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随筆:ランドセル姿を見かけなくなる日 ― 近未来予測 ―

1. 久しぶりに教壇に立って



 定年退職をしてもう年数が経つが、昨年の2022年、久しぶりに私は1学期、ある高校に非常勤講師として勤務することになった。学校に行くと、オンライン授業がいつでもできるように、既に生徒全員がノートパソコンを持っていた。
 
 そして、WiFiに接続できるように、全ての教室には天井に丸いルーターらしきものが備えてあった。さらに、教卓の横にはプロジェクターが常設してあり、教員は自分のパソコンに接続して、作成した教材を提示できるようになっていた。

 また、会議室には4台の電子黒板が置いてあり、教員が授業をする教室に移動して、写真や動画などを提示するためによく利用されていた。時代の変化を痛感した。

2 黒板を使わなくなる日



 現在はまだデジタル教科書の使用は限定的であり、これを使っている学校も、紙の教科書と併用しているようだ。しかし、やがて電子黒板が各教室に設置されれば、教員は黒板に文字を書くこともなく、教科書や教員の作成した資料などは、パソコンを接続した電子黒板の画面上に提示するようになるのだろう。  
 デジタル教科書の教材に手書きで書き込みをしたければ、タッチペンのような機能を使って、手書きの文字や絵も描けるのだろう。鉛筆を使って紙のノートの上に書いている生徒も、その内パソコンやタブレットを授業で全面的に使うようになるだろう。キーボード操作で提示される活字が嫌いな生徒も、タッチペンを使えば自分で書いた文字も画面上に書くことができるだろう。

 生徒たちが各グループに分かれて作業したことも、生徒のパソコンから直ちに電子黒板上に映し出され、教室にいる全員が見ることができる。教科書を見るだけでなく、書き込みをしたり、宿題もパソコンやタブレット上で行い、インターネットから学校のサーバーに繋ぎ、宿題も指定された所に出すようになるだろうか。

3 20XX年の学校



 もう既に、こたつ、火鉢と言っても、いったい何の事か分からなくなった若い人も多いだろう。同様に黒板、チョークと言ってもそれは、もうすぐ死語のようになるのではないだろうか。

 20XX年のある日、年配の教員が生徒に向かって動画を見せながら、次のように説明するのではないか。
 
 「このように数十年前は、黒板と言って教員が木の板の上に向って、チョークという丸く細長い白い固形物を使って、絵具のようにその板に白い粉を塗り付けるようにして文字を書いていたんだ。生徒は紙を束ねたノートという物の上に、鉛筆と呼んでいた物で書いていた。それは、細長い芯と呼ばれる黒鉛の黒い棒の周りを、粉末状の木片で巻き付けた物でできていた。その鉛筆の先端を鉛筆削り機という機械で円錐状して、その尖った先を紙の上にこすりつけるようにして文字を書いたんだよ。」

 その時には、大きなランドセルを背負った小学生の姿は、もう見かけないだろう。

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