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「弥太郎 長崎蕩遊録」4(2月後半)

 岩崎弥太郎は、下許武兵衛や知人たち(酒乱が多い)とよく酒を飲む一方、三日に挙げず丸山の妓楼に上がるようになる。好みの遊女に会うのに妓楼の老婆/老婦(やり手)と良い関係が必要なことなど、遊郭のルールやマナーに弥太郎は馴染んでいく。酒の付き合いだけでなく、遊女遊びも長崎出張者にとっては仕事の一部のようなものだが、弥太郎は次第に丸山遊女の魅力の虜になっていく。

周囲に振り回されつつも遊郭通い

2月17日 午後、清語通詞の高尾和三良、下許と共に上銀冶町の小酒楼に行った。高尾はとんでもない酒乱で、酌婦は逃げ出し、弥太郎が暴れるのを抑えた。しかし、下許は笑って手を叩き、酒席で暴れるのを何とも思っていない様子。

2月19日 下許が丸山行きの誘いに乗らないので、中沢寅太郎と二人で津国楼へ。なぜか弥太郎は頭巾で顔を隠し、他人に見られるのをはばかっている(理由は不分明)。常盤野は不在で残念至極。老婆が、14,5歳の「小妓」を弥太郎に、22,3歳の「大妓」を中沢にあてがったが、弥太郎は強引に「大妓」へ交換。ところが「小妓」が中沢に無愛想で、中沢は激怒。「小妓」は泣き、周囲の客は笑い出す。弥太郎が二人を和解させたものの、中沢はその後も収まらない様子。弥太郎は不快で眠れず。翌日「昨夕は愚かで狂っていた」と弥太郎は書いている。

2月21日 下許や浅海琴谷と竹林亭で楊秋平を囲む会に参加。阿園もいたが、宴の後、阿園が歌い歩く横には竹内静渓がおり、弥太郎は思案橋まで後に続いた。浅海と丸山に行ったものの、浅海が津国屋では気乗りせず、花月楼ではなぜか戸口から逃走し、追いかけた弥太郎に刀を向ける始末(理由は不明)。何とか浅海をなだめたが、二人きりでは不安な弥太郎は下許を誘い、多数の女性が陪席して歌と酒。舞妓の名は小みつ。夜の相手は、弥太郎が旧知の千嶋、下許は青葉

弥太郎、丸山での遊びに習熟していく

2月22日 清人と下許と三人で丸山を散歩、花月楼の庭園が見える酒楼で二人の歌娼が来て酒宴。梅園楼の旧知八重。帰り、弥太郎と下許は花月楼の老婦と長話。好みの遊女と遊ぶにはやり手と良い関係を持つことが大事だと理解した様子。

2月23日 下許と二人、二宮塾の川村元吉から招待されて銀冶町の酒楼へ。その後、川村と二人で丸山へ。しかし花月楼にがいないとやり手から聞き、翌日の約束をした。

2月24日 夕方、浅海らの送別会で、下許と丸山浪華楼へ。歌娼小蝶阿月が陪席、宴が盛り上がる中、弥太郎が抜け出して昨日の約束通り花月楼に行ったがは不在、瑞松楼常盤野も不在、やり手の周旋で錦絵との枕席を予約。戻ってまた大酒。浅海と下許と共に津国屋に行くと、やり手は弥太郎だけを招き、二人は閉め出されて戸を叩いた。錦絵は15、6歳で容色が良く柔和。談話中、先日中沢ともめ、弥太郎が仲裁した「小妓」難波江が来て、弥太郎に礼を言った。「一睡」し、夜中過ぎに帰宿。

2月26日 下許と清人林雲逵うんきを誘って丸山の酒楼大小屋に行く。歌娼小種阿月常吉が陪席。弥太郎は歌妓たち、林、下許と共に花月楼へ行くも妓女が不在。津国屋も深夜でままならず、浪花屋で酒。弥太郎は諦めずに瑞松亭と花月楼のやり手と交渉し、念願のとの約束ができたので、弥太郎だけが浪華屋に残って曙と枕を共にした。

2月27日 下許が禁酒をするのでその前に快飲したいと言い、花月楼へ。鶴の鳴き声がする名物の「鶴枕」を見物。下許には瀧之音、弥太郎には旧知の千嶋をあてがわれたが、弥太郎はに「恋情」があり、手紙を書いて呼び寄せ、さらには禿かむろに案内を頼んで曙の部屋に行った。煙管きせるを喫しつつ同郷の千嶋に心を配り、戻ってくれませんか、と弥太郎に頼んだ。弥太郎は引き下がった

2月28日 浅海らを見送り、清人と筆談。夜、外出したいと思いながら果たさず、「痴情は醒めず、寝て夢を見ながら恍惚うっとりとしている」

 弥太郎の日記中には、人名や妓楼の名に(時には地名にも)表記の揺れがあります。妓楼の名については、概ねその場の表記に従っています→浪華屋、浪華楼、浪花屋など。津野国屋、津国楼、津国屋など。人名ではレギュラーメンバー的な中沢の名は「寅太郞」で統一しましたが、他では多くその場の表記に合わせています。地名はできるだけ標準的な表記に従いますが、揺れていることもあり。まとめをする際に再検討します。

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