもらえるまでになった。
そんな時に届いた自分宛の一通の手紙
「私は,あなた様をずっと探していました。あなた様は,ごんぎつねのお話をご存知でしょうか?
実は,私は,ごんを銃で撃ってしまったひょうじゅうの子孫なんです。ずっとずっと心にしまっておいた思いがあります。私の先祖が,殺してしまったごんの子孫を探して,ごんは、,反省して,山の幸を届けていたのに殺されてしまった…それをを,どう思うか 聞いてほしいんです。ごんの事を時々思い出すことがあって、ひょうじゅうの子孫として,胸が苦しくなるんです。何とかお願いできないでしょうか?」
読み終わって,これはすぐさま,ごんぎつねの子孫を探しに行かねば…と,気持ちが高鳴りました。ーしかし,いや待てよ,確か ごんは,家族はいないはず…そのまま亡くなっているから,子孫はいない…ーこの事を,依頼して来たひょうじゅうの子孫さんに,電話で説明をして,「キツネが,たくさん生息している所に,2人で行って,絵本の読み聞かせ会を開いて感想を聞いてみるのはどうでしょうう?」と,提案してみた所,すぐに「お願いします。」と言われた。
数日後,聞き耳頭巾の持ち主は,有名人になっているので,お年寄りに変装して,都内の喫茶店で打ち合わせをした。
「私は,ひょうじゅうの子孫に生まれて,ずっとごんに謝りたいと思っていました。でも謝り方がわからない…そんな時,あなたをテレビで見て,藁をもすがる思いで,手紙を書いたんです。」
「お辛い気持ちを,ずっと抱えていたんですね…
さっそく,周りに気づかれないように注意しながら,野生のキツネが,たくさん生息している北海道の山林地域に行きましょう。」
➖北海道の山林地域➖
声かけに応じてくれた5匹を前に,聞き耳頭巾を被った青年は,「ごんぎつね」の絵本を読んで,読み終わり,「皆さんの感想をお聞かせください。」と尋ねたが,4匹のキツネは,表情を固くして押し黙っていた。ただ1匹,北区コンコン会の長老の八十吉は,優しい口調で,答えてくれた。「そうさなぁ、撃たれたのは可愛そうだったが,病気のお母さんに食べさせようとしていた 大切なうなぎを魚籠から取ってしまったのだろう?少々イタズラがすぎたのう…そこのひょうじゅうさんの子孫さんよ。もう苦しまないでいい。この絵本の最後をもう一度読んでごらん。ひょうじゅうさんは,「おまいだったのか?いつも栗をくれたのは!」と,ごんに言葉をかけているね。死ぬ間際になってしまったけれど,ひょうじゅうさんに,ゴンはイタズラぎつねではなくて,思いやる気持ちのあるキツネだとわかってもらえて,安らかな気持ちで,逝くことが,できたのだよ。だから,子孫さんよ,今日から,晴れ晴れとした心で生きていってくれんか?」聞き耳頭巾の青年は,通訳をしながら,途中から涙声になっていた。ひようじゅぅの子孫も,八十吉を抱きしめて,何度もありがとうと言い続けた…。
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