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「弥太郎 長崎蕩遊録」3(2月前半)

 岩崎弥太郎はついに本物の・・・丸山遊郭の客になった。上士で上司の下許武兵衛と同行した後から、妓楼側の応対が良くなったように見える。妓楼での歓待と遊女のねんごろな応接と情緒に弥太郎は虜になってしまい、三日続けて丸山に通う。出張に出ると「故郷を去る気持ち」と書く始末。なお、後のまとめの便宜のため丸山の妓楼と遊女の名を太字にした。

長崎の色っぽい女性たち

2月2日 夜、岩崎弥太郎は旅宿大根屋の女中と関係を持った、かもしれない(下許も?)。何の対価かわかりにくい支払い、一笑、旅ならでは、などの記述から推察。旅宿で働く女性に「副業」をする者があったか? 「素志の堕落」とも弥太郎は記している。

2月3日 阿園家を訪れるも揚秋平と落ち合えず、竹林亭へ行くと満員、家が揺れるほどの大騒ぎ。そこに浅海琴谷、下許、竹内静渓、青木軍平、阿園らが来たので同席。その後、下許と丸山へ。浅海が妓楼に入るのを目撃。下許と弥太郎は新築楼へ。二人の美女が陪席。下許が先にみよ春を選び、弥太郎についたのはたつみ。が、下許は飲み過ぎ、弥太郎も心が落ち着かず、二人とも「一場の春の夢」を結べず。夜明け前に旅宿に戻り、下許と二人で「失笑」した。

2月5日 二宮敬作の塾で狸解剖を見物し、宴会にも参加。一旦帰寓後、下許の賛意を得て敬作の息子逸次を阿玉楼で接待。その後、阿園家に行くも不在、本紺屋もとこんや町亀屋に歌妓を呼んで宴会。帰り、逸次と二人で夜道を歩いていると、暗闇から弥太郎を呼ぶ女の声がした。昨夜ので、弥太郎は「あなたを待っていた」と言われて精神蕩散とろけそうになる。ここで逸次が巽を叱りつけたので、恐れる巽を弥太郎が萬屋よろずや町まで送り、また会う約束をした。逸次の叱声の理由は不明。下のリンクに推測あり。

2月6日 午後遅く、弥太郎は遊びたい気持ちに駆られて一人で丸山へ。新築楼の巽と会いたかったのだが、巽と情交すると深入りしそうだと用心し、津野国屋瑞松楼へ。老婆(やり手)の連れてきた「容色美麗」の常盤野ときわのが気に入って(ついに)床入り。酒席にいた百花がかわいかった、とも記す。

連夜の丸山通いと出張

2月7日 午後、下許と津国楼へ。昨晩の常磐と「一睡」。下許がいなくなっていたので、夕方、一人で花月楼へ。相手の千嶋は容姿は常磐に劣るが、物事を理解する力が高いと高評価。弥太郎が歌娼を呼ぶと老婢(やり手)など七、八人もが陪席、中の一人の示唆で、他の部屋に下許がいるのを発見した。

2月8日 昼食後、下許と花月楼へ。正木野、歌妓米吉小鷹が来て歌と酒で大盛り上がり。弥太郎は別の妓楼へ行こうと考えていたが、遊女の情にほだされて寝所に入ってから辞去。角築楼で小鷹と会う約束をしていたが、揚屋ではないので妓女との遊びができず、瑞松亭に行って小鷹と歌娼阿中おなからと宴席。常盤野はオランダ人の集まりに呼ばれて不在、別の遊女を薦められて不平だが承知した。帰り際、昨日気に入った百花に手紙を残した。

2月10日 遊びには出なかったものの「痴情未だ醒めず」と記す。

2月11日 幕府奉行所にある稲荷神社の初午はつうまの祭りに行く。丸山の娼妓が街中に繰り出して賑やか。弥太郎はその中に知己がいるのに気づいて「精神恍惚」

2月12日 清の学校制度に関する文献を求めて肥後大村藩へ出張。送別の酒の後、丸山遊女への恋着から「故郷を去るような気持ちだ」「今夜は丸山に泊まろうか」とまで考える。途中、漁村の宿で同宿者と酌婦三人を呼んで酒を飲み、「丸山と異なり、田舎らしく飾り気がなくて愛らしい」と、早くも丸山が弥太郎の評価基準になっている様子。

2月13日 弥太郎は大村で女郎の誘いのない浪華講や文武修行者向けの宿に泊まった。公的な調査旅行だったから? 長崎に来る前に知り合いになっていた大村藩士たちが宿に来て、文献入手の依頼の後、丸山の話をして酒宴。弥太郎は16日まで大村にいたが、調査は不首尾に終わった。

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