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一樹の蔭〜放免の平安事件簿〜

第七章 再会


「おひさしぶりです。おかえりなさいませ、とうさま」
 雅近の邸で真白の出迎えを受けた誠は、目をぱちくりさせた。
「良くできているよ。偉いえらい」
「まさちかにいさまも、おかえりなさいませ!」
 雅近に褒められて嬉しそうな真白を、しばし見つめた後。
「……この娘に、どんな入れ知恵をなさったのですか」
「人聞きの悪い言い方をしないでおくれ。真白を、貴族の娘として育ててみようかと思って」
 雅近が、真白の頭を撫でてやりながら、誠に微笑みかける。
「若紫の真似事ですか」
 誠は呆れた風に、源氏物語の巻名を引き合いに出す。
「『君のお父様が冷たくしたのは、礼儀がなってなかったからじゃないかな?』って、助言してあげたんだ。色々なことを教えたら、お父様を見返す為にって、頑張って覚えてたよ」
「人にでたらめを吹き込むのは、おやめください!」
 悲鳴のような諫言も、馬耳東風。雅近は、真白を誠の方へ押し出した。
「あわわ。え、えっと、とうさま……」
 珍しくもじもじして、上目遣いになる真白。
彼女は、見違えるようになっていた。
上質な布をふんだんに使った単衣を重ね、その上に羽織った衵は染め色鮮やかな青山吹(表が明るい緑、裏が黄)。かつてのあちこち破れた粗末な服とは、雲泥の差だ。
ほつれ、煤けていた髪も丁寧に梳られ、艶が出ている。
「……似合っている」
 誠が正直な感想を口にすると、真白はぱっと顔を明るくした。
「私はお前の本当の父親ではない。ただ……それでも良ければ父親の代わりにはなってやる」
 そのままの勢いで、宣言する。誠としてはかなり勇気を振り絞ったにも関わらず、真白はこてんと首を傾げた。あまり理解できなかったらしい。
「〜〜っ! はあ…………」
 気が抜けた。へたり込む誠の膝に真白が乗っかって、きゃっきゃと甲高い笑い声をあげる。
「とうさま、だあいすき!」
 雅近は上機嫌に、二人を眺めていた。