「弥太郎 長崎蕩遊録」5(3月前半)
遊蕩からの暗転
3月1日 唐人屋敷訪問後、清人林雲逵を誘って丸山浪華楼に行き酒盛り。陪席した歌妓はひで、和歌、小歌、村路。弥太郎は馴染みの千嶋がおらず、「名代」として通い路。林は「妓某を携えて階下に去った」。下許も「留臥」したが、相手は不明。
3月2日 下許から弥太郎へ「遊びすぎで不安なので、禁酒しよう」と手紙が来た。二人で浴場に行って身を清め、天満宮を参拝。その直後、弥太郎は下許を「強引」して花月楼へ。千嶋は今日も不在で緑野が陪席。歌妓は小繁、琴、小瀧、歌路、袖八。歌舞に指相撲で豪遊。歌妓にやり手ちかも連れてかまやに上がり、さらに歌妓数人を呼んだ。浪花楼の老婆に声をかけられてそこでも酒宴。花月楼に戻って雑炊を食べ、歌妓を枕頭に「臥せた」。夜明け近く、下許の呼びかけで起きて帰宿。禁酒の誓いとは何だったのか?
3月3日 浪花楼と花月楼に行き、昨日の「散財」の会計をした。弥太郎は、この朝、土佐藩監察府から下横目の純次と泰吉が来て今井純正を捕縛した、と中沢寅太郎から聞き、自分たちの丸山での所業が問題にされるのではと心配になる。「蕩遊の夢もこれまでか」
3月4日 弥太郎と下許は、これまでの遊蕩が任務の邪魔にならないようにしようと相談、弥太郎が丸山に行って口止めした。浪華楼では、やり手に(土佐藩の警吏から)調べがあっても口外しないよう要請。歌妓袖八、友吉、阿秀が同席。日暮れ後、花月楼の裏門を叩き「老僕」に招き入れられる。満室に明かりが灯り、歌舞音曲で賑やか。一室で旧知のやり手に口止め。歌妓阿勇が陪席、もっと呼んでと催促したが都合がつかず「男げいしゃ」永が三味線を携えて来室。一入という歌妓が飛び入り。酔って帰宿途中、中築楼に寄ろうとして果たせず。とても反省していると思えない。
反省をしながらも、遊び続ける弥太郎
3月5日 夜、弥太郎は昨晩の会計に秘かに花月楼へ。やり手と談話中、知人の中原壮一良らしき声が聞こえ、慌てて庭の木の下まで逃走。その後、明かりを消した部屋に招かれ酒、精神が安らぐ。歌妓小繁が同席。夜中近くに帰って、藩と両親に反省の意を記した。
3月7日 下許、中沢と顔を布で隠して待合楼へ。客がいたので、銀冶町阿山で酒。下許は禁酒中だが、中沢の送別会なので「唇を濡らした」結局、愉快にならず。下許は帰宿、弥太郎と中沢は丸山を散歩、津国屋楼の前まで来て帰った。
3月10日 大小屋楼で下許と清人との酒席に加わる。歌妓小種が同席。下横目泰吉を旅宿から連れ出して待合楼へ。花月楼の「鶴枕」を見に行こうと丸山に誘うと、泰吉が躊躇するので、弥太郎は指を小刀で刺し血をもって口外しないと約束。しかし、花月楼で見物は明日にしてくれと言われ、嘉満楼の歌妓糸路と阿村、並びに阿勇と酒席。歌舞と指相撲。泰吉もすっかり酔う。帰り、やり手が灯火を持って津国屋まで先導。弥太郎は泰吉を送ってから花月に戻り、緑野と同衾。夜明け後に帰宿。
3月11日 下許は弥太郎が昨晩の行動について断りなしだったことに不満の様子。
3月12日 人目を気にしつつ精算のため花月楼へ。歌妓阿勇と酒席。早々に帰宿。
3月13日 下横目二人は土佐へ出発。花月楼で馴染みのやり手に尋ねると、推量通り下横目は二度ばかり調べに来たが、一言も口外しなかったとのこと。歌妓友吉と小蝶、男げいしゃ事八が来室。小蝶が可愛い、春雨一曲を踊る。帰宿後、夜明け前に目覚め、自らの浅ましさを思案した。
3月15日 夜、同宿の隅田敬治、僕利助と丸山を散歩。蕎麦屋で酒。弥太郎は遊女屋に行きたくて恋々とし、心の中で弦の音を響かせた。