コノハナサクヤヒメ様に
「最近、私の仕事してくれてなくない?」
と、チクりと言われてしまったので、
「どういった御用でしょうか?」
とお聞きすると、
「箱根神社の元宮に行って頂戴」
と仰るので行くことにした。
当日、天気は大雨。でも、その日と指定されていたので、行くことになった。
「流石に箱根に着いたら、雨は止めてくれますよね?」
と聞いたが
「龍神関係なので、無理」
とのことだった。
まずは元宮。箱根園からロープウエイで上まで行って、そこから徒歩で元宮に行く。ロープウエイのドアの開閉をするおじさんが
「今日は天気が悪くて何も見えないよ。天気が良ければ、あっちに富士山が見えるし、伊豆七島も見える。夕陽の時間には、雲に夕陽のピンクが映り、富士山までピンクに染まるんだ。見せたいな。また、天気の良い日においでね」
と声を掛けてくれる。――仰るとおりです。今日、この天気で来る方が悪いんです。でも、どうしても今日、行ってくれというので、来てるんですーーとも言えず、親切なおじさんに深々と礼をしてロープウエイに乗る。霧で周りは全く見えない。風が凄くて揺れる。きゃあきゃあ言いながら、揺れるロープウエイを楽しむ。10分もせずに頂上。降りて、ドアを開けた途端、凄い風。雨も横殴り。元宮までの地図を頭に入れて、暴風雨の中、元宮まで歩いていく。これが晴れた日なら、どんなに気持ちいいだろう。開放的な山頂で景色を満喫できるだろう。ロープウエイから降りた10人近い人が黙々と元宮に向かって歩く。風が凄くて傘も差せない。
「これって龍神様、怒ってますよね?」
とコノハナサクヤヒメ様に聞いてみると
「いや、怒ってない。とにかく、今日は、すごく沢山、来ている」
とのことだった。ぬかるんだ足元を丁寧に歩き、転ばないようにしながら、なんとか元宮に着いた。建物の中は厳かで、風雨を避けられるだけでも天国のようだった。さっさとお参りを済ませて、すぐにロープウエイの駅に戻った。次のロープウエイで今日の営業は中止ということだった。頂上にいる人が全員戻ってくるのを待って、何とか箱根園のところまで戻ってきた。乗客は皆、風呂上がりのように、びっしょりに濡れていた。
「ロープウエイが動いてて良かったわね」
とコノハナサクヤヒメ様は涼しい顔で言う。
「そういう問題では無いような・・・」
と思ったが、言い返せなかった。
せっかくなので、そのまま、皆で、九頭龍神社まで歩くことになった。頂上とは違って傘も差せる程度の雨だった。九頭龍神社には例大祭の時に行ったことがあったので、道は迷わなかった。雨なこともあり、あまり人も居なくて、静かに参拝することが出来た。本殿の向かい側、湖面に向かって降りる階段のところに小柄な龍神様がたくさん居た。ぺこりと挨拶すると、別に喜ぶでもなく、ふふんと言って湖に戻ってしまった。
秋田から来たというおじさんが白龍神社に行きたいというので、行った。本殿は思ったより小さかった。でも凄いパワーだった。本殿の右側に石があり、その周りを3回廻ると願いが叶うということらしい。その秋田のおじさんに、やり方を聞いても、ネットで調べなさい、と言うので、調べたけど、イマイチよく分からない。隣の売店に売っている紐を持って回るということらしかった。私は願い事があるわけでもなく、「開ける」をしに来ているので、紐も買わずに、ただただ反時計回りに3回廻ってみる。
なんか、そのおじさんが力を持っていそうだったので、
「友達になろう!連絡先教えて!」
とバカっぽく言うと
「そういうの断ってるんだ」
と言われた。なんか私が振られたみたいで、ちょっとムッとしたけど(笑)この人はお役目で回っているわけじゃないなと分かってホッとした。繋がる必要のある人は必ず繋がれる。
私が恥ずかしがって繋がろうとしないと、遠回りさせられるので、ガツガツした奴だと思われても、取り敢えず、繋がる努力はしてみるようにしている。
すると、そのおじさんは、石の周りを右に時計回りに回り出した。この人は「閉じる」をしている人なのか。と納得した。喧嘩する必要はない。彼が「閉じた」分より、多く、「開けて」帰ればいい。彼が「悪い」とかではない。潰す必要もない。結果として「開けて」帰ればいい。
雨は一向に止まなかったけど、箱根神社に寄って、帰った。本殿右側に九つの龍の頭が並んでいる噴水がある。水をペットボトルに入れて持って帰っていく人がいる。
「これ持って帰った方がいいですか?」
とコノハナサクヤヒメ様に聞くと
「なんで?」
と不思議そうな顔をされた。なんで?って言われちゃうと、返事のしようがない。
「御神水って有難いものかなと思って」
と一応、口答えしてみる。
「水は持って帰らないほうがいいよ」
と言われてしまった。ぐうの音も出ない。
「それより、来週は高千穂行ってね」
と言われて、ひっくり返りそうになった。帰りの電車で飛行機などを手配した。もう、少し早めに言ってもらえると助かります。