ネーブルオレンジ
昔、祖母がこの季節になると庭のネーブルを送ってくれて嬉しかった。へそのあるオレンジという言い方をしていたように思う。八朔とセットで送ってくれていた。八朔の方が酸っぱいので、八朔を食べてからネーブルを食べる。完全無農薬のフルーツは箱を開ける前から香ってくる。スーパーではあまり見かけない。
思いがけず、友人が箱いっぱいのネーブルと八朔を送ってきてくれた。開ける前から分かる。嬉しさと懐かしさがこみあげる。望外の喜びだ。間違って別の家に配送されていたらしく、配達員が平身低頭で謝ってくれる。生ものなので確かに誤送は困るのだが、なんであれ届いたので良いとする。
部屋中に満ち満ちたフルーツの香りを楽しみながら姫神様たちと語らう。
埼玉の八潮の道路陥没の事故の続報ではトラックの運転手のようすが分からない。どんなにか心細いだろう。辛いだろう。心を痛めていると姫神様たちが
「あの人は切り捨てられたのよ」
という。私もそう思う。弱者だから切り捨てられるのか、と憤りが溢れてくる。
「今後は困ったときに誰も助けてくれません。覚悟しなさい」
という。ぼんやり、そうかなとは思っていたけど、断言されると、腹が決まる。
「トラックの運転手さんは苦しかったのでしょうか?」
と聞くと、姫神様たちは首を横にふり
「ちゃんと苦しくないように、早めに身体を麻痺させて、安らかに過ごさせました。」
と仰った。苦しくなかったならせめてもの救いだが、無念であったろうと思うと辛い。安らかであることを祈るしかない。
「私なりに、新技術を調べましたが、分かりません。ヒント下さい」
というと、オトタチバナヒメ様がきらきらした目をして
「最近のネイルって塗ったあと固めるじゃん」
と言い出した。インフラを整備しなおすための新技術を聞いているんだけど、と思ったけど黙っていた。オトタチバナヒメ様がどんどん話を続ける。
「例えばだけど、ネイルみたくね、素材を固くしたり、逆に柔らかく出来る技術があるじゃん。それで、柔らかい素材の状態で、工事をして、何らかの方法で固く変えたらどうよ。ばっちりじゃない?」
と嬉しそうに話す。私の頭ではすぐには理解できなかった。そもそも全く思いつかなった。
「他にもいろいろ技術はあるんだし、変な規制が外れたらなんとかなるわよ」
と言われた。オトタチバナヒメ様といつも一緒にいる大人しい姫様が珍しく口を挟んできた。
「それと、地底人への認識変更とリスペクトが大事だと思います。彼らのテリトリーが被っている部分もありますので、地上の人の一方的なやり方はよろしくありませんね」
と言われた。
スケールが大きすぎるし、難しいので、私は頭がショートしてしまったが、粛々と調べてみようと思う。
八潮近隣の方々の生活が混乱しているのをニュースで聞くだけでも辛い。他人事と思わずに一歩一歩解決に向けて動いていきたい。