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丸山での「色恋」に恍惚、が仕事もする

二月二十七日~二十九日 面白いディテールがあるので、弥太郎の遊女屋での記録を少し詳しく紹介します。この辺りから後、遊女屋における動静が前より多く記されるようになります。

二十七日 雨の中、明け方に浪華楼から帰ると、清人林雲逵うんき「評を乞う」ために以前に書いた文書を清書しました。浪華楼に戻って昨日の会計をした後、下許武兵衛と浴場に行くと、下許は「どうも心気不安定な様子で、ぜひこれからは禁酒することにして、今日は(名残に?)快飲したいから鳥渡ちょっと出かけよう」と言うので、再び浪華楼に赴きました。

 楼で酒を飲み、「鶴枕」なる押すと鶴とそっくりの声を出す細工ものを見物した後、二人は老婦に遊女をあてがわれました。弥太郎には「旧知の千嶋」(二月七日に周旋された。容貌はいまいち、しかし理解力に優れる)があてがわれたのですが、曙に「恋情」がある弥太郎としては不本意です。一度あてがわれると他の遊女に替えるのが難しいようです。

 千嶋と「入房」後も「曙君」に会いたかった弥太郎は、手紙を書きました。曙は「情に厚く、すぐに枕頭に来」てくれましたが、間もなく去りました。弥太郎は諦めきれません。千嶋が寝入った頃合いに、曙の「使令」する禿かむろ(遊女見習い)がそばを通りかかったので、百文銭を与えて曙の房中に案内させました。「燭を点じ」とあるので、楼中は真っ暗のようです。

 寝入っていた曙を起こすと、煙管きせるを喫しつつ談話に応じてくれました。(曙と)千嶋は同じ国の出なので、さすがに心を配り、ここはひとまず千嶋の閨房に帰ってもらえませんかと言った」弥太郎は房に戻り「衣袴」を着て楼を去りました。「すでに真夜中を過ぎ、星が鮮やかにまたたいている(星彩爛)」雨がようやく止みました。

二十八日 久しぶりの快晴。「鶯が鳴き、桜の花が開き、春の気配がたっぷりだ」朝飯後、下許と昨日の精算をした後、二宮塾に赴いて浅海琴谷ら塾生三人の出発を見送りました。寓舎に戻ると、今井純正が桜の花を折って(今井も恐らく二宮塾生の見送りから)帰って来ました。弥太郎は小枝を一つもらい、携えて出かけます。

 まず林雲逵宅に行くと「そばに愛嬌が良く、色っぽい姫がはべっていた。筆を執って(雲逵と)何度も応酬すると、意が通じて心地よかった」そこにひょう?鏡如も来ます。後日の「夜会」での再会を約して辞去し、鏡如の寓居に行くと、詩を二首贈られました。弥太郎は鏡如の速筆ぶりに感心しています。寄宿先に帰るとすでに日が暮れていて、外出しようと思いながら果たせませんでした。夜の間「色恋への思い(痴情)は未だ醒めず、寝て夢を見ながら恍惚うっとりとしていた」

二十九日 朝、また雨。「早起きして会計の記録をした」。中沢寅太郎から「西洋器械フレットモウレンの図面を借りたい」と書簡が来たので、「(砲術家の)中島(名左衛門)氏に赴いて談話を久しうし、図面を携行して帰った」夜には下許と蘭方医の松本良順を訪ねたものの不遇会えず。良順には役所にある「洋外書」のことで頼みたいことがあったようです。


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