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三つ葉のクローバー#6

入学式の前日になってようやく、業者の立ち合いのもとでガスの開栓が行われた。

「これで煮炊きができる」

母はそう言って僕よりも喜んでいた。よほどコンビニのご飯が気に食わなかったらしい。さっそく、左の五徳で味噌汁を作りながら、右の五徳でお湯を沸かしてお茶を飲んでいた。

これは、ドレッドヘアの職員の「二口コンロを置ける部屋は限られている」という的確な助言をうけて新居が決まってから購入したものだ。

冷蔵庫などはまだ届いていないが、部屋の片付けもおおかた落ち着いてきた。そこで僕たちは、近くにある伏見稲荷大社までお参りに行くことにした。

佃煮屋やあられ屋、土産物屋が並ぶ私鉄の駅前を通り過ぎて参道を上る。疏水にかかる橋を渡ると、通り沿いに古びた茶屋がいくつも並んでいた。僕はそのひとつの「スズメ」と書かれた小さなのぼりに目を留めた。

なんだろうかと疑問に思っていると、案の定、母がスズメとはなんだと店先にいる恰幅の良いご主人に尋ねた。彼によると、スズメの丸焼きを名物として売っているようである。気にはなるものの、二人は黙って店の前を素通りした。

しばらく歩くと伏見稲荷大社が見えてきた。僕たちはゆっくりと大きな鳥居をくぐり、手水で手を清めて本殿にお参りした。本殿の裏手にある階段の上には、有名な千本鳥居が並んでいる。鮮やかな朱色のトンネルの中を歩いていると、まるで異世界に通じているようである。

その奥にも道は続いていた。稲荷山というひとつの山が伏見稲荷大社の境内なのだ。さすがに奥の院まで行くには体力がもたないと判断し、僕たちは引き返すことにした。

帰り際に、先ほどのスズメとは、はたしてどんなものだろうかと思って食べてみた。だが、鳥そのままのグロテスクな見た目もさることながら、味もいまひとつだった。僕は最初の直感どおり注文しなければよかったと、深く後悔したのだった。

参道沿いにある刃物屋で包丁を買ったのち、僕たちは部屋に戻ってきた。

明日はいよいよ入学式である。僕の胸は期待に弾んでいた。

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