以前、恩師に「中秋の名月の誂えをして部屋を作ったから見に来て」と言われて、お宅に伺った。居間の大きな窓の左側に短冊状の窓が5枚並んでいる。同じ大きさの窓が横並びながら、少しずつ右肩上がりにずらして並んでいる。夕方から集まった人で里芋や栗や月見団子を食べて語らう。そうこうするうちに、一番左の窓に満月が顔を出す。上に7割、下に3割の余白を残した、絶妙な位置に満月が見える。あまりにも綺麗な月に盛り上がり、お酒がすすむ。しばらくして窓を見ると、月は二つ目の窓に移っていた。しかも上が7割、下が3割の余白を残した位置に居る。それを5回繰り返し、月は窓から見えなくなった。時間もすっかり遅くなり、恩師の家を後にした。帰り道、皆で広い空に浮かぶ満月を堪能した。
 今でも、中秋の名月というと、その恩師を思い出す。数年前に亡くなられてしまったので、思い出に浸りながら月を見ていた。すると、あの私を襲った地底人が私の隣に並んでソファに座っているではないか。もう一度、とどめを刺しに来たのかなと思った。怖いというより諦めだった。地底人というだけあって、髪は銀色、白髪と言うにしては艶がある。肌の色も抜けるように白い。眼もグレーで透明に近い。美しいと形容するに値する。彼らは笑いながら
「怖がることはありません。信じてもらえないかも知れませんが、私たちは貴方の味方です。布引観音のところで出会って、そこから附いて来ました。貴方でも分かるように経緯を説明しますね」
と穏やかな声で彼らは説明し始めた。地底人は優秀で、地表に住む私たちとは不戦協定がある。勝手に地表の人を殺したり食べたりは出来ないが、そのルールの隙をついて、そういうことをしている地底人も居る。阿弖流為様は私に直接、地底人と戦うように指示したので、それでは、ルール違反になり、その地底人は私を殺すことが出来るので、咄嗟に私を襲って、動けなくした、とのことだった。生贄を取る地底人は、地表の人に生贄を捧げさせる形を取ってルールを守っているとのことだった。
 大きな月を見ながら、地底人たちと今後について話し合った。