三つ葉のクローバー#11
僕は再び、いろめき立つキャンパス内をうろつく事になった。しかし、勧誘の期間もすでに半分は過ぎている。客引きのような上回生も、断られた人間に何度も声をかけることはしなくなっていた。
少し安心した僕は、同じ専攻の関本くんと学内を散策していた。すると急に、上回生の女性に「ちょっといいですか」と声をかけられた。普通の勧誘とは違い、僕のことを知っている風である。訝っていると、関本くんが何か勘違いして「用事を思い出した」と言ってそそくさと去っていった。
セミロングの黒髪の、芯の強そうな切長の目をした女性で、見覚えはない。話を聞いてみると、入学式の際に哲学科のプラカードを持って先導してくれた2回生だった。なぜかわからないが、僕のことが印象に残っていたらしい。ぜひ邦楽部に入らないかと言われた。
彼女の懸命さは伝わってきたが、残念ながら和楽器を演奏したいとは思わない。もう入りたいところは決まっていると言って丁重にお断りをした。
関本くんが去って一人になったあと、僕は目当ての場所に向かった。
そのブースは広場のはずれにあった。小柄で天然パーマの優しげな顔立ちをした男性と、髪が長くスラッとした長身の女性、中肉中背で知性を感じさせる目をした男性が、楽しそうにおしゃべりをしていた。その様子が、僕には他の部とはなにか違うように見えた。
立て看板には「心理学研究会」と書かれていた。もともと大学を受けるときから、哲学がダメなら心理学を専攻したいと考えていた。なんとか希望する哲学科に合格したが、ここならさらに心理学も学べるかもしれない。僕は、思い切って自分から入部したいと申し出た。
この時期に、それほど人気があるとは思えない研究会に、みずから「入りたい」という僕を見て、先輩たちは驚きの表情を浮かべていた。とはいえ、入部希望者である。すぐにジュースとお菓子でもてなしてくれた。
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